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86 調子


三人と共に水のかけ合いをした後、ノアとフェリスは一旦戦場から手を引き、二人で森の中のテント付近に向かった。


「ふぅ…面白かったな」

「そうね」


ノアは先程までのことを思い出しつつテントから折り畳まれた椅子を取り出し、それをサッと広げてフェリスの座る場所を作ってあげた。


「どうぞ」

「ありがと」


フェリスはその厚意に笑みを向けた後椅子に腰をかけ、ノアも自身の椅子を広げてそこに座り込んだ。


「いや〜やっぱこっちの方が涼しいなぁ」

「流石は大自然といったところね」

「だなぁ。まあ暑いことには変わりないけど」


先程までは楽しさのあまり忘れていたが今日は日差しが強く、日陰にいても暑さを感じるほどであった。


そのためノアは一度みんなに休憩をすることを提案したのだが、アメリアとセリーはもっと遊びたいらしいので放置してきたのである。


だがしかしやはり心配というものは湧いてくるもので、ノアは海の方に向かって惨敗の目を向けた。


「二人とも、大丈夫かねぇ」

「流石にセリーがいるからそこら辺の管理は怠らないでしょうけど…アメリアが一人で行動し始めたらと考えるとかなり不安ね」


ノアも同じ考えを持っているためフェリスの言葉に頷くが、腐ってもアメリアは魔法学院の卒業生の為、そこまで不安がる必要はないだろう。


そういう考えに至ったノアはあまりそういったマイナスなことばかりを考えるのはやめにして、ただ楽しむことを意識してフェリスに笑みを向けた。


「まあ大丈夫だろ。何せアメリアとセリーは俺が選んだ最強の美少女なんだから」

「美少女、関係ある?」

「勿論あるよ。美しいってのは全てを解決するからな」

「ふーん…そう…」


ノアが半分ぐらいふざけたことを言ってから話の流れを変えようとすると、フェリスはなぜか期待したような視線を向けてきて、次に小さく言葉を放った。


「ちなみにだけど…それって、私も当てはまる…?」

「え?当たり前だろ」

「!!!」


フェリスは若干不安な気持ちを抱えつつ質問を投げたのだが、ノアは一切の曇りなき視線を向けて言葉を返した。


そのさも当たり前のことを言ったに過ぎないような目を見て、フェリスは驚きと喜びを交えた表情を浮かべた。


「そ、そうなの…?♡」

「そりゃそうだろ。フェリスが世界一の美人だなんて当たり前のことだろ?」

「!!??」


ノアは平気で滅茶苦茶恥ずかしいことを言ってくる為フェリスは心臓をドキッと跳ねさせ、ついにはノアの顔も見れなくなった。


「…♡」


だがしかし恥ずかしさよりも嬉しさの方が勝っていて、つい反射的にノアの手を握ってしまう。


「ど、どした…?」


するとノアから怪訝そうな目を向けられてしまい、フェリスは焦りながらノアのから手を引いた。


「えっ!?あ、いや別に…何もないけど…」

「ふ〜ん…そっか」


フェリスのやってしまったという表情を見てノアはフェリスの乙女心をなんとなく察し、すぐにこちらからフェリスの手を握った。


「!?」

「なんか今のフェリスは…恋する乙女みたいで可愛いな」


いつも何歳も年上かと思わせるような言動をしているフェリスが、今は年頃の女の子みたいな反応を示していて、ノアはつい本音を言葉に漏らしてしまう。


するとフェリスはとうとう真反対の方を向いてしまい、こちらの方を見向きもしなくなった。


(これは…どっちだ…?)


フェリスの反応を見てノアは心の中で彼女が何を待っているのかを考える。


(そっとしておいて欲しいのかそれとももっとグイグイきて欲しいのか…わかんねぇな)


何せフェリスの顔が見えない為、こちらから得られる情報が圧倒的になりないのであった。


だからノアは頭を悩ませているのだが、ここで過去のフェリスの行動を思い返した。


(確か前にグイグイ攻めた時は…なんか訳わかんない反応してたよな…)


前にフェリスに対して思い切り攻めた時、彼女は嫌がりつつもどこか嬉しそうな表情を浮かべていた為、フェリス自身がどのように思っていたのかは未だに不明であった。


ただ一つだけ確かな事実は、仮にこちらが何か変な行動をしたとしてもフェリスはかならず受け入れてくれるということだ。


それぐらいは長年共に居た経験から学んでいる為、ノアは自身の胸を軽く叩いて決意を固めた。


(いや、絶対大丈夫だ…フェリスならきっと…!)


全てを受け入れてくれる。


そう信じてノアは一度椅子から腰を上げた後フェリスの背中から手を伸ばした。


そしてそのまま軽くフェリスの身体を抱き寄せ、妻の温かい体温を肌で感じた。


「!!?…ど、どうしたの…?」

「フェリスが可愛過ぎてつい」

「……!!」


ノアの考えの通り、フェリスは全く嫌がることなくこちらを受け入れてくれたが、一向にこちらを向く素振りをみせない。


その反応でフェリスが恥ずかしがっていることを察することができた為、ノアは何処かからかイタズラをしてやろうという念が湧き上がってきた。


(…いつもの仕返しだっ)


目の前にいる妻が可愛過ぎて全く頭が回らなくなったノアは自分の中でそういう言い訳を作りつつ、手を使ってフェリスの顔を強制的にこちらに向けさせた。


「!?…」

「お、やっぱめっちゃ赤くなってる」

「やめて…」


フェリスはせめて視線だけでもと目を逸らして恥ずかしさを和らげようとし、さらに言葉でもノアの行動を否定しようとした。


だがしかしそのような言動をされるとノアの悪戯心はさらに刺激されてしまう為、今はノアは先ほどよりもさらに悪さをしてやろうという気持ちが湧き立っていて。


「いーや、やめないよ。だってもっとフェリスの恥ずかしがってる顔が見たいから」

「…いじわる」


フェリスそれがノアの心に刺激を与えているとも知らずに涙を流しそうな表情をし、ノアはとうとう自身を制御できなくなり、ほぼ反射的に唇を奪った。


「!!!???」


フェリスは一瞬驚いたように目を見開いたが、意外とすぐにこちらのことを受け入れてくれ、目を瞑って身を託してくれた。


「…もしかして、期待してたか?」


フェリスの表情を見て直感的に感じたことを言葉にしてみると、フェリスは完全に視線を逸らした為図星だということがわかった。


「はは、可愛いな」


ノアはいつものように優しく口付けするが、フェリスはもういつものような態度にはなれず、ただされるがままになってしまった。


そんないつもとは真逆の状況に立ってみてノアは何とも言い難い心の昂りを感じ、ずっとこのままいたいとも思ったりもした。


だがしかしこの妻がそのようなことを許容してくれる筈がなく、彼女は三回目ぐらいのキスでとうとうこちらに手を伸ばしてきて距離をとってきた。


「ん、どした?」

「だめ…これ以上は…よくないから」

「えー、別にいいじゃん。誰かが見てるわけでもないんだしさ」

「それでもダメなものはダメなの…」

「いや、そこを何とか〜」


ノアは調子に乗りつつフェリスに言い寄るが、フェリスはいよいよ我慢の限界らしく、キリッと眉間に皺を寄せてノアの身体を思い切り引き剥がした。


「え、そんなに嫌だったか…?」


あまりに唐突な冷徹な扱いに対してノアはついやり過ぎてしまったかと心の中で反省しつつフェリスに謝ろうとする。


だがフェリスはそんな言葉は求めていないらしく、ただ自分の意見だけを話し始めた。


「ううん、嫌だったわけではないのだけれど…その、今は二人とも水着じゃない…?ノアは今上半身が裸だからその…気恥ずかしくて…」


フェリスは視線をチラチラと彷徨わせつつ先程の行動についての話を続ける。


「それに…さっきはいつもより強引だったから、驚いてしまって…」


フェリスがいつもは見せないような表情をしていて、それを目の当たりにしたノアは心の底からやらかしてしまったことを自覚した。


(やっべぇ調子乗り過ぎた…!)


ノアは心の中の焦りを見せないようにフェリスの近くに迫り、そのまま勢いよく頭を下げた。


「ごめんなさぁぁぁい!!!!」


これも夫婦円満のためには必要な行為だと死ぬ気で頭を下げ、数分後にようやく許しをいただくのであった。


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