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70 考え


(…まさか私以外全員貴族だなんて…)


あの後ノア達から全ての説明を受けたのだが、セリーはあまり理解が及ばずただ頷くことしかできなかった。


そしてその状態のまま部屋決めが進み、今現在は各々の部屋で家具の場所などを決める時間となっていた。


だがセリーはそれどころではないため、部屋の中に置かれていたベッドの上で一人考え事に耽っていた。


(確かに普段の立ち振る舞いからいい家の出身だろうとは思っていたけれど、まさか貴族だとは…。私、今まで無礼なことを働いていなかったでしょうか…)


ハッキリ言って、貴族と庶民では身分の差は圧倒的である。


特にノアやフェリスは貴族の中でも最も上の位にあたる公爵家の出身のため、辺境の村の一人に過ぎないセリーからすれば雲の上の存在であった。


だからこそセリーの脳内はパンク寸前まで熱くなっており、これ以上考え過ぎるともうキャパオーバーになりそうであった。


(それにノアはあんな困難を乗り越えてここまで来て…私、今まであれだけ甘えてましたけど、絶対やめておいた方が良かったですよね…)


ノア達は当然旅の経緯なども包み隠さずセリーに話しているため、今はセリーもノア達の壮絶な過去を知っている。


そしてそれについて考えるとセリーは自分がどれだけ甘えていたのかが明るみになり、愛する人に迷惑をかけたばかりだということを自覚した。


「うう…私なんてただ辺境の村でたまたま村長夫婦の間に生まれただけの娘ですよぉ…」


ついにはセリーも自虐を始め、気持ちがマイナス方面に向いてしまった。


だがそこで不意にノアの言葉を思い出し、セリーはハッと目を見開いた。


【今の俺たちは貴族でも何でもないよ。俺たちはセリーと同じ立場であり、同じ家族だよ。だからなセリー、俺たちとは今まで通り接してくれ。セリーの優しくて綺麗な笑顔を、いつものように見せてくれ】


先程はあまり思考が回っていて言葉の意味を理解できなかった言葉がようやく腑に落ち、セリーは心を切り替えて声を漏らした。


「そうですね…。今は貴族がどうとかは関係ありませんよね。だって私たちは等しく家族なのですから」


セリーは何とか脳がパンクするまでにそのような結論を導き出し、開き直った思考で今後の接し方を考えだした。


「だから私は別に何も遠慮せずに今まで通りに接すればいいですよね。いつものように甘えたり笑ったりすればいいですよね」


それはあの三人も望んでいたことであるし、もうこうなったからには一周回っていつも通りに接するしかない。


そのような思考に至ったセリーは元気よく腰を上げ、そのままの勢いで部屋を飛び出した。


「あ、セリー…」

「?どうかしました?」


セリーは部屋を出てリビングでみんなが集まるのを待機しようとしていたのだが、それは扉のすぐ前にいたフェリスによって止められてしまう。


「その、さっきの話について…もう少し詳しく話したくて」


フェリスはどこか虚しそうで悲しそうな表情をしており、セリーは一瞬にしてフェリスが思い詰めていることを悟った。


「わかりました。中にどうぞ」


セリーはフェリスを中に通り、ベッドの上に案内した。


そしてセリーも横に座ってフェリスの方を向いた時にフェリスは話を始めた。


「その…さっきノアがしてた話なのだけれど…誤解しないでほしいの。私達は貴族という恵まれた環境で育ってきたけれど、あなたにはそんなこと何も気にせず今まで通りの接し方でいてほしいの」


フェリスの話はセリーの予想通りの内容であり、セリーは間を置くわけでもなくすぐに言葉を返した。


「もちろん。そのつもりですよ。さっきノアもそう言ってくれてましたし、私開き直ることにしたんです」


セリーはフェリスに安心してもらうためにいつものような笑みを向け、少し楽しそうに話し続ける。


「今まで同じような身分だと思っていた家族が実は貴族でした。なんて経験、多分この世界で数人しか味わえないですよね。なら私はこの雷に打たれるような経験を楽しいものにしようと思ったんです」

「セリー…」


フェリスはセリーに対して驚いたような目を向けるが、直後彼女もセリーと同じように笑みを浮かべて。


「優しいのね。あなたは本当にそういうのが上手よね」

「あら、あまり褒められている気がしませんね。もしかして変な人だなとか思ってます?」

「そ、そんなこと思うわけないでしょう?私は心の底からあなたに敬意を示しているわ」

「ふふ、冗談です」


セリーは場を和ませようとイタズラをし、結果的にその作戦は成功して場の空気は明るくなっていった。


「でもありがとうございます。私のこと、心配してきてくれたんですよね?」

「それは…まあ…」

「でも大丈夫です。私こう見えて結構ポジティブな人間ですから」

「こう見えてって、見たままだと思うけれど?」

「ん…フェリスちゃん、そういうこと言うんですね」


フェリスが圧倒的な事実をぶつけると、セリーは頬を膨らませて子供のように拗ね始めた。


「フェリスちゃんは信じてたのに…またそうやって私のことを子供扱いするんですねっ」

「そんなつもりはないわよ。私から見てあなたは本当にそういう人間に見えるっていうだけよ?」

「むう…絶妙に嬉しくないですね…」

「そう?でもノアはそういうタイプの娘のこと、結構好きだと思うけれど?」

「ならそれでいいです」


さっきまでは子供のように拗ねていたのに、ノアのことを口に出せばすぐにキリッと肯定してきて。


その姿こそ真に子供っぽいとは思うが、それを口にすればまた拗ねると考えたフェリスは大人の余裕で口を開かないでおいた。


そしてその間にセリーは勝手に拗ねていて(は?)、今度は口も尖らせてフェリスに事実を伝え始めていた。


「でも結局ノアはフェリスちゃんみたいなクールで頼れる人のことが好きですよね…だってそうじゃないと小さい頃からずっと一途だなんてあり得ませんよ」


ここでアメリアが余計な話をしたことが仇となり、セリーは真実を元に拗ねてしまった。


「そ、そんなことは…」

「ありますよね。実際ノアもフェリスちゃんのことを一番信頼してるみたいですし」

「…」


フェリスは何も反論することができなくなり、つい目を逸らしてしまう。


あとついでに少し嬉しくなって頬を赤くしたりするのだが、流石にこの場面でそれをするのはマズイとすぐに引っ込める。


そしてこの状況を豹変させるためにフェリスは強引な手段に出ることにした。


「で、でも…ノアは本当にあなたのことがタイプだと思うわよ?」

「ほお…その理由は?」


セリーはあまり信じていない目を向けてくるが、フェリスは自信を持って言える言葉を口にした。


「だってほら…あなた毎晩ノアにたくさんして貰っているじゃない…?それってタイプでもない人にできるかしら」

「…!?た、確かにそうですね…」


フェリスは自分とアメリアも同じような待遇を受けていることをあえて話さずセリーだけが愛されているように見せた。


そして今混乱状態にあるセリーは簡単に納得し、嬉しそうに笑みを浮かべた。


「ふふっ、私、生きててよかったですっ」

「…」


(この娘、案外単純なところもあるのね…)


失礼ながらフェリスはそのようなことを考え、セリーへのイメージを少し変えていったのだった。


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