73 パパは?
数時間後、ノアやその家族たちが様々な話を重ねる中、フェリスは突然目を覚ました。
「…」
「お、フェリス?起きたか?」
「う、うん…」
フェリスは目をパチパチさせつつ周りを見渡し、今自分が置かれている状況を確認した。
「私、眠っちゃってた…?」
「ああ。結構ぐっすりだったな」
「うん。なんだか嬉しそうに眠ってたよねっ」
「それほど元気な子を産めたことが嬉しかったんですよね?」
「うん…そうね」
フェリスはまだしんどそうな表情を浮かべているが、それでもある程度の受け答えはできている。
その状況から察するに、フェリスの身体は順調に回復していっていることがわかり、周りにいるみんなは心の中でフッと安心感を募らせていた。
「いやぁホント母子共に無事で良かったよ。やっぱ出産ってのは文字通り命懸けだから、フェリスちゃんがこうやって話しているだけでも泣きそうだよ」
「そうね〜。あなた、セリーが産まれた時号泣してたものね〜」
「え、それ今言うの?」
「でもさっき涙は流し切っちゃったかしらね〜?もう何も出ないかしら?」
「やめろぉぉぉぉ!!!!!!」
唐突なセシリアの暴露に対し、ダンテは彼女の口を抑えて対抗するが、時すでに遅し。
娘夫婦たちにはもう涙を流したことは割れてしまい、ダンテは尊厳というものを削られてしまった。
そしてさらに、この場が微妙な空気になってしまった。
「あはは…相変わらず仲良しだねっ」
「そうなんですけど…恥ずかしいので人前ではやめてほしいです…」
普段あまり恥ずかしがるような素振りを見せないセリーも、今回は顔を両手で隠しながら顔を真っ赤に染めている。
それだけ親のイチャイチャを見られるのが恥ずかしいということなのだろうが、今この場にいる全員にとってダンテとセシリアは家族であるため、セリー以外の三人はさほど何も感じておらず。
「まあ仲が良くていいことじゃないか。俺だって義理の両親がこんな感じだと色々やりやすいし」
「私たちも堂々とイチャイチャできるよね!!」
「…」
まあそういうことだけれども、それを言ったら負けな気がするのでノーコメントとしておく。
「それよりフェリス。身体の調子はどうだ?」
「うん…。まだちょっとしんどいわ…。結構体力も使っちゃったみたいだし、まだしばらくことままの方が良さそうだわ」
「そっか。ならゆっくりしてな。俺はずっとここにいるから」
そう言ってノアは握っていたフェリスの手を握る力を強め、そのままフェリスに優しく微笑んだ。
するとフェリスも嬉しそうに笑みを返してくれ、いつも通りのフェリスだという事を感じた。
と、ちょうどそのあたりで病室の扉がノックされ、医者と看護師が赤ちゃんを連れて中に入ってきた。
「赤ちゃんの検査は無事終わりました。異常は見当たりませんでしたよ」
「そうですか」
「よかった〜」
産まれた直後の赤ん坊は検査のため別室に連れて行かれたため、ノアもフェリスもまじまじと赤ちゃんのことを眺めるのはこれが初めてであった。
そしてそれは当然他のみんなもそうであるため、全員がテンションを上げて赤ちゃんの姿を眺め始めた。
「きゃあ〜♡可愛いわね〜♡」
「ああ。お母さんに似て綺麗な子だ」
「やっと今から親子で対面できるねっ」
「ということは…これから抱っこタイムという事ですね!?」
セリーが言い出した言葉の通り、看護師は赤ん坊をフェリスの近くまで寄せた。
「はい、まずはお母さんが抱っこしてあげてくださ〜い」
看護師がそう言ったのを聞き、フェリスは少しだけ身体を起こして赤ん坊の方に両手を伸ばした。
そして少しぎこちない手つきで自身の息子を抱き抱え、その赤ん坊を優しい目つきで見つめた。
「ふふ、いい子ね」
「あ〜♡可愛い〜♡」
「親子の対面、神聖な場面ですね♡」
「よく眠っているわね〜♡」
「この子はいい子に育つぞー」
その赤ん坊はフェリスに抱っこされてもぐっすりであり、その寝顔をこの場にいる全員が眺めた。
「にしても可愛いな。やっぱ母親が可愛いからか?」
「ん…何言ってるの…?」
ノアはあまりの息子の可愛さについ本音を漏らしてしまい、それを聞かれたフェリスにジト目を向けられてしまった。
だがしかしこれは紛れもない事実であるため、ノアは引けを取らずに堂々とフェリスに対抗した。
「いやだってさ、流石にこの可愛さは世界一だろ?で、その世界一可愛い赤ちゃんのお母さんも世界一可愛い。つまりお母さんのいいところが全部遺伝したってことだろ?」
ノアのあまりにも暴論すぎる発言に対してフェリスは何も言えなくなり、若干頬を赤らめつつ視線を赤ん坊に向けた。
だがやはりそれ以外の人間はこの発言を見逃さず、ノアとフェリスのイチャイチャをアシストしてくれる。
「まあ言ってることは間違ってないよね」
「ですね。世界一可愛いお母さんと世界一カッコいいお父さんのあいだに産まれたのが世界一可愛い子なのですから、お母さんのいいとこ取りをしたというのは理にかなっていますね」
いやこれ理にかなっているか?
ノアは頭の中でそのようにツッコミを入れるが、それを口には出さず今度はダンテとセシリアの言葉を聞き入れた。
「ウンウン、世界一可愛いお母さんから世界一可愛い子供が産まれるのは当然の事だ。事実、セリーがそうだったからな」
「え、あなた…♡もう、娘たちの前ですよ…?♡」
「でもそれが事実なんだよ。な?ノアくん」
「まあそうですね。子供が世界一可愛いのであれば親のどちらかが世界一可愛い必要がありますからね」
「そういうわけだ」
「〜〜!!」
なぜか義両親のイチャイチャに利用された気がしたが、そんなことはどうでもいい。
それよりも今は目の前にいる赤ちゃんをこの手で触れたいという気持ちが溢れ出ているのである…!
(…俺も抱っこしたい…)
「ノア、次はあなたよ」
「!?…そ、そうか」
気持ちが目線にでも現れていたのか、フェリスに心の中を読まれてしまい、赤ん坊がこちらに向かって差し出された。
「えっと、ここをこうして…こうでいいのか…??」
ノアはぎこちない手つきで赤ちゃんをフェリスから受け取り、自身の胸に抱き寄せた。
すると赤ん坊は目をピクピクと動かせ始め、直後に口を大きく開いて。
「オギャァァァ!!!」
「あ」
「あ〜あ、ノアが赤ちゃん泣かせちゃった」
「え!?俺のせい!?てかこれどうすればいいんだ!?」
「パパなのですから、ご自身で頑張ってみてください」
「ちょっとぉぉぉ!!!???」
誰かがアドバイスでもくれて助け舟を出してくれるかと思えば、この場にいる全員は温かい目で見守ることを選択してきた。
そのためノアは一人でなんとか赤ん坊を泣き止ませようとさまざまな行動に出たが、どれも全く効果がなく、最終的にフェリスが仕方なさそうに両手を差し伸べてきた。
「はい、こっちにおいで」
「オギャァ…んまんま」
「え、嘘。なんで?」
ノアが赤ん坊をフェリスに渡した途端に赤ん坊は泣き止んで気持ちよさそうに眠りに着いた。
これを見て流石のノアでも何かがおかしいということに気づき、その答えはアメリアとセリーが教えてくれた。
「それはもちろん、ママが大好きだからだよね〜?♡」
「赤ちゃんがママ大好きなのは当たり前ですよ?」
「えぇ…」
「ノアくん…気持ち、わかるぞ…」
あまりに理解不能な発言に頭を悩ませて落ち込んでいると、なぜか共感を示しているダンテが肩に手を置いてきた。
そして自分も昔同じ気持ちを味わったと言わんばかりに同情の気持ちを向けてきて、この世の父親の立ち位置についてみっちりと教え込まれてしまうのであった。




