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85 選びたくない


「いきますよ…!」


ノアはなんとか下心を制御してセリーに魔法を教え終え、セリーは魔法をみんなに披露しようと魔力を手に集め始めた。


その姿を魔法強者であるフェリスとアメリアも見守っていて、祈るように初心者の姿を見つめている。


「がんばれ…!」

「あなたなら大丈夫よ…!」


そんな風に先輩に見守られる中、セリーは特に緊張する素振りもなく魔法を行使し始めた。


「…!!!」

「おお、いけそうだな」


セリーが謎に身体に力を入れ始めたところで近くの海水が意思を持ったように動き始め、三人はゴクリと固唾を飲み込んだ。


その直後、海水はセリーの指示を聞いて渦を巻いて上に登り始め、それを見た三人はセリーに対して驚きを交えた笑みを向けた。


「お〜!!すごいよセリーちゃん!」

「やっぱりセリーは才能の塊ね」

「セリーがすごいのはそうだけど、やっぱ教えた人がよかったんだろうなぁ」


ノアは誇らしげに胸を張り、完璧なドヤ顔を空に披露した。


その姿を妻たちはジト目で眺めており、呆れたようにため息をついてから言葉をかけてきた。


「まあ、そういうことにしておきましょうか」

「確かに教え方が上手かったのは事実ですし…」

「でも教えた人ってこの魔法使えないよね?」

「…アメリア、それは言わなくていいやつ」

「あ、そうなの!?ごめんねっ」


やはり余計なことを言うのはアメリアであり、ノアは遠い目をしながらアメリアの言葉でしっかりとダメージを受ける。


(うっ…これだから無自覚系美少女は…!でもまだ致命傷だから問題ない!何もなければ…!)


ノアはしっかりとフラグを立てつつアメリアの悪口に耐え、なんとか立った姿勢を保った。


「ふぅ…全く、あんま余計なこと言うとセリーが俺のことを天才だと思っているイメージが崩れちゃうだろ?」


ノアがふざけてそのような発言をすると、アメリアが不可解そうな目をしつつセリーに質問を投げた。


「天才…?そう思ってるの?」

「はい、思ってますよっ」

「え、そうなの?」


アメリアの質問に対してセリーは笑顔で頷き、この会話の元凶であるノアもつい驚いて目を見開いてしまう。


「流石に冗談のつもりだったんだが…」

「そうなんですか?でも私は本気でそう思ってますよ?」

「セリーちゃん、チョロいってよく言われない…?」

「チョロい、ですか?ん〜…言われたことないですね。どうしてそのような質問を?」


セリーが本当に何も理解していない様子で質問を投げ返すと、フェリスとアメリアはすぐにセリーの隣に立って肩に手を置いた。


「ううん、あなたは何も気にしなくていいわ」

「セリーちゃんはそのままでいてね…」

「本当にどういうことですか…?」


フェリスとアメリアは可哀想な生き物をを見る目でセリーを見ていて、流石にそれに気づいたセリーは疑問をさらに深めた様子だった。


だがしかし誰もそれに答えることはなく、そのまま数秒時が流れた頃にアメリアが声を上げた。


「さーて!セリーちゃんも魔法が使えるようになったことだし、早速魔法を使って水かけ勝負しよ!」

「おおぉぉぉ!!!!」


アメリアの言葉にノアはつい大袈裟に反応してしまい、反射的に拳を掲げながら大声を上げていた。


だがしかしこれ自体はただ海を楽しもうとしているだけの普通の人間であるため問題はない。


それよりも問題なのは、フェリスから感じるジト目であって。


「あなた、水の魔法なんて使えないでしょう?私たちと一緒にいたらケガするわよ」

「確かにそうですね…ノアはやめておきます?」

「え、それは無理」


こんな最高のシチュエーションを前にして遠くから眺めていろと?


そんなことが出来るはずなどないため、ノアは必死になって三人の中に混ざろうとする。


「俺だってみんなと海を楽しみたいんだ。だから俺は死んでも混ざるよ」

「死んでもって…流石に死んじゃったら元も子もないよ…」

「なら、私がノアのことを守りながら闘いましょうか?」

「はいお願いします」


セリーの世紀に一度の極上の提案にノアはすぐさま乗り掛かり、セリーの背中に隠れて二人のことを敵視した。


だがしかし、それに関してはしっかりと二人から指摘が入ってきてしまう。


「セリーにはまだ人を守りながら闘える程の経験がないでしょう?せめて私かアメリアの側にいるべきよ」

「そうだね。私とフェリスちゃんならノアのことを守りながらでも余裕で戦えるよ!」

「おお、頼もしいな」

「むう…仕方ないですか…」


二人にノアのことを取られるとなった瞬間にセリーは不満そうに頬を膨らませたが、アメリアみたく子供ではないためすぐにノアから手を引いた。


そして次に問題になってくるのは、誰がノアを守るかということであり、二人はそれについての話し合いを始めた。


「で、どっちがノアと一緒に戦う?」

「そうね…私的にはノアが好きな方を選べばいいと思うのだけれど、どうかしら?」

「お、いいね〜」

「え」


話の流れでノアが二人の妻のうちどちらかを選ばないといけないという状況になってしまい、つい一歩後ずさってしまう。


「じゃあノア、私とアメリアのどっちがいいか選んで頂戴」

「…」


フェリスもアメリアも期待の眼差しをこちらに向けてきていて、ノアは今までにないほど頭を悩ませた。


(これ…どっちを選んでも死ぬじゃねぇか…でも選ばないわけにもいかないよなぁ…)


二人とも普通に嫉妬とかしてくるタイプであるため、もし自分じゃない方を選んだら普通に妬みの視線を向けられるであろう。


まあそれだけで済むなら普通にどっちかを選ぶけどね。それだけで済むなら。


(いや、ここでどっちかを選びでもしたら選ばれなかった方が絶対ガチになって戦い始めるだろ…)


元々和気藹々と楽しむための遊びのつもりだったが、今回の選択のせいでピリピリした本物の戦争のような空気感が流れ始めるかもしれない。


それに気づいたノアは余計にどちらかを選ぶことが出来なくなり、ノリノリだった自分を恨みつつどうすべきかを考えていた。


だがしかし、どうやらノアには考える時間はないらしく、二人は近くに来てこちらの目を覗きながら話しかけてきた。


「ねぇ、早くしてよ」

「どっちでもいいのよ?別に私はアメリアのことを選んでも恨んだりしないし」


フェリスは発言の通りあまり人のことを恨んだりすることはないが、それはあくまでも表面的な話でしかない。


彼女は意外と心は繊細なタイプであるため、表情に出さないだけで意外と恨んだりする人なのである。


(…!選びずれぇ…!)


特に親しい人相手には気兼ねなく嫉妬してくる人が近くにいるため、ノアは判断を鈍らせた。


だがしかしここで黙っていては今度は二人から恨まれることになりそうな気がするため、身を投げる程の覚悟を決めて二人の目を見て話し始めた。


「じゃあ…フェリスにお願いしようかな…」

「そ、そう…?♡」

「ふーん、ノアはフェリスちゃんを選ぶんだ」


やはり予想通りといった感じで選ばれなかった人は頬を大きく膨らませて口を尖らせてしまった。


だがアメリアはあくまでその程度の嫉妬しかしてこないため、これが最善という判断をしたのであった。


(ごめんアメリア…いつか絶対埋め合わせするから…)


自分でもよくない考え方で選んでしまったことを自覚しているため、今度美味しいスイーツ屋にでも連れて行ってやろうと考えつつフェリスの手を取って海に向かって行った。


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