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79才能


その日の夜、四人はノアが狩ってきた動物の肉やフェリスとセリーが採取してきた果物などを平らげ、焚き火を囲んでゆったりとお茶を飲んでいた。


「平和ですね〜」

「そうね」

「もう少し何か起こってもいいのになー」

「ん…そうだ!!」


その時、アメリアが突然立ち上がり、人差し指を焚き火の方向に指して魔法をかけた。


「お〜」

「綺麗ね」


アメリアは焚き火の色を変える魔法をかけ、ノアとフェリスの関心を引き寄せることができた。


だがしかし、一人だけまだうまく理解が追いついていない人物がいて、その人は頭の上に?を浮かべながらポカンと口を開いた。


「火の色が変わった…?」


魔法のことはあまり詳しくないセリーはアメリアの割と初歩的な魔法を見て驚きを見せ、ノアたちもセリーに対して驚きの視線を向けた。


「もしかしてこの魔法知らないのか?」

「は、はい」

「へー、子供でも使えるぐらいの魔法のはずなのだけれど、意外と知られていないものなのね」

「それは単に辺境に魔法が伝わってないだけじゃないか?」

「その可能性は否定できませんね…」


いくら辺境といえどここまで魔法に疎いのには驚かされるが、それは裏を返せば一から魔法を学べるということだ。


魔法を学ぶことの楽しさを知るこの三人を前にしてこの初心者っぷりを見せたのはセリーのミスであったが、実は千載一遇のチャンスでもあって。


「なら俺が魔法教えようか?火の色を変えるぐらいの魔法だったら三十分もあればマスターできるだろうし」

「いいえ、ここは私が教えるわ。私なら十五分でマスターさせてあげれるし、それにノアはこの魔法使えないでしょう?」

「ゔ…なんで知って…」

「いいや、ここは私の出番だって!今セリーちゃんが興味を持っているのは私の魔法だから、私のやり方を教えてあげたほうがいいよね?」


世界最高峰の魔法学院を卒業した三人に魔法を教えてもらえるなど、ただ辺境の村で生活しているだけでは絶対に有り得なかっただろう。


だが今こうして三人の魔法士を前にして教えを乞うことが可能である為、セリーはそのチャンスにしっかりと噛みついていく。


「じゃあ…皆さんに教えてもらいましょうか。皆さんで協力すれば、十分で習得できそうですから」

「ああ、任せろ」

「五分で習得させてあげるわ」

「いくらなんでもそれは無理だヨォ…」


三人の中でも特に魔法センスがずば抜けているセリーは自信ありげに前に進み、それに続く形で二人もセリーの近くに駆け寄った。


「何からする?」

「まずは魔法と魔力の関連性について小一時間ほど__」

「確かセリーはちゃんとした魔法を使ったことがなかったわよね?」

「はい。両親に教わった方法でなら少しは使えるのですが、ちゃんと本とかで学んだことはありませんね」

「え、無視?」

「ならとりあえず魔力を身体の中から放出するイメージをしてみましょうか。まずは目を瞑って自分の中にある魔力を感じてみましょう」


ノアがふざけていることに内心笑いつつも、セリーは目を瞑って自分の身体の中にある何かを感じ取った。


「感じます…。何か、暖かいようなものが私の身体の中心に…」

「そう、それが魔力よ。その魔力を徐々に取り出して手元まで運ぶイメージを作って」

「うーん…こうでしょうか…?」


その時、セリーの手のあたりから微かに魔力を感じた。


「おお、これは結構才能あるかもな」

「すごいよ!このままなら一回で魔法使えるかもっ!」

「そうね…よし、このまま続きもいきましょうか」


三人ががそう話しているのを聞いて若干喜びを感じたが、今は魔力に意識を集中させる。


「次は目を開いて魔法の標的を見てみましょうか。今回の標的は、あの焚き火ね」


フェリスの指示通りにセリーは目を開き、焚き火の方を注視した。


「手の方向を焚き火に合わせて、そして焚き火の色を変化させるイメージを頭の中で固めて」

「色を…変える…」


セリーは咄嗟に思いついた青色に変えるイメージを頭の中で浮かた。


「できた…と思います」

「よし、ならそのイメージのまま魔力を焚き火に放出!」

「はいっ!」


フェリスの力強い言葉の後、セリーは指示通りに魔力を放出し、なんとか魔法を行使させた。


「おお…これは…」

「黒色の…火…?」


魔法自体は発動し、焚き火の色を変化させることができたのだが、それはセリーが想像していたものとは違っていて。


「成功かしら?」

「いえ、私は青にするつもりでしたので失敗ですね」

「そっかぁ」

「でも初めてでこれだけできたならスゲェだろ」

「確かにっ」


事実、まともに魔法を扱ったことがない人間が初めてで魔法を発動させるだけでかなりの才能が見受けられる為、三人はセリーの秘めた才能に興味を示した。


「この調子だと五分もかかりそうにないわね。何せあなたには天性の才能があるのだから」

「そうなのですか?」

「ああ。初めてでこれだけできる人を今まで野放しにしていたのを考えると、国はかなり損しているレベルだな」

「…」


セリーは自分の秘められた力について驚きつつ自分の両手を眺めた。


だがしかしその手には何の力も宿っておらず、ただ無力な自分の弱々しい手があるだけで。


これはおそらく三人が励ますためについてくれた嘘なのだろうと心の中で察し、それは不要だと告げようとした。


「あの__」

「上手くやれば上級魔法ぐらいは使えそうだよな!」

「そうね。私が教えれば一週間で覚えさせられるわ」

「さ、流石にいくらセリーちゃんでもそれは無茶ってぇ!」

「そう?私はいけそうだと思ったのだけれど」

「正直ちょっと試してみたいな…セリーはどうしたい?」

「…え?」


三人はセリーが会話に入る隙もなく会議をしていて、最後にはこちらに質問を投げてきて、セリーは不意をつかれて目を見開いた。


「な、何でしょうか…?」

「セリーは魔法使えるようになりたいか?って話し」

「え、えっと…」


ノアからの突然の質問に対してついおどおどしてしまい、頭の中の考えがまとまらなくなった。


(どうすれば…)


三人の厚意は嬉しいが、それで迷惑をかけるのは嫌である。


(ううん…ここで断るわけには…!)


結局のところ、ここで断るほうが良く無い気がする。


どちらかといえばこの人たちはそっちの方がガッカリするだろうし、それにもし本当に自分に才能があったらというわずかな希望に食らいつきたくて、セリーは当たって砕けろの精神で首を縦に振った。


「私も…魔法使えるようになりたいですっ!」

「お、言ったな〜」

「早速今から特訓しましょうか」

「何時まででも付き合うよ〜」


セリーの言葉に三人は嬉しそうに笑みを向け、早速セリーに対する魔法訓練が始まった。


結局セリーは先程の魔法を三分で習得し、三人からは自分たちに並ぶ才能だと褒め称えられたのだった。


とはいいつつも、ノアはこの魔法が使えないのでそんなことを言う権利はないのだけれども。


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