69 秘密
ノアが倒れてから数週間後、ようやく待ちに待った自身の家が完成し、ノアは早速家族を連れて完成した家をお披露目していた。
「おお〜!すごいねぇ〜!!」
「これは…かなり大きいわね」
「ふふっ、今日からここに住めるのですね」
三人は新居を見た途端にそれぞれの反応を示し、三人とも楽しそうに家を眺め始めた。
「よく見るとけっこう細かいところまでこだわられているわね」
「まあな。家族みんなで一生暮らす家なんだし、一切妥協せずに建てたいと思ってな」
ノアはフェリスの言葉に対して自分の考えを述べ、そしてアメリアとセリーはこちらを向いて急に笑みを浮かべ始めた。
「やっぱりすごいねノアは」
「まさかこんな素晴らしい家を自分の夫が建てただなんて、一生自慢できますねっ」
「いやいや、俺は技術的なことはしていないから、すごいのはそこら辺を担当してくれた大工さん達だよ」
ノアは主に高重量の建材を運んだり加工したりがメインであった為、実際に家を組み立てるという面ではあまり活躍していないのだ。
だがそれでもノアの貢献が計り知れないというのは三人ともが理解しており、三人は謙遜を重ねる夫にもっと自信をつけさせるために言葉をかけた。
「それもそうですけど、全体的に見れば一番活躍したのはノアですよね?」
「そうね。ノアはこの前商人さんが言っていた工期の半分ぐらいで終わらせてしまったのだから、間違いなくあなたは大活躍よ」
「自信持って!私たちの旦那さんなんだから堂々としててよ!!」
最後の人はなんか話している事が違う気がするが、愛する妻達にここまで言われてノアが黙っていられるはずもなく。
「わかったよ。これからはもう少し自信持っていくよ」
「少しじゃなくてもっとでいいのよ?」
「いや、それは流石に難しいわ」
「え〜…まあいっか。これが第一歩になるなら別に焦る必要もないか」
「え、何の話?」
「何でもないよ〜」
アメリアが何か含みがありそうな発言をしてきたため訊き返してみるが、アメリアは知らない顔をしてそっぽを巻いてしまった。
そしてそのままアメリアは逃げるように家に向かって数歩進み、そこで振り返って笑顔を向けてきた。
「さ、早く中に入ろ?私、早く探検したいなっ」
「そうね。行きましょうか」
「楽しみですね」
「あ、ちょ…」
家の中に興味津々な三人は軽い足取りで家の扉を開き、中の景色を見まわした。
直後三人は目と口を大きく開き、まるでサプライズでおもちゃを買ってもらった子供のように驚きと喜びを見せた。
「お〜!!広いね〜!!」
「内装もすごく綺麗ね〜」
「まるでお屋敷ですね〜」
家に入った瞬間に広がるのは貴族の屋敷にも劣らない広さのロビーであり、三人も屋敷を訪れたときのような反応を示していた。
「これだけ広いと使用人さんとか出てきそうだね〜」
「今すぐ部屋を飛び出してきて出迎えてくれたりするかもしれないわねっ」
「慌てて荷物を預かってくれてそのまま急いで食事の支度を始めたりしそうだよな」
そのようにノアとフェリスとアメリアは楽しそうに笑いながら空想の話をして盛り上がるのだが、その話についていけていない人物もいた。
(な、何でみんなこんなに貴族の暮らしの解像度が高いのでしょう…)
この中で唯一貴族出身でないセリーは三人の会話にはついて行けていなかった。
そして三人が貴族出身であるということは知らないため、セリーはさらに困惑を強めていた。
「あ、あの…もしかしてみなさん、結構いい家の出身だったりします…?」
「「「!!!???」」」
疑問を深めていったセリーはついに質問を三人に投げてしまい、三人はしまったと言わんばかりに身体を跳ねさせ、冷たい汗を流しながらアイコンタクトでどうすべきか作戦会議をし始めた。
(ヤベ、どうする?)
(とりあえず社長令嬢とかでやり過ごしましょう?)
(そうだな。それで行こ__)
(ねぇ、ちょっと待って)
ノアとフェリスはセリーに嘘をついて誤魔化そうと考えたのだが、どうやらアメリアはそうではないらしく、何かを訴えるように強い眼差しで二人を見つめた。
(セリーちゃんだけにはさ…本当のこと話しちゃダメ?)
アメリアは家族であるセリーに嘘をつき続けることに後ろめたさを感じているのか、少し気まずさを覚えるような表情で二人を見つめている。
(私たちはさ、これから一生共に生きていくんだよね?だったらさ、こういう隠し事は今のうちに無くしておいた方がいいんじゃないかな?)
アメリアの冷静な意見を聞き、ノアとフェリスは少し納得したように頷いた。
(まあ確かにセリーなら誰にも言いふらさないだろうから安心だし、受け入れてくれるだろうな)
(今までは身の安全のためにセリーにも言ってなかったけれど、逆にセリーの身の安全を考えるとここは知っておいてもらった方がいいかもしれないわね)
ノアもフェリスも意見は一致し、アメリアと共にセリーに全てを話す方向で話を進める。
(ていうか、これ言ってなくてもしバレた時とか結構ヤバくなりそうだな)
(セリーは案外嫉妬するタイプだし、それもあり得ると思うわ)
(ならより一層話すべきだね)
(だな)
「あの…」
三人が自分の身元を明かすべきかを話し合っているとつい時間が経ってしまっていたようで、セリーが頭の上に?を浮かべながら質問をしてきた。
「結局どうなのですか?私、みなさんの家のこととかも知りたいです」
セリーは疑問半分興味半分といった目線で三人にことを見つめ、それに対してはノアが答えることにした。
「そうだよな。セリーだって自分の家族がどんな家で育ったか知りたいよな」
「はい。興味あります」
「そっか。ごめんな、今まで黙ってて」
「全然大丈夫です。みなさんにも事情があることは何となく察していたので。本当にただ興味があるだけですので、無理しなくてもいいですよ?」
セリーはそう言ってくれるが、何かを秘密にされているということがセリーの心のどこかにしこりを残してしまっているだろう。
それに対してノアは本当に申し訳なく思うが、話が話なだけに謝るのもそれぐらいにしておいてセリーに真剣な目を向けた。
「いや、ちゃんと話しておこう。俺たちは家族なんだから、ちゃんとお互いのことを知っておくことも大切だ」
そしてノアは深呼吸をし、自信を持って言葉を出した。
「セリー。実は俺たち三人には誰にも話していない秘密があるんだ。それを今家族であるセリーにだけ話すよ」
「はい」
「実は俺たち、貴族なんだ」
「…はい…?」
その瞬間、セリーは見た事がないほどポカンとした表情を浮かべた。




