64 報告
フェリスの妊娠発覚から三ヶ月後、フェリスのお腹は少しずつ出始め、一同は本当に子供ができた事を自覚し始めていた。
そして家のことは基本アメリアとセリーが担当し、ノアは仕事に勤しむ毎日。
肝心のフェリスはというと、アメリアとセリーの提案でよくセリーの母親であるセシリアとお茶をしながら出産や子育ての話などをよく聞いているらしい。
そんな風にして、アルカルナ一家は平和な毎日を過ごしていた。
そしてそれは今日のような休日も変わらず、ノアとフェリスは半日の間デートをして過ごし、そして日が暮れた今ようやく二人は宿に辿り着いた。
「「ただいま」」
「あ、おかえり〜」
「おかえりなさい。今日のデートはどうでしたか?」
「村を散策するってのは結構楽しかったな〜。いい運動にもなったし」
「それは良かったですっ」
部屋に入ると、アメリアとセリーはパジャマ姿で机を囲っていて、今はおそらくお茶を飲みながらおしゃべりタイムだったのであろう。
この感じは女子会であるような気がする為ノアはすぐに風呂に入る支度をし、そして女子会に混ざるであろうフェリスに質問をなげた。
「フェリス、先入るか?」
フェリスはアメリアとセリーの方をチラチラと見て何かを確認すると二人が首を縦に振り、それを確認したフェリスが言葉を返してきた。
「ううん、私は後でいいわ」
「おっけー。じゃ、いってくるわ」
ノアは手を振ってくる三人を見つめつつ風呂に入り、疲れを癒す為ゆっくり湯船に浸かった。
だがしかしフェリスを待たせているはずである為、あまり長居せず素早く身体を洗って十数分で風呂から上がった。
「ふぅ〜、フェリス、風呂空いたよ」
「あ、うん…」
「?」
バスローブを纏いつつフェリスに声をかけたのだが、なぜか彼女は微妙そうな表情で二人の方を見た。
すると二人は軽く笑いながらフェリスを風呂に入るよう促し、そしてフェリスは風呂場に入って行った。
「で、女子会は終わったか?」
「うん、一応ね」
どうやら三人の内緒話は幕を閉じていたようである為、ノアは安心して二人の間の椅子に腰をかけた。
「にしても、まだまだ暑いよなぁ。ホントやになっちゃうよ」
「この辺りは夏が長いですから、まだこの暑さは続きますよっ」
「え゛ぇ〜〜」
ノアはバスローブを脱いで今すぐにパンイチになりたいという気持ちを抑えつつ天井を見つめ、何を話そうか考え始めた。
だがそんな事をしている間に謎に微笑んでいるセリーが話題を振ってきたため、そちらに耳を傾けた。
「ノア。あなたは子供、何人欲しいと思ってますか?」
「ん!?」
しんみりとした雰囲気でお茶を飲みながら軽く笑えたりする話かと思えば、その内容は全く笑うところがない話であった。
その為ノアは思わず目を見開き、セリーに質問の意味を問うた。
「ど、どういうことだ…?それ、今言わないとダメか…?」
「はい。今ハッキリ言って貰わないと、こちらにも心の準備というものがありますので」
(う…確かにその通りだ…)
セリーの最もな意見に対してノアもしっかり納得するが、それでも具体的な数字を答えるのは躊躇ってしまうものである。
というかそもそも、具体的な数字なんて考えたことがない。
今までにもこういった質問を何度もされてきたが、その度にたくさんとか数人とか曖昧な言葉で誤魔化してきた為、ノアも妻たちも具体的な数字について話し合ったことがないのである。
だがフェリスの出産が現実的になってきた今、二人は次は自分かと考えているのであろうし、今後何人産むのかなどの話はしっかりと固めておいた方が精神的に楽なのであろう。
なのでノアは現実的な数字を提案してみようと考えはするのだが、多分二人はそんなのでは納得しない。
恐らく今彼女らが求めているのは、こちらがどう考えているのか、という部分である。
なのでノアは自分がどうしたいのかしっかりと頭を巡らせ、そして数秒後に答えを導き出した。
「正直言うと…それぞれ三人ずつは欲しいなと思ってる」
ノアは自分の考えをハッキリと二人に伝えた。
そして二人はいつものように顔を赤くしながら恥ずかしがるかと思えば、そうはならずに真剣に話を進め始めた。
「三人ずつ、ですか」
「三人なら多分頑張れると思うけど、やっぱりそれは一人目二人目を産んだ時の体力次第だよね」
ノアの発言に対して二人はしっかりと話し合いを重ね、そしてまたしてもノアに意見を求めた。
「じゃあさ、もし私の最初の子が双子だったらその次は一人だけ産んで終わりってこと?」
「ん〜…そうだな…」
アメリアの質問は想定外であった為、ノアはかなり頭を悩ませた。
(アメリアの話の通りだとアメリア自体は二回の出産で三人産めて俺の要望も満たしてるわけだけど…)
どこかアメリアの表情は寂しそうなものであり、何か仲間はずれになっているような寂しさを覚えているような気がした。
(いや、ここはみんな平等に三回出産とかがいいか…?特にアメリアなんかは子供に結構執着があるっぽいし)
あまり詳しくは言わないが、毎晩アメリアだけは異様に嬉しそうにしている為、恐らくそういう愛も求めているのだろう。
ならノアから出される答えは一つであり、その答えを言葉に変えた。
「まあその時のアメリアの体力次第にはなってくるけど、多分俺は三回目の出産も求めるだろうな」
「そ、そうなんだ…」
アメリアはノアの言葉を聞くと先程と表情を一変させ、耳まで赤くして斜め下を向いてしまった。
(…?なんか今日の二人は読めないな…)
何かいつもの二人とは違う気がして二人のことを見つめるが、それだけでは違いはわからない。
ならいっそ言葉にしてみようとノアは二人に質問をしてみたのだが、そこでセリーに答えを先送りにされてしまう。
「その話はフェリスちゃんがお風呂から上がってからしますね」
どうやら二人がいつもと違う理由は家族に変化が訪れるような何かがある為のようで、二人は家族全員が集まってから大事な話をするようだ。
それを理解したノアはゆっくりお茶を飲みながらフェリスのことを待ち、数分後に風呂場の扉が開かれた。
「ごめんなさい。少しゆっくりしてしまって」
「別に謝る必要はないですよ?妊婦さんなんですから、しっかり疲れは取っておかないとですよっ」
フェリスが謝っているのを見た感じ、多分フェリスは二人の話の内容を知っている。
その為こちらだけが話の内容を知らないというわけであるが、経験上そういう時は大体とんでもない話になる。
(何もなければいいけどな…)
ノアはそのように願いを込めるが、この三人の雰囲気からしてそれはあり得ないと察してすぐに諦めてしまった。
(今日は早く寝たいナァ…)
そんな事を考えつつ下を向いて悲しそうな目をしていると、フェリスがノアの向かいの席に座り、そのタイミングでセリーが軽く両手を叩いた。
「さて、みんな揃いましたし始めましょうか」
一体何を始めるのかと疑問を抱くがとりあえず話を聞いてからにしようと黙っていると、アメリアが頬を赤らめつつも真剣な表情で語りかけてきた。
「ノア、実は報告があるの」
「何だ?」
「これは私とセリーちゃんの話なんだけど…」
そこで二人は互いに見つめ合い、タイミングを取って同時に言葉を伝えてきた。
「「私たち、妊娠したの(です)」」
「…………………」
ノアの頭は理解を放棄した。




