83 恥ずかしがらずに
あの後は素っ気ない流れでセリーがテントで水着に着替え、数分後にテントから現れて水着をお披露目してくれた。
「どうでしょう?結構頑張って選んだんですが」
「!!ああ…めっちゃ似合ってるよ」
セリーの水着を見た途端にノアの胸の鼓動は大きくなり、動揺しながらセリーの水着を褒め称えた。
「セリーの清楚さがより引き立てられててすごく可愛いよ。正直めっちゃドキドキしてる」
「ふふ、ありがとうございます♡」
セリーは嬉しそうに笑みを浮かべ、直後ノアのことを称えるように小さく拍手をし始めた。
「これでノアの予想は全部正解だったということになりますね♡おめでとうございます♡」
セリーの発言を聞いてノアはセリーの水着も予想通りのものであったことを思い出し、心の中で素直な喜びを感じた。
(マジか…俺ってもしかして天才か…!?」
このようにノアは完全に調子に乗っているのだが、普通にすごいことをしたため今回ばかりは見逃そう。
そしてノアはセリーからの拍手に対して軽くて笑みを向け、素直な喜びの言葉を漏らした。
「ありがとう。なんかみんなのことをよく分かっている気がして滅茶苦茶嬉しいよ」
「そんなに謙遜しなくても、ノアは十分私たちのことをわかってくれていますよ?フェリスちゃんもそう思いますよね?」
「ええ。ノアは毎日ちゃんと私たちのことを見てくれているから、当然と言えば当然ね」
毎日ただ好きな人を見ていただけなのに思ったよりも二人から評価されていて、ノアは何とも言い難い喜びを感じる。
「そうかな…。ま、そういうことにしとくか。そういう考え方の方が幸せな気がするし」
「そうですねっ。これが夫婦円満の秘訣、です!」
ノアの言葉を聞いてセリーは自信ありげに笑い、そのままノアの手を取って歩き始めた。
「さて、イチャイチャするのはこれぐらいにしておいて、早く海に行きましょうか。先に行ったアメリアちゃんのことも心配ですし」
「そうね」
「んじゃ行くか。海に」
ノアはさりげなくフェリスと手を握り、三人で共に海まで歩いて行った。
「あ、アメリア発見」
「一人で何をしているんでしょう?」
「何かを描いているように見えるわね」
砂浜に一人寂しくしゃがんでいるアメリアは木の棒で地面に何かを描いていて、それに集中しているせいかこちらに気づいていない様子であった。
そこでアメリアのことを驚かせてやろうと考えたノアは、即座に二人にアイコンタクトを放ち、それを理解した二人とノアは足音をたてずにこっそりアメリアの背中に近づいた。
「んもぉ…何で二人ともノアに言っちゃうかなぁ…。年上としての威厳を守るための重要な機密事項だったのに…」
アメリアに近づくと彼女が唇を尖らせて不満を漏らしているのが聞こえてきて、隣にいた二人は気まずそうに苦笑いを浮かべたが、ノアは足を止めずに歩いて行った。
そしてとうとうアメリアに手が届くところまで辿り着き、アメリアと同じ高さになるようにしゃがんで後ろ姿をじーっと眺めた。
「もうお嫁に行けないヨォ…まあもうノアのお嫁さんなんだけど…でもそれが逆に問題なんだよね〜…好きな人に知られちゃったって言うのが」
アメリアは後ろに本人がいることにも気づかず不満を漏らし、地面で木の棒を動かし続けていた。
(…このままじゃ良くない流れになりそうだな…よし、そろそろいくか)
ノアは今のままだとアメリアがさらに良くない考えに当たりそうなことを察し、すぐさま行動に出ることを決意した。
地面で自身の体を支えていた両手をアメリアの両肩の上まで運び、そのまま勢いよく腕を下ろす!
「アメリア〜」
「わぁっ!!?ノア!!?」
両肩を掴まれた直後アメリアは身体を大きく跳ねさせて驚きを見せ、すぐに後ろを向いて状況を確認し始めた。
「フェリスちゃんにセリーちゃんも…もぉ…驚かさないでよぉ」
後ろにいたフェリスとセリーも面白そうに笑っているのを見て二人も共犯者であることを察したアメリアはまた口を尖らせて不満を漏らした。
「みんな私のこと子供扱いしてるでしょ。だから後ろから普通に来るんじゃなくて驚かせようって考えたんでしょ」
はい、正解です。
なんて言えるわけがないため、ノアは早速弁明の言葉を放った。
「いやいや、そんなつもりないって。ただ可愛いアメリアがビックリしているところが見たくなっただけだよ」
「ふーん、そうやって私のこと丸めようとするんだ。言っておくけど、私はそんな言葉には屈しないからねっ!」
アメリアはプイッとそっぽ向いてしまったが、直後に満更でもなさそうに笑みを浮かべたため、これはいけると手応えを感じた三人はアイコンタクトを交わしてこの状況を乗り切るために行動に出る。
「ノアは好きな人に対しては結構意地悪になる一面があるから、今回の事もただの愛情表現だと思うわよ?」
「その通りですね。ノアは親しい人にほど本性を表しますから、こうやって気兼ねなくイタズラをするということはアメリアちゃんのことを余程愛していらっしゃるということなのではないのでしょうか?」
「そ、そうなの…?♡」
二人の言葉にすっかり乗せられてしまったアメリアはすっかり不満を漏らしていたのも忘れてノアに期待の眼差しを向けた。
そこでノアはこれはいけると感じ、自信を持って自分の愛の言葉を放った。
「ああ、もちろんそうだよ。セリーの言う通り、俺結構好きな人に対してはこういうことやっちゃうタイプだから。そしてとりわけアメリアに対しては気兼ねなくやりやすい。つまり、俺はアメリアのことを愛している」
「〜〜!♡」
ノアの言葉を聞いたアメリアは声にならない声を上げながら悶え、自身の赤くなった顔を両手で隠した。
「ふふ、よかったですねっ」
その姿を近くで見ていたセリーは微笑ましいものを見るように笑みを浮かべていたのだが、もう一人の妻であるフェリスはアメリアに近づいて背中に手を置いて小さく声をかけていた。
「ほらアメリア、ここで恥ずかしがってたらノアの評価はさっきと同じままよ」
「そ、そうだね…。私はできる大人だってとこを見せないと…!」
もう手遅れであるが、アメリアは気合を入れ直してノアからの評価を変えてやろうと行動に出た。
「ノア!私のこと愛してくれてありがとねっ♡私も愛してるよっ♡」
「あ、ああ…ありがとう…」
アメリアの態度の豹変っぷりにノアは驚きを隠せないが、それでもアメリアは態度を変えずにノアの手を取って歩き始めた。
「さ!早く海で遊ぼ?私、ずっと楽しみにしてたんだっ」
アメリアは満面の笑みを浮かべつつノアたちを連れて歩き始めた。
そうやって楽しそうに笑いながらみんなの先頭を歩いてくれるのがアメリアのいいところであり、アメリアをアメリアたらしめる所以であった。
(やっぱアメリアはこうでなくっちゃな)
たまには恥ずかしがっているところも見たいけど、やはりアメリアははしゃいでる方が可愛いと思いつつアメリアの背中を追いかけて行くのであった。




