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78 ケンカ


旅行に出発してから数時間後、四人はようやく目的地に到着し、順番にその地に降り立った。


「おお〜!!綺麗〜!!」


馬車を降りて早速見えた景色は一面に広がる青い海と程よく雲がかかった鮮やかな青空で、四人は一気にテンションを上げた。


特に貴族三人組は今まであまり海と触れてこなかった分余計にテンションが上がっていて、ほぼ反射的に海に向かって足を進め始めた。


「めっちゃいいとこだな!!テンション上がる!!」

「ね!!海って青いんだね!!」


そもそもだがフラクシア王国には海がないため、一般の国民ですら約半数は海に行ったことがないのであった。


さらに貴族という立場で様々な制限を受けるとなると、ノアとフェリスがあまり海を知らないのも当然のことである。


アメリアに関しては…なんでだろう?


アメリアの国は普通に海があったはずだし、何ならこの前も行ったなんだけどなぁ…。


まあ普段の彼女の心境から察するに、これは単純に家族で海に来て盛り上がっているだけだろう。


というか、よく考えてみれば一応今日の目的は海で遊ぶことではなかったハズであり、まだ冷静さを保っているセリーにすぐに止められてしまう。


「皆さん、海に入るのは明日ですよ?今日はあちらの森でキャンプ用具の搬入や設置が目的ですからね」

「う…そうだった…」

「また明日、ね…」

「クソ…今日は我慢するか…」


セリーの指摘を受け三人はすぐに海から撤退して馬車の荷物を下ろし、ノアが身体強化の魔法を使って荷物を全て近くの森に運び込んだ。


そしてどうやらセリーの秘密のキャンプ地というものがあるらしく、一同は彼女の案内に従いながら森を少しだけ進んで行った。


「つきました」


セリーは海から森に入り込んで数分歩いたところで足を止め、三人は興味津々に前を見渡した。


「おお…!ここめっちゃいいな!!」


セリーが三人を連れてきた場所にはそこそこ大きめの湖があり、そのあたりに木々はほとんど生えておらず、まるで人がわざとキャンプをするために手を加えたといった風な地であった。


そのためキャンプも初心者である三人はテンションをまた上げたのだが、実はこの人たち野宿は割と上級者だということに気づいていない。


「うん!ここならいっぱいイチャイチャできそうだね!」

「よし!早速テント張るぞ〜!みんな手伝っててくれ〜」

「無視しないでヨォ…!」


とまあこんな感じで楽しそうなので初心者がどうとかはどうでもいいのだ。


「いや〜、テント張るのって楽しいなぁ」


今まで何回張ったと思ってんだ!などといったツッコミは誰もせず、今まで散々ノアと共にテントを設置してきたフェリスやアメリアもノリノリでテント設置を楽しんでいて。


恐らく彼らは野宿の為ではなくキャンプの為に行動することを楽しんでいるので、旅で経験してきたこととは全く別物だと考えているのだろう。


それぐらい三人が割り切っていた方が旅を経験していないセリーも安心して過ごせるだろうし、何よりあの苦痛の旅を思い出さなくて済む…。


今は夫婦水入らずで旅行をめいいっぱい楽しみたい為、一同はウキウキしながらテントを設置していった。


その後テントの設置を十分程度で終えた四人は、まずは空きに空きまくった腹を満たす為、持参した弁当を取り出した。


そして我慢の限界をいち早く迎えたノアは早速弁当の蓋を開け、中身をしっかりと確認していった。


「ん…これは…」


その瞬間、ノアの周囲には緊張が走る。


ノアが弁当の品物を見定める姿に対して、妻たちは心臓の鼓動を早まらせていく。


そして次の瞬間、ノアは視線を妻たちに向け、彼女らに自身の感想を述べた。


「めっちゃ美味そう…!クオリティすごいな!」

「よかったぁ…」

「ふふ…頑張った甲斐がありましたね」

「私たちが腕によりをかけて作ったから、しっかり味わって食べてね」


ノアの発言にアメリアは胸を撫で下ろし、セリーは嬉しそうに笑い、フェリスは自信ありげに小さく胸を張った。


そんな三者三様な反応にノアは(全員可愛すぎだろ)という感想を抱きつつ、早速手を合わせてから弁当に手を伸ばした。


まずは弁当の左端を占める米から。


「ん…うまいッ…!!」


きっといつも食べているはずの米であるが、やはり外で食べると何かが違い、いつもとは違う旨みが凝縮されていた。


そのことをノアが口にすると、三人は嬉しそうにハイタッチを交わしてはしゃぎ始めた。


「やったー!!」

「早起きした甲斐があったわっ」

「他も美味しいのでたくさん食べてくださいねっ」

「ああ!!」


ノアは期待に胸を昂らせ、豪華なおかずたちも頬張り始めた。


その度に細やかな感想が漏れてしまって妻たちは嬉しさ半分別にそこまで言わなくても半分といった感じで苦笑いを浮かべつつ、自分たちも弁当箱を開いて食事をとり始めた。


「ん、美味しいわねっ!」

「確かに今日は力を入れて作りましたけど、まさかここまで美味しくなるとは」

「これも大自然のおかげだねっ!!」


三人もどうやら弁当に大満足したようで、いつも以上の笑みを浮かべながら昼食を楽しんでいた。


(うん、いい景色だ)


そんな可愛い妻たちを眺めながらノアは弁当を食していたのだが、僅か数十秒でその視線に気づかれてしまい、三人からは怪訝そうな目を向けられる。


「ん?どうかしましたか?」

「いや別に何もないけど」

「それにしては結構見てたよね」

「そ、そうだったか…?」

「かなりの熱視線を感じたわね」

「そんなつもりは…」


ノアは視線を逸らしてなんとか逃げ切ろうとしたが、アメリアがそれを許してはくれず。


「で、なんで私たちのことを見つめてたの?ちゃんと話してくれないと怒っちゃうよ?」

「……」

「ふーん、喋らないんだ…」


ノア派このまま逃げ切ろうとダンマリを決め込むが、アメリアが宣言通り怒りをあらわにして顔を近づけてきて。


「もう怒ったんだからねっ!これから口きいてあげないんだからねっ!」

「え、それは困る…」

「ふんっ!」


アメリアに劇薬を投げられてノアはついに声を上げてたのだがもう遅かったようで、アメリアはプイッとそっぽを向いて頬を大きく膨らませていた。


「ちょ、ごめんって…。怒らないでくれよ」

「私一回警告したもんっ!だからもうチューしてくれるまで許さないんだからっ!」

「え」


(それだけでいいの?)


普通の純情カップルならかなりの難易度になるかもしれないのだろうが、ノアにとってはかなり軽いハードルであり、ノアは早速アメリアの肩に手を置いた。


そしてそのまま片手でアメリアの顎をクイッとして、そのまま唇を重ねた。


「…ほ、本当にしちゃうんだ…」

「まあ…な」


だがしかしキスの後は普通のカップルみたいに照れることもある為、そういった点ではこの二人もどこにでもいるようなラブラブカップルである。


「…で?これで許してくれるんだよな?」

「(…だめ)」

「ん?」

「ダメ!こんなあっさり許すわけないんだからっ!」

「えぇぇぇ!!??」


なぜかアメリアは約束を破り、子供のように駄々をこね始めた。


これには流石のノアも意を唱えるが、アメリアは一向に引く気配がなく。


「いやそういう話だったじゃん!!なんで急に!?」

「だってノアがすぐにチューしちゃうんだもんっ!普通ならもっとドギマギしてチューするまでに時間がかかるはずなのにっ!!」

「いやでもそれは普通のカップルの話だろ!?__」


こんな感じで二人は珍しく口論のようなものを繰り広げ、しばらくケンカという名のイチャイチャを繰り返すのだった。


ちなみにだが、結局またノアがキスしたことによって仲直りしたらしい。


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