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74 なんで俺だけ!?


「んま…んま…!」

「ん!?今ママって言った!?」


辺境のラミア村に新たな命が生まれて数日、フェリスの体調もほぼ回復し、今となっては外で軽く散歩ができるくらいであった。


そんな中ノアやアメリア、セリーたちはいつものように病院に居座って赤ん坊と遊んでいたのだが、アメリアがなぜか変な勘違いをし、驚いて目を見開いていた。


だが勘違いをしているのはアメリアだけである為、それ以外の人間は苦笑いを浮かべて指摘を飛ばした。


「言ってないと思いますよ?」

「で、でも今私を見てママって言ったてたよ!!」

「まだ生まれたてのアノスが喋るわけないだろ?たまたまだって」

「ん〜…どっちなの?アノス」


あ、ちなみにだが、赤ん坊の名前はアノスに決まった。


この名前はノアとフェリスが厳正な審査をした上で決まった名前である。


ん?なんでアメリアとセリーが入っていないかって?

それは…あの会話を思い出せばそうもなるだろう。


「よし!この子の名前はアルシエラファントムにしよう!!」

「待ってください。ここは長男としてベルフレアゼーレというカッコいい名前にしましょう」


といった感じで二人のネーミングセンスは壊滅的であって、特にアメリアはそれはもう酷いもので。


正直セリーは半分ぐらいふざけていた部分もあっただろうが、アメリアは結構目がガチだった為、ノアはアメリアとの間に産まれた子の名前を考える時は絶対にアメリア一人ではさせないように心に誓ったのであった。


とまあそんな感じで名前の話は終わりにして、今は目の前にいる我が息子の可愛さを堪能せねば!


「ほーい、そろそろこっちにもおいでー」


ノアはフェリスが抱いているアノスに向けて両手を広げ、そのままフェリスからアノスを受け取った。


「よしよーし、いい子だー」


ノアがアノスを抱いて身体を揺らしてなんとか泣かれないように努力するが、アノスは無常にも大きく涙を浮かべて。


「オギャァァァ!!!」

「えぇぇぇ!?なんで!?」

「やっぱり怖がられてるんじゃない?」

「確かに、赤ちゃんからすればこんな大きな男の人は怖いでしょうね」

「私たちですら怖いものね」

「え」


フェリスの発言に思わずポカンと口を開けてしまい、そのままアメリアとセリーの方に目を向けると、二人ともがとてつもないほどの共感をしたように大きく頷いていた。


「俺そんなに怖いのか…?」

「うん」

「怖いですね」

「嘘…だろ…!?」


ノアは信じていた妻たちにも裏切られてしまい、悲しい気持ちでアメリアにアノスを引き渡した。


「よしよ〜し怖かったね〜」

「オギャァァァ…んまんま…」

「あ、またママって言った!」

「どうして俺だけ…」


やはりノア以外に抱っこされた時だけは泣かずにいい子でいるため、ノアはどこか自信を失ってしまった。


「クソ…俺のどこが怖いんだ…?」


流石にこのまま我が子を抱っこできないのは嫌すぎる為、ノアは妻たちに正直な意見を求めた。


すると彼女らは少し気まずそうに視線を逸らしつつ歯切れが悪い言葉で説明をしてくれた。


「まあ…見た目がね…?だってノア、身体が大きいんだもん…」

「それに筋肉もありますから、より一層屈強な男の人って感じがしますよね…」


まさかここに来て妻たちを守る為に鍛えた筋肉が裏目に出るとは!!!


身長とかは遺伝だからどうしようもないとしても、流石に筋肉を落とすわけにもなぁ。


そんな感じで色々なことを頭の中で考えていると、フェリスも正直な気持ちを教えてくれた。


「でもあなたは身体の大きさにはよらず性格は優しいじゃない。子供はどんな人が優しい人かどうかがわからないのだから、身体が大きいノアは見た目的に子供から怖がられやすいのかもしれないわね」


フェリスの的を射ている意見を聞き、ノアはさらに気持ちを落とした。


「それってつまり…アノスがある程度大きくなるまではどうしようもないってことか…?」

「……」

「いや、チャンスはあるよきっと!」

「ノアの優しさはアノスにもちゃんと届きますよ!」


二人は急いでフォローしてくれるが、もう遅い。


「…減量しようかな」


妻を守る為に筋肉を維持するのと、子供を抱く為に体重を落とす。


これは同じぐらい悩ましい問題であるため、ノアは頭をフル回転させて考えた。


その結果、ノアは体重を落とそうかという考えに至るが、もちろん三人がそれを許してくれるはずもなく。


「いや、そんなことしたらダメですよ?」

「え、なんで?」

「減量なんかしてしまうとノアの魅力が少なくなってしまいますからね。私たちからすればあなたのその体格はかなり魅力的に映っているので」

「そうなの?」

「ええ」

「もちろん」


なぜか急に全肯定され、ノアの減量の気持ちは薄れていく。


だがしかし…それで子を抱けないなら意味がない…!!


(どうすりゃいいんだ…?)


まあ正直なところ、多少体重を落とした程度で子供の態度が変わるとは思いにくい。


(ここはみんなの意見に従っとくか)


子供を抱けなくなるのは非常に悲しいが、それ以上に妻から見た魅力が減ってしまうことも同じぐらい悲しい気がし、最終的にノアは妻たちの気持ちを優先した。


まあ別に?アノスがノアを嫌う理由が体重どうこうって確定したわけじゃないし?


ここはあえて他の理由にかけてみて結果それでも嫌われるようであれば…もう泣いちゃうもん!


結局のところ、どうせ赤ん坊の考えていることなどわかるはずがない為、ノアは半分諦めの気持ちを持ちつつ妻たちの言葉に従った。


「ま、とりあえず俺は今まで通りでいくわ。もしそれでアノスに嫌われっぱなしだったら、その時は慰めてくれ」

「ええ」

「思いっきりよしよししてあげるねっ!」

「それはアノスにしてやってくれ」


我が息子の前で子供扱いなんてされてしまうと教育に悪い為、そこはしっかりと断りを入れておく。


でも正直、アメリアによしよしはされたい。


その為ここは非常に難しい問題であるが、流石にアノスの教育を考えたらアノスの前ではあまりいちゃつくべきではないと考えたのだが、そのような環境で育った人物によってそれら否定されてしまう。


「別に遠慮しなくていいんですよ?子供は親が愛し合っていないと心が貧しくなる可能性が大きいので」

「あ、そういえばお義父さんたちはセリーの前でも構わずいちゃついてるよな。あれ、昔からそうだったのか?」

「はい。私が小さい頃からずっとラブラブなんです。だから正直私からしたら気まずい場面もありましたけど、それ以上に親が幸せそうな目をしているのはあの頃の私にとってはかなり喜ばしいものでしたね」

「「へ〜」」


実際にイチャラブ両親の間に産まれたセリーは非常に参考になる意見を漏らした為、フェリスやアメリアはあからさまに表情を明るくさせた。


「つまり私たちがイチャイチャすることは教育の観点から見てもいい影響があるということね」

「逆にイチャイチャしてないと子供を変に不安にさせてしまうかもしれないし、私たちはアノスの前でもいつも通りイチャイチャしてた方がいいんじゃないかな?」

「ん〜…そうするか…?」

「うんっ!そうしよ!!」


アメリアは満面の笑みでノアの言葉を肯定した。


するとこの病室中に明るい空気が流れ始め、その影響を受けたのかアノスは急に可愛らしく笑い始めた。


「あ!笑った!」

「可愛いですね〜♡」

「結構可愛らしい笑い方をするのね」

「守りたい、この笑顔」


ノアはこの笑顔を守る為に今まで以上に精進していくことを決意し、もう一度アノス抱っこチャレンジを実行するのであった。


ちなみにだが、その挑戦は大失敗に終わった。


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