65 嬉しい報告
二人は最近、ある違和感を抱いていたらしい。
その違和感とは、まさに例の日が来ないという最近妊娠したフェリスにあった出来事であった。
そうとなると当然二人は早速病院に行く事を決めたのだが、どうやらサプライズをしたかったらしい二人はフェリスだけに話してノアとデートをさせるようにしたらしい。
そしてノアはまんまとフェリスとデートをし、そのタイミングで二人は病院に行ったらしい。
そしてその結果は、家族みんなが望むようなものであったらしい。
「あはは…マジか…」
サプライズというのは驚きと喜びを同時にくれるものだと考えていたが、今のノアの脳内にはそのどちらとも言えない感情が渦巻いていた。
その為ノアは引き攣った笑みを浮かべ、今も頑張って理解しようと脳を動かしている。
「つまり俺にはもう三人の子供がいるってことか…?」
ノアは事実確認のために三人に質問をしたのだが、なぜかアメリアに首を横に振られて否定されてしまう。
「ううん。違うよ?」
「え?」
ようやく理解が追いついてきて自分の三人の子供が生まれるという事を脳が理解したあたりだったのだが、それを否定されてしまってさらに脳が混乱を深めた。
「じゃあどういう事だ…?訳がわからないんだけど…」
ノアは見るからに混乱した様子でアメリアに再び質問をする。
そしてそれを見てフェリスとセリーが嬉しそうに微笑み、アメリアの方を見つめた。
「実はこのサプライズ、これで終わりじゃないんですよね?」
「え」
「ほら、あの話しましょう?」
「う、うん…」
可愛らしいものを見る目で笑う二人とは反してアメリアは顔を真っ赤にして恥ずかしそうに下を向いていたのだが、二人の言葉の直後にこちらを向いて真っ直ぐな眼差しを向けてきた。
「あ、あのね…!実はその…ふ、双子だったの…っ!」
「…」
………………。
え?
(フタゴ…?)
ノアの脳は完全に機能が停止し、目も口もポカンと開いた状態で固まってしまった。
するとフェリスとセリーはさらに嬉しそうに笑い、身を乗り出してアメリアの背中を軽く叩いた。
「ほら、アメリアちゃん」
「アレ、するんでしょう?」
「う、うん…っ」
二人の口ぶりからしてまだ何かを企んでいるようであるが、ノアはそれどころではないためまだ身体を動かさず固まっていた。
だがしかしこの妻たちがそんな事を気にするはずがなく、三人はアメリアを中心にして正面からノアに抱きついた。
「!?」
「やっぱりノアは暖かいですね」
「確かに。何だか心の中が暖かくなるわ」
突然超絶美少女妻たちに抱きつかれてしまうと、流石に脳機能が停止していたノアも完全に復活し、驚いたように言葉を漏らした。
「え、どうした急に…」
するとフェリスとセリーがアメリアに対して笑みを向け、それに押されたアメリアが言葉を放った。
「実は…ちょっぴり怖かったんだ。私だけ双子だから、もしかしたら仲間はずれにされちゃうんじゃないかって」
アメリアは虚な目をしながら自身の本音を漏らし、抱きつく腕の力を強めた。
「でもね、ノアがそんなことしないって言ってくれて、私とっても嬉しかったの。それでね、もしそう言ってくれたら、家族みんなでギュッてしようって決めてたの」
「なるほど…」
アメリアは嬉しそうにニコニコとした笑みを向けてきて、それに対してノアは抱き締めるという形で応えることにした。
「きゃ♡」
「ふふ、これだと私たちも抱きしめられちゃうわね♡」
「ノアの心臓の音…安心する…♡」
手を大きく広げて三人をギュッと抱き締めると、三人ともが嬉しそうに笑って体重を預けてきた。
そしてしばらくの間そのまま夫婦でくっついてイチャイチャし、気がつけばもう寝る時間が迫ってきていた。
「あれ、もうこんな時間か」
ノアが時計を確認した事をきっかけに三人は宣浩の胸から離れ、そしてそのままベッドに入り込んだ。
「ほら♡早くおいで?♡」
アメリアはニヤニヤとしながらベッドの真ん中を叩き、ノアをベッドに誘う。
そして先程までのイチャイチャて気持ちが昂っていたノアはまんまとベッドに飛び込み、そしていつものように三人に襲われるのだった。
◇
「もう四人目か…」
ある休日の昼、毎月届く息子からの手紙を見てレノスは小さく言葉を漏らした。
そしてその隣にいた妻のアリアも驚いたように目を見開き、口元を押さえながら言葉を漏らした。
「あの子、もう大家族のパパになるのね〜」
「ああ。まさか最近まで子供だったあいつが、数ヶ月後には四人のお父さんになるなんて、信じれないよな」
レノスは驚きを見せつつも同じ父という立場になる息子に対して心の中で笑みを向け、そして今の息子の幸せそうな顔を想像した。
「アイツ、今絶対笑ってるよ」
「そうね。あなたとは違って笑う時はちゃんと笑う子だから、きっと奥さんに綺麗に笑いかけてるわよ」
「なんか少し余計じゃないか?」
アリアはノアほど笑みを向けてこない夫に対して不満を漏らし、そしてレノスは心臓を大きく跳ねさせた。
「俺だって最近は結構笑っているだろ?昔とは違うんだよ」
「そうかしら〜?私最近毎日冷たくされてる気がするわ〜」
「そんなことはしてないぞ!?」
相変わらず仲のいい夫婦はいつものようにしていて、この状況で他人が部屋に入ってくるなど普通に不可能なのであるが、なぜか一人だけ無抵抗で部屋に入ってくる人がいて。
「あの、お兄様からお手紙が届いたと聞いたのですが」
躊躇いなく部屋の扉を開けたのはノアの妹でありアルカルナ公爵家の長女であるラヴィアであり、彼女はどこかワクワクしたような表情で二人に近づいた。
「おお、今回も結構長文ですね」
「大事な話があるから、今回も結構長いみたいだな」
「最近ずっとそんな感じよね〜」
ここ数ヶ月、毎月ノアから手紙が届く訳だが、ノアは毎月のように嬉しい報告を持ってくる。
それは結婚の報告であったり妊娠の報告であったりで、ノアが最近充実している事を示していた。
それを理解した家族はノアが幸せそうにしていることに安心感を抱き、旅立たせてしまったことに対する後悔を薄めていた。
「へ〜、四人目ですか…お兄様、もうすっかり良い夫になられているようですね」
「だよな。奥さんが三人いて色々大変だろうに、子供まで作るなんて。なかなか肝が据わってるやつだよ」
「奥さんがいると大変なの?」
「!?」
奥さんに対するトラウマと思わしかものを植え付けてきた張本人が恐ろしい目つきで睨んできて、レノスは血の気が引いたように顔を白くした。
「いや、そんなことはないよ?ただ三人相手にするのは結構体力が必要だろうなと…」
「ふーん、今はとりあえずそういうことにしておきましょうか。でも夜は覚悟しておいてね?」
「あ、ハイ…」
「ふふ、お二人とも仲良しですねっ」
二人が仲良さげに(?)会話をしていると、それを見たラヴィアが嬉しそうに笑みを向けた。
「お兄様も、きっとこういう家庭を築いていくのでしょうね」
遠く離れた地にいる大好きな兄の楽しそうな姿を思い浮かべ、それに自分のことのように笑みを浮かべる。
そんなラヴィアの兄想いな部分に対し、両親はかなりの感心を向けた。
「ラヴィアも、いつかそんな家庭を築きそうだな」
「そうでしょうか?」
「ええ。旦那さんと毎日笑い合って、毎日子供の面倒を見て。あなた、きっといい奥さんになるわよ」
「ふふ、ありがとうございますっ」
ラヴィアの結婚が現実味を帯び始めてきた今、、ラヴィアはノアのように幸せな家庭を築く事を考えながら毎日を生きている。
そしてそんな娘の成長を近くで見守る二人は、長女としてのラヴィアに大きな期待を向けるのであった。




