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88 手伝い


「おはよ〜」

「おはよう(ございます)」


ある休日、ノアはいつものように目をこすりながらリビングに入って朝食の支度をしているフェリスとセリーと挨拶を交わし、次に息子たちの元に向かった。


「みんなおはよ〜。今日も朝から元気だなぁ」


アノスたちは今日も朝から元気そうに手足を動かしていて、ノアは言葉にはし難い幸福感を感じていた。


「よし!今日こそは絶対にアノスを抱っこしてやるからな!!覚悟しとけよ!!」


可愛い子供たちから元気をもらったノアは朝からテンションを上げてアノスに指を刺した後、フェリスの心配の言葉を耳に入れた。


「ねえ、そういえばアメリアはまだ寝ているのかしら?」

「あー、アメリアならまだ寝てるよ。最近色々忙しかったから疲れてるんだろ」


昨晩はフェリスとセリーが子供と共に過ごし、ノアはアメリアと二人きりで夜を過ごして。


そのため当然今朝はアメリアが隣にいたのであるが、今日は珍しくノアが先に起きたのであった。


アメリアもあまり朝に強くはないが、それでもノアよりは早起きな為今までにこんなことは無かった。


だからこそフェリスやセリーもアメリアのことを心配していて、それはノアも同じであった。


「心配ですね…。アメリアちゃんは普段ああいう態度を取ってますけど、普通に一人で抱え込んだりする人ですからね…」


アメリアは基本的にみんなを巻き込んで様々なことをするのを好む人間である。


それは遊びだけでなく大切な話や相談事もそうであるのであるが、たまに本気に悩んでいることを一人で抱え込んだりするタイプなのであった。


三人はそのことを心配し、今日はじっくり休ませてあげるべく様々なことについて話し合い始めた。


「よし、今日は俺も色々手伝うわ。今日ぐらいはアメリアにしっかり休んでもらいたいし」

「そうね。たまには一日中何もしなくても良い日を作った方がいいかもしれないわね」

「じゃあノアには何をしてもらいましょうか」

「そうね…ならまずはここにお皿を並べてもらえないかしら」

「おっけ〜」


ノアは一つ返事で承諾し、早速二人の近くで皿を並べ始めた。


するとセリーはなぜか嬉しそうに笑みを浮かべた為、ノアは頭の上に?を浮かべた。


「ん…どうして笑ってるんだ?」

「いえ、特に深い意味はありません。ただ何というか、新鮮だなと思いまして」

「確かに、ノアがこうやってキッチンを歩き回っているのはかなり珍しいわね」

「言われてみればそうかもな」


ノアはいつもフェリスやセリーが料理をしている時に手伝いを申し出て少しでも貢献しようと考えるが、いつもそこにアメリアが入ってきて「私がするからゆっくりしてて」と言ってくる為ノアは普段キッチンに出入りすることは無かった。


だが今こちらを妨害してくるアメリアはいない為、ノアは珍しくキッチンに立っているのであった。


そしてその姿が二人の目には新鮮に映るらしく、嬉しそうに笑いながら手を動かしている。


「たまにはこういうのも良いわね。夫婦で共同作業って感じがして」

「ふふ、その言葉を聞くだけで何だか嬉しくなっちゃいますね♡」

「それぐらいで喜んでくれるなら俺はいくらでも手伝うよ。今日だけじゃなくて、これからも」

「「それはダメ(です)」」

「えぇ…」


ノアは完璧なタイミングでこれからは毎日共同作業をすることを提案したのだがあっけなくそれは却下されてしまったため、今度は少し強めに勝負に出ることにした。


「前から気になってたんだけど、どうしていつも手伝おうとしても却下してくるんだ?俺はただみんなの負担を減らしたくて提案してるだけなのに」


ノアは率直に自分の気持ちを二人に説明し、二人の行動を待った。


フェリスとセリーはお互いに目を合わせてアイコンタクトをとって意思疎通をした後、こちらを向いてワケを話し始めた。


「あなたが手伝ってくれようとしている気持ちは有難いのだけれど、あなたは以前に過労で倒れたことがあるわよね?私たちはそれを心配しているの」

「ノアは優しくて誠実な人ですから、私たちが止めないとお仕事で疲れたはずの身体でも私たちのことを手伝おうとしますよね。その気持ちは本当に嬉しいのですけれど、あなたの健康管理の責務を負う立場からすればそれは容認できません」


二人は割と真っ当な理由を述べてノアを止めようとするのだが、ノアはそれでも共同作業という魅力的な行為を普段からしたい為、一歩も引くことなく意見を述べた。


「いや、俺は前の一件で自分の身体には気を使うようになったから大丈夫だよ。しんどい時は休ませてもらうし、大丈夫な時は手伝う。そういうのでもダメか?」

「「…」」


ノアの言葉を聞いた二人は目を見合わせてどう答えるべきかを考えていた為、これはあとひと押しでいけると感じ、ノアはさらに言葉を紡いだ。


「それに、最近はみんな子育てとかが忙しくて全然休めてないだろ?」

「そんなことはありませんよ?」

「いーや、俺にはわかる。フェリスもセリーも、そしてアメリアも、みんな疲労を溜め込んでる。二人だって、最近はよく眠れてないんだろ?」

「そ、そんなことは…」

「俺は毎日飽きるほどみんなのことを見てきた。だからこそ小さな変化にも気づける。そしてフェリスもセリーも、最近ウトウトしてることが多い。これが何を表すかを考えるのは簡単だったよ」

「「っ…」」


二人はとうとう反論もできなくなって、ノアの言っていることが事実であることを認めてくれた。


「まあ…最近少し眠りが浅いのは事実ね…。でもだからと言って、わざわざあなたの手を煩わせるほどのことでは…」


フェリスはどうしてもこちらに無理をさせたくないのか、事実を認めた上でもこちらの提案を否定してくる。


だがそちらがその気ならこちらにも考えがあり、ノアは少し口調を強めて半ば説教をするかのように口を開いた。


「いや、フェリスは間違ってるよ。フェリスの言い方だと、俺は疲労を溜めたらダメだけど、自分達はいくらでも溜め込んで良いってことになる。俺はそんなこと絶対に許さない」


ノアは今まで二人に言ったことがないような言葉を話して自分の本気度を二人に伝える。


「夫婦なんだからさ、互いに支え合わないとダメだろ?一方的にしてもらう側になんて、俺はなりたくない。だからさ、二人も手伝って欲しい時は遠慮せず言ってくれよ。しんどい時はちゃんと断るからさ」


ノアの発言を聞いた二人はまた互いに目を合わせて自分達の気持ちを整理した後、こちらに目を向けて軽い笑みを飛ばしてきた。


「ふふ、そうですねっ。私たちは夫婦、ですからねっ」

「支え合って生きていかないとまたノアみたいになってしまうから、私たちもちゃんとノアに協力してもらうようにするわね」

「ああ、そうしてくれ」


二人はノアの意見に納得してくれ、そのままの流れでノアに指示を飛ばし始めた。


「よし、じゃあお皿を並べ終えたら盛り付けを手伝ってくださいっ」

「任せろっ」

「火傷には気をつけるのよ」

「大丈夫だ!俺はこの程度じゃ火傷しねぇ!!」


ノアはそう意気込んで盛り付けに挑戦し、無事火傷手前までやらかしたのであった。


それにしても、アメリアはいつ起きて来るのだろうか?


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