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66 不安に駆られて


家の建設が始まってはや半年という時が経ち、このプロジェクトはいよいよ大詰めとなっていた。


その現場で人一倍、いや何十倍も働くノアも当然毎日のように仕事に勤しんでおり、毎晩宿に帰る頃にはヘトヘトになっていた。


「た、ただいまぁ…」


ノアは部屋の扉を開けるなりすぐにその場に膝をつき、そして目からは完全に光が失われていた。


「お、おかえりなさい…」

「大丈夫…?」


今にも倒れそうな夫に妻三人はすぐに駆け寄って声をかけた。


だがノアは上手く言葉を放つことができず、その場で地を眺めることしか出来なかった。


そこで流石に異常を感じた三人は即座に心配という感情が湧き上がり、すぐにノアに肩を貸した。


「と、とりあえずベッドに連れて行きましょうか…!」

「うん…!私こっち支えるね!」

「じゃあ私はこっちを…」


フェリスとアメリアに支えられ、ノアはベッドに運び込まれた。


そしてベッドに寝転ぶや否や、セリーが額に手を当てて体温を測ってきた。


「ん…これは…!?」


数秒セリーがノアの額に手を当てると、その手からはあり得ないほどの熱が伝わってきて。


「と、とんでもない高熱です…!今すぐ病院に連れて行かないと…!!」


いつも冷静で慌てることなどないセリーがここまで慌てているのを見て、フェリスとアメリアはそれ程の緊急事態だという事を察し、二人もかなり焦り始めた。


「わかったわ…!私が魔法でなんとか運ぶわ!!」

「そんな事できるの!?」

「わからないわ…でも、やるしかないでしょう!?」


焦る気持ちで完全に冷静さを失ったフェリスは確実性のない事を実行しようとするが、アメリアとセリーはそれを止めにかかる。


「いえ、それはやるべきではありませんっ…!」

「ど、どうして__!?」

「まず普段のフェリスちゃんでもできるかわからない魔法を妊婦さんが制御できると思う?」

「__っ!!」


アメリアの言葉は紛れもない事実であり、フェリスは反論の言葉を失う。


だがフェリスのノアを助けたいという気持ちが本物である事は二人に十分伝わっており、そこでアメリアがが一度冷静になって指示を出した。


「とりあえずノアを運べるぐらい力のある男の人を集めないと。セリーちゃん、お義父さんにお願いして来てくれない?」

「わ、わかりました!」


アメリアの言葉の直後、一瞬でセリーは宿を飛び出して父のいる実家に走って行った。


そしてその姿を見送った後、今度はフェリスに言葉をかけた。


「フェリスちゃん。まずは落ち着こうか。今私たちが慌てたら、本当にノアのこと助けられなくなるかもよ?」

「っ…そ、そうね…」


アメリアの言葉によってフェリスは一旦落ち着く事ができ、冷静に今の状況を整理し始めた。


「まず私たちはノアが病院に連れて行かれるまでの間少しでも症状を和らげる必要があるわね」

「その通りだね」

「じゃあとりあえず私が上半身をするから、アメリアは下半身をお願いするわ」

「任せてっ」


二人とも世界屈指の魔法学院を卒業しているため、人間一人に冷却魔法をかけることぐらいは容易いことであった。


だがそれはただの応急処置でしかなく、この高熱の根本を除去することは出来ない。


二人はそれを理解し、病院に着いた時に少しでも症状が楽になっている事を願って魔法を使い続けた。


「…っ」

「…!!」


だが一つ想定外だったのは、自分が思っていた何倍も体力が落ちている事であった。


普段なら何十分でも使える魔法も、今は五分も経てば限界が迫ってくるほどである。


「これ…結構しんどいね…!」

「ええ…でも…ノアのためなら…!!」


どれだけ苦しくても二人はノアを助ける一心で魔法をかけ続け、それから数分後に勢いよく部屋の扉が開かれた。


「大丈夫か!!!???」


セリーは父のダンテを宿に連れて来て、ダンテはすぐにノアの近くに駆け寄った。


「よし!今すぐ病院に運ぶぞ!」


ダンテはノアを抱え上げ、そのまま勢いよく部屋から去っていった。


そしてセリーもその後ろを着いて行こうとするが、部屋に残る二人の足が動いていないことに気づいた。


「ふ、二人とも大丈夫ですか!?」

「う、うん…」

「大丈夫よ…っ」


二人は無事だと言うがどう見ても顔色が悪く、そして足が動きそうにない様子であった。


その状況からセリーはある程度のことを察し、さらに焦りを深めた。


「ま、まさか…無理したんですか…!?」

「そこまで無理はしてないよ…ただ、やっぱり子供がいると疲れるものだね」

「な、何してるんですか!?」


二人がノアのために無理をしたことがわかり、セリーはなんとも言い表せない驚きのような怒りのようなものが込み上げて来た。


だがしかし二人のノアを助けたいという気持ちは無下に出来ず、セリーは深呼吸をしてこの気持ちを沈めた。


(いや、これは今する話ではないですね…。とりあえず、二人を回復させることを優先しないと…)


セリーは冷静に判断を下し、うろ覚えの回復魔法を二人にかけようとした。


だがしかし、二人に腕を掴まれて止められてしまう。


「ダメだよ。今はセリーちゃんも体力が落ちてるんだから、そんなことしたら今度はセリーちゃんが病院に行かなくちゃならなくなるよ」

「それにあなたはさっき結構走ったのだから、あなたもここで休むべきよ」

「…確かにそうですね」


二人の言葉は最もであり、セリーは諦めてここで数分間休むことにした。


だがもちろんその間も焦る気持ちは払拭し切れず、三人がいるこの空間には妙な緊張感が走っていて。


「私、もうそろそろ行けそうな気がするわ」

「ダメだよ…!フェリスちゃん、まだ結構しんどそうだもん」

「でも…早くノアのことを…っ!」


時間が経つごとに三人の不安な気持ちは高まり、少しずつ冷静さを失っていく。


「確かに…気持ちはわかりますけど…」

「私たちが病院に着くまでに力尽きたら、そっちの方が大事だよっ….」

「…っ…そうね…」


いつも頼りになるフェリスが冷静さを失いつつある。


それだけでアメリアとセリーが焦るには十分過ぎたが、二人は決して焦らないように心を抑えていたていた。


だがやはりノアのこととなると次第に制御が効かなくなり、三人は涙を流しそうになりつつ体力の回復を待つことになった。


そんな監獄に囚われているような長い時を過ごし、二十分後ようやく三人は宿から足を動かした。


だがやはりまだまだ体力は回復し切れておらず、肩を並べて歩く事が精一杯であった。


だがそれでも三人はノアが心配だという気持ちで足を動かし、数十分後にようやく病院に着いたのだった。


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