76 変な人たちですね
「お、おはよ…」
翌日、ノアは起きるなり早速妻の朝食をいただくために食卓に着いたのだが、そこでノアは腰を抑えて机に突っ伏してしまった。
すると三人は不安そうな表情でキッチンから顔を覗かせてきた。
「大丈夫?」
「ん…ああ…」
「無理しない方がいいわよ?」
「そうですよ。あまり痛いようでしたら今日はお仕事お休みした方がいいんじゃないですか?」
そのように三人は心配そうに言葉をかけてくれるが、いつまでも仕事を休んでいられるほどお金に余裕はないため少ししんどいぐらいでもある程度は働かないとこの人数を養うのは難しい。
なのでノアは三人の心配を有難く受け取っておきつつもしっかり仕事には行くつもりであった。
「いや、仕事は行くよ。そろそろちゃんと働かないと身体が鈍りそうだし」
そもそもノアの仕事とは、簡単に言うと森の中にいる動物を狩ったり薬草を採取してくるなどの、まるで初心者冒険者のような仕事である。
そのため何日か身体を動かしていないだけでも体力がもたなかったり、森では欠かせない野生の勘が鈍ったりする。
そしてノアはフェリスの出産からアメリアとセリーの出産を経て今日に至るまでまともに仕事に取り組めていなかったため、そろそろ再開しておかないと後に響いてしまう。
てなわけでノアは腰が痛くても仕事に出向くつもりで朝食を待っていると、どうやら朝食ができたらしく、三人が皿を食卓に運んできてくれてそのまま三人は手を合わせた。
「「「「いただきます」」」」
三人はノアの言葉に何か反論してくるかと思ったが、誰も反応せず黙々と食事をし始めた。
(…?…なんか今日はあっさりしてるな)
いつもならもっと詰められてもおかしく無いところであったが、まあ丸く治っているのならそれでいい。
だがしかし、このまま黙って食事を進めるのはなんとなく嫌なため、ノアは話を変えて口を開いた。
「そういや、子供はみんなまだ寝てるんだな」
「そうだね。た昨日はたくさん遊んだから、疲れちゃったんじゃない?」
「元気でいいことね」
「寝る子は育つ、ですから沢山寝てくれるのは嬉しいですね」
食卓から数メートル離れたところで子供はみんなぐっすり眠っているため、いまは何も気にせず夫婦で会話ができる。
そのためノアは三人と楽しく朝食をとろうと考えていたのだが、今日はどうにも会話が続かない。
というか、今日はいつものようなトンデモ発言が一切飛んでこないのである。
ノアは毎朝のように三人に驚かされまくっているので、今日のような平穏な朝は割と違和感しかないのであった。
(何かあったか…?まあ別に平和ならいいことだけど)
平和が一番とは考えるが、やはりどこか寂しさを覚えてしまう。
「あの、ノア。昨日のことなんですけど…」
と、そこでとうとうその寂しさを忘れさせてくれる発言をセリーがしてくれることになる。
「あの時はごめんなさい。あなたにもプライドがあるのに、あんな挑発をしてしまって…。本当に反省しています」
セリーは反省しているといっているが、なぜか顔を赤く染めたまま話し続ける。
「私たち、わかったんです…。あなたには、絶対に叶わないって…♡」
「ん?」
なぜかはわからないが、なぜかセリーは目に♡が出現している。
そこで違和感を感じたノアは他の二人にも目を向けたのだが、二人も例外なく同じような表情をしていた。
「私たち…もうあなたには逆らわないわ…♡」
「これからはちゃんと言うこと聞くね…♡?」
「あれ」
なんでこんなことになってんの?
まあ一応心当たりはあるけど、いくらなんでも豹変しすぎじゃないか?
(別に言うほどやらかしたつもりもないけどな…)
ノアは昨晩はいつにも増して三人を攻め続け、今までにない持久力で勝負をした。
それで三人をある程度いじめてちゃんと言うことを聞いてくれるように指導をしたつもりだったのだが、三人はどちらかというと服従という形を見せてきているため、ノアは困惑しながらしっかり目線を逸らした。
だがしかし、三人がそれで逃してくれるはずもなく。
「それにしても、昨晩は凄かったですよね…♡いつもの数倍はやる気でしたよね…♡?」
「いやそんなことは__」
「それに何度ダメって言っても全然やめてくれなくて…結構意地悪だったよねっ♡」
「いやそんなことは__」
「今までされたことがないぐらい激しくて…いつもより沢山声が出ちゃったわ…♡」
「………」
もう否定もできない!!!事実だし!!!
三人が言うように、ノアは昨晩妻たちをわからせるためにいつもより気合を入れて戦いに臨んだ。
その結果三人は完全に陥落し、今後はノアの手下として行動することを約束したのであった。
あの時は半分ぐらい暴走していたのでなんとも思わなかったが、今考えたらかなりやらかしている気がする。
(絶っっ対にしばらく擦られるやつだコレ)
しっかり自分のやらかしを自覚しているノアはまたいつものようなことになるのを察し、半ば諦めの気持ちを持ちつつさっさと朝食を食べ終えて箸を置いた。
「よし!ご馳走様!今日もうまかったよ!」
ノアはそう言ってこの場から逃げようと勢いよく腰を上げたのだが、なぜか両隣にスタンバってたフェリスとセリーに腕を掴まれてしまい、そのまま椅子に腰を落とさせられてしまった。
「え、なに?」
「どうして逃げるんですか?♡もっとお話ししましょうよ♡」
「いやぁ…ちょっと仕事の準備を…」
「それは別に今じゃなくても間に合うでしょう?特に出勤時間があるわけでもないのだから」
「ん…」
(俺を捕まえてどうするつもりだ!!)
ノアの両手はフェリスとセリーにしっかりと掴まれていて、さらにアメリアが後ろから抱きしめてきてとうとう逃げ場が無くなった。
「じゃあ…私たちのこれからについて話し合お?♡」
「それ今じゃないと__」
「「「ダメ」」」
「…」
なんだこの人ら。
完全に心を読んでやがる。
目に♡を浮かべている三人に包囲されたノアはもう逃げられないことを悟って身体の力を抜き、椅子にどっぷりともたれかかった。
それを見てノアが諦めたことを感じ取ったのか、三人はどこか嬉しそうに笑みを浮かべ、直後に口を耳元に近づけてきて小さく囁き始めた。
「(ねぇ…ノアはさ…次のこと、考えてる…?)」
「次…?」
「(ほら…次の赤ちゃんのこと…)」
「!!!???」
またいつものようにアメリアが突拍子もないことを言い出し、ノアはつい吹き出してしまう。
「いやいやいや!流石にまだ考えてないって!」
ノアは目を見開きつつアメリアの言葉を否定するが、三人は諦めずに話を続けてくる。
「(でもほら…沢山産むのなら、少しでも早いほうがいいんじゃない…?♡)」
「流石に気が早すぎないか!?つい最近産まれたばかりだろ!?」
「(で、でも…私たちは早くノアの赤ちゃんが欲しいです…)」
もういるじゃん!めちゃくちゃ可愛い子供たちが!!
ノアは心の中でそのようにツッコミを入れたが、それが三人の心に届くはずもなく。
ノアはもう完全に抗う気力を失い、とうもう適当に返事をし始めた。
「うんうん、そうだな。俺も早く欲しいよ」
「「「!!!???」」」
と、そこでなぜか三人が驚いた顔をし、一気に頬を赤く染めた。
「そそそそうなの!?」
「ちょっと、まだ早すぎるんじゃない…?」
「私たちにも心の準備が…!」
なんなのこの人たち…。
自分から言ってたくせに、いざ肯定されればなぜか慌てふためいて。
一体何がしたかったのかわからなかったが、とりあえずこの話は数分で誤魔化すことができそうなので丸とする!




