84 魔法指導
「きゃっ!も〜!やったな〜?」
「あ!魔法はずるいですよ!」
「大丈夫だよ!ちゃんと手加減するから」
「ちょ、あなたこれ私も巻き込まれ__」
ザバァァァン!!!
アメリアが魔法を駆使して二人にかなりの質量の水をかけ、静かなビーチにはとても人間がたてた音とは思えない音が鳴り響いた。
その傍らで、三人の美少女のことを真剣な目で目で見つめる変態が一人。
「ん〜…いい景色だねぇ…」
その変態は自腹で購入したビーチチェアに寝転がってサングラス越しに三人の遊び姿を眺めていて、それだけでビーチの素晴らしさというものを実感していた。
「ちょっと、やりすぎよ」
「あはは…ごめんね。ついはしゃぎすぎちゃった」
「気持ちはわかりますけど、私は魔法を使われるとどうする事も出来ませんので、そこを配慮してくれると助かります」
「それに、あんな魔法を何回も使っているといつか彼に裸を見られるわよ?」
「!!?」
フェリスが魔法によって水着が脱げてしまうことを想定してアメリアに注意をすると、アメリアは頬を赤くしつつも納得したように頷いた。
「た、確かにそうだね…。気をつけるよ…」
「わかればいいんです」
このようにして三人は魔法を使わない条約を締結させたわけだが、それには大いに反対である人物もいて。
「いや、使おうぜ、魔法」
三人の話を聞きつけてこれは黙っていられないと変態が美少女たちの元に歩いていき、そのまま先程の条約についての話を始めた。
「だってそっちの方が全力で楽しめるだろ?今回はそういう旅行なんだし、魔法は存分に使っていこうぜ」
「で、でも私は使えないのですが…」
「それに関しては俺が教えるよ。魔法を覚えながら実践で使うのも滅茶苦茶楽しそうだし」
「おお…それは確かに面白そうだね!」
魔法大好き星人であるノアとアメリアはセリーに魔法を教える気満々で深々と頷いている。
(よし、このままいけそうだな)
ノアの下心など誰も知らず、このまま魔法でパラダイスな光景を__
「確かに面白そうだけれど…本当に理由はそれだけかしら?」
三人は魔法を使う方向で合意しようとしていたのだが、勘のいいフェリスはどこかが引っかかるらしく、眉間にシワを寄せながらこちらに質問を投げてきた。
だがしかしそれは想定済みなため、ノアは自信ありげに完璧な言葉を返した。
「ああ、もちろんだとも。俺は単にみんなと最高の思い出を作りたいだけだヨ」
「ん…何か引っ掛かるわね…」
ノアの話し方がウザかったのか、フェリスは未だに疑念を抱いているが、そこで押し切るのがノアという人間である。
「別にいいじゃないか。仮に何か下心があったとしても、俺たちは永遠を誓った夫婦だ。普段から全てを曝け出しあっている間柄じゃないか。だからそこまで心配する必要はないだろう?」
「そ、それもそうかしらね…」
よし、いけるぞ!
本当にあとひと押しでいけると感じたノアはフェリスの両手を掴んで思考力を低下させる作戦に出た。
「そうだよ。俺は本当にみんなと永遠に忘れられないぐらい楽しい思い出を作りたいだけだよ。だから、フェリスのも協力してくれないか?俺と、俺たちの未来のために」
最後の方は飛躍しすぎな気もするが、お互いに布面積がいつもより小さいという状況のせいでフェリスの思考力は低下しており、それに気づかずに首を縦に振った。
「うん…わかったわ。一緒に、最高の思い出を作りましょう」
「おお!」
フェリスは疑問が晴れたかのようにニコリと笑い、ようやく納得してくれたことがわかった。
そこでノアは心の中で胸を撫で下ろし、気持ちを切り替えて魂を燃やすことにした。
「よし!じゃあ早速俺はセリーに魔法を教えるわ」
「お願いします」
「私たちは新しい魔法でも試してみる?」
「あ、いいねそれ!ノアを倒せるような強力な水魔法を考えないと!」
「え」
なんかアメリアが不穏なことを言っていたような気がするが、流石に冗談だろうと考えてすぐに視線をセリーに戻した。
「さて、まずは海水を利用して波を起こす魔法でもやってみるか。応用すればさっきのアメリアみたいな使い方もできるからな」
「それは面白そうですね。やってみましょうか」
ノアはセリーに身体を寄せ、コツを教えるために白くて柔らかい肌にボディタッチをした。
そこで気づいてしまった。セリーは今そこそこ大胆な水着を着ているため、夜に家でしか見れないようなあんなところやこんなところまでが見えてしまうことに。
(な、なんという絶景だ…)
セリーの雪のように白い肌を眺めつつ、心の中でセリーの素晴らしさを熱弁する。
(それにこの柔らかさ…!まさにツヤツヤモチモチ肌だ…!マジで食べれそうだ…!)
餅か何かと錯覚してしまうぐらいに綺麗な肌に対してノアは邪念を抱くが、それがバレるわけにはいかないことに気づき、ノアの中の制御装置が作動した。
(いやダメだ…!ここで一切下心がないことを見せねぇと…!)
そうでないとまた面倒臭い展開になるのは目に見えているため、自我を殺して真剣にセリーに魔法の指導をし始めた。
「よし、まずは昨日みたいに魔力を手に集めるイメージを作って」
「はい、わかりました」
セリーは自分の身体をチラチラ見られているとも知らずに流れるように魔力を手に集めた。
「できました」
「流石だな。なら次はその魔力を海水の一部に均等に振り分けてみよう」
「き、均等に…ですか…?」
「ああ」
昨日練習した魔法とは感覚が違うため少し戸惑っている様子であるが、セリーは積極的にチャレンジする人間であるためなんとなくで魔力を放出した。
「こうでしょうか…?」
次の瞬間、海水は少しだけ意思を持ったように動き始め、セリーの魔力移動が成功したことが目視で確認できた。
「おー、うまいな」
ノアは素直にセリーの魔法センスを褒め称えつつ、次の指導のため仕方なくセリーに密着した。
「ふあぁ!?」
決してやましい気持ちなどないが、セリーが謎に変な声を上げてしまったためノアの心臓は大きく跳ねた。
だがしかしなんとか平静を保ち、あくまでも真剣に魔法を教えるいい指導者を演じる。
「よし、次はさっきの感じから魔力を自分の思う通りに動かせるようにしようか。まずは俺がセリーの魔力を制御してみるから、その感覚を覚えてて」
「わ、わかりました…」
セリーは頬を赤らめて恥ずかしがっているためノアの心は揺さぶられるが、ここでもしっかりと強い気持ちを持って魔法の指導を続けた。
「あ、龍できた!!」
「よし、この魔法があれば水中にティッシュを持ち込めるわね」
ノアが真剣にセリーに魔法を教えている間も、アメリアとフェリスは各々で新しい魔法の開発に勤しんでいた。
しかし、その魔法は一体いつ使うんだろう?




