67 原因は…?
三人が病院に着いた頃には既にノアは検査を終えていて、三人は受付の人に案内された病室の中に飛び込んだ。
「「「ノア!!!」」」
愛する夫の名を呼びながら中に入ると、そこにはベッドに横たわって苦しそうな表情を浮かべるノアの姿があった。
それを見て三人は慌ててもノアの側に行き、そこで治療を行っている医者に状況の説明を求めた。
「あの、今は一体どういう状況なのですか…?」
「今は彼に特殊な治癒魔法をかけているところですね。着々と回復していっているので大丈夫ですよ」
「そ、そうなんですか…」
医者から大丈夫だという言葉を聞けて三人は一安心し、大きく息を吐きながら胸を撫で下ろした。
「よかったぁ…」
「急に倒れるのだから、相当焦ったわ…」
安心したように三人は近くの椅子に腰を下ろし、ノアの顔を眺め始めた。
「でも無事ならよかったです。ノアにもしものことがあれば、私もう立ち直れなくなったかもしれませんよ」
「そうね…。でもノアは私たちを放ってそんなことをしないって、証明してくれたわね」
「でもどうしてあんな急に倒れちゃったんだろ…朝までは結構普通だったよね?」
アメリアの疑問に対してフェリスとセリーは首を縦に振り、三人は疑問を深めていった。
「もしかして…難病…とか…?」
「え!!!???」
「それは違いますよ」
三人が勝手に憶測を深めて勝手に心配を始める前に医者が全て話すべきだと三人の話を遮り、そしてこの場にいる全員にノアの症状について説明を始めた。
「今回彼が倒れた原因は、間違いなく過労ですね。恐らく彼は日中は過酷な労働に励み、夜は何かが原因でよく休めていなかったのでしょう」
「「「!!!???」」」
医者の言葉を聞いて、三人は大きく心臓を跳ねさせた。
その理由はとても簡単で、ノアが倒れた原因に心当たりがあるからであった。
(も、もしかしてノアの疲れが取れてないのって…)
(((私たちのせい…?)))
ノアとて常識のある人間であるので、自分がどれだけの体力を持っていてどのくらいの労働であれば問題ないかがわかっているはずだ。
なので仕事中に無理をしたせいで倒れた可能性は低い。
なら原因は自然と夜疲れが取れていないせいになってくる。
そしてその元凶が自分達であることを察した三人は一気に血の気が引き、肩身が狭くなるような想いで身体を小さくして下を向いた。
そのまま三人は心の中で頭を下げ、ノアに謝罪の気持ちを告げた。
(((ごめんなさい…!!!)))
「…っ」
何の因縁か、三人が心の中で誤ったタイミングでノアは目を覚まし、天井を眺めながら状況を理解していった。
「ん…もしかして、病院か…?」
「はい、そうです。あなたは宿で倒れられ、こちらの方に背負われて運ばれてきました」
医者が手を向けた方を見ると、そこには義父であるダンテがいて、ノアは咄嗟に頭を下げた。
「ありがとうございます。おかげで助かりました」
「いやいや、俺はただ息子の為に力を貸しただけだから。お礼をするのはそっちの嫁さんたちにしときな」
ダンテは視線の先で嫁三人のことを示し、ノアは心配そうにこちらを見つめる三人に言葉をかけた。
「みんなも、ありがとな。おかげで俺は元気だよ」
「う、うん…それはよかったよ…っ」
「元気なら…大丈夫そうね…?」
「こ…これで一旦安心ですね…っ」
なぜかわからないが、彼女らは安心というかどこか後ろめたそうな表情をしている。
(ん?なんでそんな顔するんだ…?)
一体この件のどこに三人が後ろめたく思うところがあるのだろうか。
そんな疑問を脳に抱き、ノアは率直に彼女らに質問をした。
「なぁ、なんで三人とも何かやらかした人みたいな顔してんだ?」
「「「っ!!!???」」」
ノアが質問を投げかけると、三人は一瞬身体をビクッとさせたため、それが図星であることがわかった。
そこでノアはある程度のことを察し、さらに三人に言葉をかける。
「もしかして、何か心当たりでもあるのか?俺が倒れた原因に」
「「「っ!!!???」」」
あ、同じ反応。
これは確定ですね。
ノアは全てを察した為、ここであえて医者の方に確認をとった。
「すいません。今回俺がこうなったら原因を教えてもらえませんか?」
「はい。今回あなたが倒れた原因は過労です。聞いた話によると、あなた日中はかなりキツイ仕事をしているらしいですね?」
「まあ、そうですね」
「ですがあなたは筋肉もあって体格も大きいですので、恐らく並大抵の肉体労働では倒れることはないでしょう」
「はあ」
ここでノアは核心を突く一手を放つ。
「では俺が倒れた理由はもう一つあるんですか?」
「はい。恐らくですが、あなたは何かが原因で夜あまり休めていないのでしょう。それで疲れがとりきれず少しずつ疲れが蓄積していって…ということが考えられますね」
「ほお…夜ですか…」
ノアは完全に全てを察し、嫁三人に時と目を向けた。
だがなぜか三人とは目が合わず、彼女らも自覚しているということがわかった。
だが三人からは反省の色が見られない為、ノアは三人に少し強めに言葉を放った。
「三人とも、後でお説教な」
「!!…わ、わかりました…」
三人は言い訳することもなくノアの言葉を受け入れ、そのまま小さくうずくまった。
その姿を見て三人は面目なくて言葉も発せないということを察し、今はこの話を終えて今後の話を医者と話し始めた。
「あの、俺いつ退院できます?」
「この調子で行けば明日には退院できると思います。あなた結構回復早いですし。逆になぜ今まで回復が間に合っていなかったのかが疑問なくらいです」
医者の言葉を聞き、ノアはサイド三人にジト目を向けた!
(ったく…まあ流されてた俺も悪いけど!)
毎回鋼の精神だの言っているが、可愛い嫁の前ではそんな鋼などただの紙切れでしかなくて。
結局ノアは毎回付き合わされるハメになり、そして今限界を迎えてしまったのであった。
(…まあ一応俺も反省するか)
やはり疲れた時はキッパリと断る心の強さが必要だと今回の件を通して理解することができ、ノアは今度こそは強靭な精神で耐え抜こうと決心する。
(次からは…絶対に断ってやる…!!!)
とは言っているが、心のどこかでは絶対断れないだろうと何となく察しており、この決意はすぐに破られることになるだろう。
だが今晩だけは確実に安泰である為、ノアはこのタイミングで今までの全ての疲れを癒す為に嫁たちにあることを要求した。
「なあ、手握ってくれないか?」
「手、ですか…?」
「そう」
ノアは案外こういう恋人らしいことが好きである為、こうすることで疲れが癒えるだろうと考えたのである。
そしてそれを嫁たちに要求し、彼女らは反省の色を見せて優しく手を握ってきた。
「ん、ありがと」
「ほお…これは中々見せつけてくれますね」
「あはは、すいません。でもこうした方が疲れが取れる気がするので」
「ク….!私もいずれこういう男と…!!」
医者はなぜか嫉妬している様子で、今にも男を狩りに行きそうな形相をしていた。
それに対してこの場にいる全員は苦笑いを向け、そして医者は居心地が悪くなったのか素早く病室を去っていった。
「な、なんか色々闇がありそうだったな…」
「彼女は昔からあまり縁に恵まれてませんでしたので…少し闇落ちしてしまいましたね…」
「闇落ち…」
この場にいる全員はもちろん素晴らしい縁に恵まれた側の人間である為彼女の気持ちは分からず、ただ彼女にいい縁があることを願った。
「いい人見つかるといいわね…」
「はい…。かなり優良物件だと思うんですけどね…」
「スペック高いもんね〜…」
と、そこで三人はなぜかノアに目を向け、どこか疑うような目を向けてきた。
その状態で何秒か停止してしまうが、ノアはすぐにその視線を理解した。
「いや結婚しねぇよ!!!???」
彼女らが向けてきた視線は「新しいお嫁さん候補にできるんじゃない?」といった意味だと察し、ノアは即座にそれを否定した。
すると三人は安心したように胸を撫で下ろすが、なぜかアメリアは一応フォローをしてきた。
「別に奥さんを四人持つのは貴族の世界では珍しくないんだよ?」
「貴族単位で話すなっ!!!」
一応こちとらガチ貴族出身だけどね!!!
でもそれとこれとは話は別であるし、今は貴族という肩書きを捨てて一般人として生きている。
その為四人の妻となると色々と大変なことになるし、これ以上妻を増やしたら一人一人に構う時間が少なくなってしまって不満が出てきそうである。
なのでノアはアメリアの言葉もしっかり否定し、これ以上妻を増やさないことを宣言する。




