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92 頻度を考えよう


「ただいま〜」

「「「おかえり(なさい)」」」


次第に日が暮れ始め、夜の暗さが訪れ始めた家にようやく帰ってきたノアは晩御飯を作っている妻たちと挨拶を交わし、そしてすぐさま子供達のもとに駆け寄った。


「みんなただいま〜。ちゃんといい子にしてたか?」

「ぶ〜」

「ふん!ふん!」

「にゃ?」

「……」

「おーおーみんな元気で何よりだ」


ノアが子供達に声をかけると、子供はそれぞれの反応を見せ、ノアの心に安らぎをもたらした。


「可愛い子供達に可愛い嫁さんたちに。俺、前世でどんだけ徳積んだ…?」


今の幸せを噛み締めると同時に前世の自分の素晴らしさについて疑問を抱き、嫁さんからはいつものような呆れた目を向けられる。


「もう、何言ってるんですか」

「ノアは相変わらずだね〜」

「前世で徳を積んでようと積んでなかろうと私たちはあなたと結婚したし、子供達だって可愛いわよ」

「…!!」


いつものように「何言ってるんだか…」みたいな反応をされるかと予想したのだが、存外三人からは良い意味での呆れ方をされていたようで、ノアはどことなく高揚感を感じた。


「フッ、それもそうか…。何せ俺はスーパー天才魔法使いだからナッ」

「さ、ご飯できましたよ〜」

「あ!私お皿並べるね!」

「お願いするわ」

「…」


ま、ここはいつものように無視されただけなので何も思わない。


それより今はこの素晴らしい妻たちの料理が食べれるということで腹が高鳴っていて、もう今か今かと待ち望みつつ席に着いた。


そして数分後には料理が食卓に並び、四人は同時に手を揃えて手を合わせた。


「「「「いただきます」」」」


その直後ノアはいつものように料理に手を伸ばして最高の美食を堪能しようとしたのであったが、それはフェリスの言葉によって止められてしまう。


「あ、そういえばノア、手紙が届いてたわよ」

「手紙?誰から?」

「誰って、レノスさんからよ。毎月届いているでしょう?」

「あ、そうだった」


(もうそんな時期か)とか考えつつ、ノアは自分が送った手紙の内容を思い出した。


「今月は確か…未だにアノスが抱っこさせてくれないのと、メアリーとリーリアが仲良しなのと、セリアがよく寝る子だってことを中心に書いた気がするなぁ」


ノアは自分の書いた内容を思い出しつつ、ようやく箸の手を動かし始めた。


だがその直後、疑問を持った妻の発言が飛んできたためまた手が止まることになる。


「へー、ノアの手紙にはそのような内容が書かれていたんですね」

「そういえば、セリーとアメリアはこの手紙が何なのか知らないのか」


セリーやアメリアはノアとレノスの約束など知るはずがないため、ただ毎月親と手紙を送り合っているということしか知らなかった。


だがたった今その謎が解明されたため、彼女らは興味がありそうに目を輝かせてこちらを見つめてくる。


「ちなみに、その手紙にはどういった意味があるんですか?」

「あ、私予想するね!その手紙には…きっと家族愛を確かめるっていう意味があるね」


アメリアはまるで名探偵のようにキリッとした目で予想したのだが、この予想があながち間違いではないためノアは思わず一瞬目を見開いてしまう。


「おお、半分ぐらい当たってるな」

「え?そうなの?やった」

「ちなみにどういう意味で当たっているのですか?」

「家族愛を確かめるって言い方だとなんか堅苦しい気がするんだが…。まあ、俺は毎月家族に色んな言葉で愛を伝えているから、そこは正解だな」


ノアはアメリアの答えに対するフィードバックをし、セリーとアメリアを納得させたのだが、ここで鋭いセリーさんはある疑問に辿り着いてしまう。


「では、他にも意味があるということですね?」


セリーはノアの「半分」という言葉が引っかかっているようで、興味津々でそのような質問を投げかけて来た。


それに対してノアは特に誤魔化すでもなくただ頷き、次にセリーの質問に対する答えを告げた。


「ああ。この手紙には他にも意味がある。まず一つは、俺と父さんたちの近況の確認。俺は旅の状況とかを報告して、父さんは家族たちの状態などを報告する」

「つまり、家族たちの()がどのような状態かを確認して互いに向こう側の心配をし過ぎないようにするということね」

「ああ」


この手紙の事情を知っているフェリスが補足で説明をしてくれたため二人にもかなりわかりやすく伝わったようで、二人ともが納得したように頷いている。


「へー、そんな意味があったんだ」

「確かに家族が手が届かないぐらい遠くにいるとどうしても不安になってしまいますね。私も子供たちが遠くに旅立ってしまったら不安で仕方ないです」

「そうだねぇ。私も手紙書こっ」


セリーの言葉で親の気持ちというものを理解したアメリアは今日にでも手紙を書いてみようと考え、意を決したように拳を握った。


そしてノアはその風景を見ながら水を一口飲み、直後にもう一つの意味について言及した。


「で、手紙にはもう一つ意味があるんだ」

「まだあるの?」

「ああ。これも結構重要なことだ」


ノアはあの時レノスに言われた言葉を思い出しつつアメリアとセリーに向けて言葉を放った。


「その意味は…生存確認だ」

「「!!??」」


ノアが話した途端場の空気は一瞬にして凍りついたが、それを溶かすようにノアが補足で説明を始めた。


「俺は父さんと三ヶ月手紙が届かなかったら死んだとみなすって約束した。結局のところそれが一番気になることだからな」

「た、確かにそうですね…。生死は家族にとって一番重要なことですね…」

「私今すぐ手紙書かないとっ!!!」

「今ご飯中だから後に…って聞いてないな」


アメリアは背筋から冷えたものを感じたのか、顔を真っ青にしながら自室に戻って行った。


「まあ家族が生きているかどうかというのは何にも変え難いぐらい大切なことだものね。アメリアの気持ちはすごくわかるわ」

「しばらく届がないと不安だよなぁ…」

「しばらくですか…彼女、毎週のように手紙を交換していたような…」

「え???」


セリーから聞かされたアメリアの行動に対してノアはつい口を大きく開いて驚き、困惑を表情に表しながらセリーに質問を投げる。


「毎週…?そんなに手紙出してたのか?」

「はい…。色々と相談したいことがあるらしくて、悩みが出る度に親御さんに手紙を出しているようですね」

「最近は親としての在り方とか子供の育て方とかに悩んでいるようね…そのせいか最近は三日に一回ぐらいは書いている気がするわ…」

「…」


(その頻度で不安になってたの???)


普通そんなに出さないだろ。手紙は。


そんな自分の中の常識をぶち破ってきてアメリアに対して心の中で少し呆れたような目を向けるが、今ここに彼女はいないためそれは意味をなさない。


というわけでもう知らなかったフリをするのが一番平和だと結論づけたノアはそのまま料理に手をつけ、わざとらしく声を上げた。


「これうまいなぁ!!世界一の絶品だぁ!!」

「…まあ、気持ちはわかりますよ…?」

「私も、こればかりはあの子を擁護できないわね…」

「…やっぱそうか…?」

「ええ…」

「はい…」


どうやら二人も今回ばかりはこちらの味方らしく、アメリアの家族に対する気持ちの重さと親御さんの負担についてしっかりと頭を巡らせた。


「今度、アブストさんとヒストリアさんに手紙で謝っとく…」

「お願いするわ…」

「まああの人たちなら【娘がたくさん頼ってくれてて嬉しいから大丈夫だよ】とか言ってきそうだけど」

「それでもアメリアちゃんのご両親は一介の貴族なのですから、お忙しい中返答を書いてくださっているでしょうし…」

「「それはそう(ね)」」


貴族の出身である二人は今まで多忙な親たちを見てきたためすぐに共感を示し、同時にアメリアの行動をすぐに緩和させるべく行動に移すのだった。


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