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77 赤ちゃん…?


アノスたちが産まれてから数ヶ月の月日が流れ、ノアや妻たちがようやく子育てに慣れ始めた頃、四人は子供たちをダンテとセシリアに預け二泊三日の旅行に向かっていた。


「ん〜!なんかこうやって四人で行動するのって久しぶりだよね〜」


馬車で満足そうに身体を伸ばすアメリアは、嬉しそうに笑みを浮かべながら森林の空気を大きく吸い込んだ。


「ダンテさんとセシリアさんに感謝しないとな」

「そうね。二人が受け入れてくれていなかったらこうして旅行に行けていないわけだものね」


そして同じ馬車に座るノアとフェリスも外の景色を眺めながら満足そうに笑みを浮かべた。


そんな風に平日の昼間から平穏な空気が流れている馬車であったが、実は心があまり休まっていない人物が一人いて。


「うう…大丈夫でしょうか…」


今回子供たちを受け入れてくれたダンテとセシリアの娘であるセリーは、なぜか心配そうに村の方向を見ている。


「どうした?そんなに心配なのか?」

「はい…」

「まあ確かに子供たちが二人に迷惑をかけてないかは心配だけど、多分二人はそれも承知で受け入れてくれたんだと思うぞ?」


ノアはセリーの不安な部分を察してフォローを入れるが、どうやらそのフォローは的外れだったようで。


「いえ、そういうことではなくて…。その、お父さんとお母さんの子育ては少々不安で…」


実際に育てられてきたセリーがそういうのであればきっとどこかしら問題があるのだろうと三人は考え、その具体的な部分をセリーに問うた。


「不安っていうのは具体的にどのあたりが?」

「あの人たち…実は結構子供な部分があるんです。特に子供を前にすると、なぜか二人ともが幼児退行するんです…」

「あー…」


セリーの言っている意味が理解できるのが悔しい!!


ダンテとセシリアは子供を前にすると自分も赤ちゃん言葉を話し始め、完全に子供を子供扱いしているのである。


そしてさらに今回は自身の孫を見るということなので、いつも以上に幼児退行することが想定される。


セリーはその部分が不安なようであったが、セリー以外はそれは全く問題ないと感じているわけで。


「でも別にそれでも問題ないでしょう?というか、私はそっちの方が微笑ましくていいと思うのだけれど」

「それはそうかもしれませんけど…!」


どうやらセリーが言いたいのはそういう意味ではなく、もっと娘としての精神的な部分のようで、セリーは説明しにくそうに身悶えている。


流石にこのままではせっかくの楽しい旅行も楽しめない可能性があるため、ノアは早速行動に出た。


「まあまあ、あんま考えすぎない方がいいんじゃないか?別に二三日あの二人が幼児になったところで子供たちに影響があるわけでもないし。てか、なんかそっちの方が良さそうだな俺もやろうかな」

「それはやめてください」

「あ、ハイ」


ノアは思い切ってダンテとセシリアを参考にしようと考えたが、それはすぐに否定されてしまって少し悲しみを覚えた。


だが誰もそんな悲しみには興味がなく、ノアが悲しそうな表情をしているのを無視してフェリスとアメリアが話し始めた。


「でも私はダンテさんみたいに赤ちゃんの目線に立つって大事なことだと思うな。まだ産まれたばかりの子は何が何だかわかっていないはずだから、同じような行動をしている人がいると安心するだろうし」

「まあ安心させてあげるのが私たちやダンテさんたちの役目なのだから、方法がどうあれ上手くいっているのならいいんじゃないかしら?」

「そういうものですかね…」


あと一押しで納得させられそうになったところで、いよいよノアの出番がやってきた。


ノアは先程より気合を入れ、セリーを納得させられるような言葉を放った。


「というか、それよりも俺はアノスたちが二人に迷惑をかけていないかの方がよっぽど心配だな」


え、納得させる気ある?


話変えるのはいいんだけど、今じゃないな。


そのようなツッコミがどこかからか聞こえてきた気もするが、聞こえなかったふりをしてセリーの言葉に耳を傾けた。


「確かに、それもそうですね。あの子たち、元気ですもんね」

「ホント困っちゃうよね〜。毎日元気よく泣いてるから最近は寝不足気味だったし」

「この三日間は静かにしてくれていたらいいのだけれど…」

「それはそれでお父さんもお母さんも寂しがると思いますよ。せっかくできた孫が泣かなかったら可愛さがありませんからね」


セリーのごもっともな発言に、ノアも勢いよく首を縦に振った。


そしてその直後、ノアは手をパンと叩いて話を切り上げようと言葉をかけた。


「ま、とりあえず子供のことは二人に任せよう。ところどころ不安なところはあるかもだけど、少なくとも俺たちより育児について詳しいんだから。」


ノアが三人に大きめな声で語りかけると、三人はこちらを向いてしっかりと頷いてくれた。


「確かに、あの二人はセリーちゃんを育てたんだから問題ないね」

「これだけいい子を育てた親なら安心して任せられるわ」

「…そ、そうですね?」


なぜか褒められて若干セリーが頬を赤らめているが、三人ともがしっかり納得してくれたようなので良しとする。


そこでようやく話がひと段落し、ノアは一度身体の力を抜いて隣にいるセリーの膝の上に寝転んだ。


「!?」


するとセリーは驚いたように目を見開くが、すぐにそれを笑みに変えて優しく頭を撫でてくれた。


「よしよ〜し、かわいいでちゅね〜♡毎日頑張っててえらいでちゅね〜♡」

「「「……」」」


やっぱ、親が親なら子も子だな。


セリーは両親と同じように幼児のような口調でノアを子供扱いし、他の三人からはよく親に似ていることを再認識された。


だがセリーはそのような視線に気づかず、今も優しくノアに顔を近づけている。


「ちゅ♡」

「!?」


セリーは突然ノアの頬にキスをし、悪戯な笑みを向けている。


「ふふ♡どうかしまちたかぁ?」

「な、なんでもないばぶ…」


なぜかノアも赤ちゃん口調で話し始め、セリーはそれに母性をくすぐられ、とうとう目に♡浮かび始めた。


「今度はどこにちゅーしてほちいでちゅかぁ?♡ちゃんと教えてくれないとわからいでちゅよぉ〜♡」


ノアが唇を求めているのを察したのか、セリーはニヤニヤと笑いながらそう質問してくる。


それには流石のノアも限界を迎え、赤ちゃん口調のままでセリーに唇を求めた。


「くちびるにしてほちいでちゅ」


ノアはあくまでも真顔でセリーに唇を要求した。


だがセリーにそんなことは関係なく、嬉しそうに笑みを浮かべながら唇を重ねてきた。


「ふふふっ♡ママとちゅーするなんてイケナイことでちゅね?♡」


セリーはそんなことを言いながらも、滅茶苦茶嬉しそうに満面の笑みを浮かべた。


そしてそれを側で見ていたフェリスとアメリアは、なぜか拗ねた様子でノアのことを眺めていて。


「セリーちゃんだけずるい!私もノアと赤ちゃんごっこしたい!」

「あなた、いつからそんなことするようになったのかしら?お説教があるから、今すぐに私の膝にきなさい」

「ダメです。ノアは私の赤ちゃんですから、二人にはあげませんっ」


なぜか三人は闘志をあふれさせ、なぜかノアを巡って争うような姿勢をとっている。


その姿を見てノアはなぜかキリッと歯を光らせて心の中で今の気持ちを呟いた。


(ホント、モテる男は困っちまうぜ)


「ねぇ、ノアは誰を選ぶの!?」

「え…?」

「私よね?」

「私だよね!?」

「私ですよね?」

「え、えと…ん…?」


気づけば三人から猛烈な視線を浴びていて、ノアは状況を理解するのに時間がかかった。


だが当然すぐに三人が説明をしてくれ、ノアは全てを理解した上でわざとらしくおねむの時間を迎えるのだった。


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