62 愛の真実
「アルカルナさん、どうぞ〜」
受付をして待つこと五分、ノアたちはすぐに病室に案内された。
だがまだ一同は心の準備ができておらず、胸に手を当てながら腰を上げた。
「も、もう順番来ちゃったね…」
「結構緊張しますね…」
「…そうね」
そして恐らく一番緊張しているのはフェリスであり、彼女は少し下を見ながら立ち尽くした。
「…」
「どうした?緊張してんのか?」
フェリスの緊張にいち早く気づいたノアはそっとフェリスの背中に手を回し、優しく撫でながら緊張をほぐす。
「大丈夫だよ。別にできて無くても誰も責めたりしないよ」
フェリスの緊張の原因はそこだろうと察し、原因を潰そうと言葉をかけた。
するとフェリスは顔を上げ、そしてこちらを見て小さく笑った。
「そうね。でもできてた方が嬉しいでしょう?」
「それは…まあな。フェリスとの子供だから、嬉しいに決まってるよ」
「私も、あなたとの子供ができてたら嬉しいわ」
そう言いつつフェリスは満面の笑みを向けてきて、そして前を向いて歩き始めた。
「さあ、行きましょうか」
「お、気合い入ってるね」
「これならお腹の子供も安心ですね」
「だからまだわかんないって」
何度言っても子供がお腹にいる前提で話をしようとする二人に対してしっかりツッコミを入れ、そこで笑顔を作って診察室の扉を開いた。
「こちらにどうぞ〜」
部屋の中に入ると白衣を着た医者と思われる女性と助手の女性がいて、ノアは辺境の村なのにこのような配慮が行き届いていることに驚きを表した。
「おお、女性の方か」
「ふふっ、驚きました?」
「まあな。女の人の医者なんて王都でも珍しいから、流石にこの村にいたら驚くよ」
少し得意げなセリーとそのような会話を繰り広げつつ椅子に腰掛けると、その医者はセリーとノアのことを見て軽く笑いかけた。
「あら、新婚夫婦さんはもう子供作っちゃったのかしら?」
医者が普通に飛んだもない発言を飛ばしてくるためノアたちは思わず目を見開いて驚くが、セリーはそのような反応をせず頬を膨らませて子供のように医者に言い返した。
「もう、私たちが出会ってまだ日が浅いことは知っていますよね?なのにできてたらおかしいってわかって言ってますよね?」
「まあね〜。でもあなたたちどうせ毎日のように盛ってるんでしょ?」
「ん゛__!?」
医者の思いがけない発言に対して思わず吹き出してしまうが、二人は構わず話を続ける。
「それはそうですけど、医者なら期間的におかしいのはわかりますよね?」
「まあね〜。でもこのままだと、またここであなたの姿を見れる日はそう遠くなさそうね」
「それは…否定しませんが…」
セリーはそう言いつつ頬を赤らめてこちらの方を向いてくる。
そして医者からの視線もこちらに向いてきたため、ノアは目を逸らしてこの話に入らないように頑張った。
すると諦めたらしい医者がハァと息を吐き出して受付の時に書いた紙を見始めた。
「で、今日検査するフェリスさんはどなたですかね?」
「私です」
「おお…これまた相当な美人…」
フェリスが小さく手を上げて自分であることをアピールするや否や医者はすぐにフェリスの顔を眺め始めて小さく感想を漏らした。
「これだけ美人だとさぞ夜は盛り上がってるんでしょうなぁ…旦那さん、けっこうやり手ですね」
「「…」」
医者の発言に対してフェリスは頬を染めて顔を下に向けるが、ノアは軽くジト目を向けて医者に言葉を放った。
「まあそれはどうでもいいじゃないですか。とりあえず診てもらっていいですか?」
このまま雑談を続けているといつかとんでもない発言をされてこちらの脳を破壊されると考えたノアはすぐに診察に入ってもらおうと声をかけた。
すると医者は少し不満そうな顔をしたがちゃんとノアの言葉に従ってフェリスの身体に触れ始めた。
「わかりましたよ。なら、少しお腹触りますので服上げて貰っていいですか?」
「はい」
そう言ってフェリスは服を軽く上に上げ、医者にお腹を曝け出した。
そして医者はお腹を何度か触ったり道具を使ったりして確認をし始めた。
その間ノアはどうすべきか頭を悩ませるが、隣のアメリアとセリーが話をしているのが聞こえてきてそれを聞くことにした。
「ねえねえ、このお医者さんとどういう関係なの?結構親しそうだったけど」
「ああ、実はこの方の家が私の実家の近くでして。歳は少し離れているんですけど、昔はお姉さんだと思ってよく遊んだりしてましたね」
やけに仲がいいと思えば、セリーと医者はそのような関係であり、ノアはようやく腑に落ちた。
(だからあんな話をしてたのか…いやだからっておかしいな)
仮に昔からの付き合いがあったとしても、あんな話をするのは普通に考えたらおかしいということに気づき、ノアはその医者に対してまたジト目を向けた。
(あんまり外では関わらない方が良さそうだな。もし一人でいるところに声をかけられでもしたら一巻の終わりだからな)
たぶんこの人と二人で話でもしようものならこちらの話を洗いざらい話させようとしてこられるだろうと思い、そんな話を他人に絶対したくないノアは仮に見かけたとしても知らないフリをすることを決意した。
そんな風にして医者の触診を待っていると、医者は次に魔法を使いはじめた。
「ふむふむ…なるほどねぇ…」
「そ、その魔法は一体…?」
フェリスは自身に見たことのない魔法をかけられているのを見て、医者に怪訝そうな表情を向けた。
すると医者は魔法を使いつつもみんなに説明をしてくれた。
「これは普通の医療系魔法ですよっ。もっとわかりやすく言えば、透視ができる魔法かしら。医学の世界では一般的な魔法なんですよ〜」
「へ〜、そんな魔法もあるんですね」
「まあ基本的に医療従事者以外の使用は認められていませんので、一般の方からすればかなり珍しいでしょうね」
医者の説明を聞き、一同は納得したように頷いた。
「確かに、こんな魔法が一般に出回ったら大変なことになりますもんね…」
「だから魔法に詳しいフェリスちゃんでも知らなかったんですね」
アメリアとセリーが頷きながら拳に顎を乗せてこの魔法の認知度に対する理解を深めたところで、医者はフェリスの診断結果を告げ始めた。
「よしっ。これで診察は終わりね」
「どうでしたか?」
「これは…妊娠してますね」
「「「「!!!???」」」」
一同は同時に目を見開き、そしてノアは真っ先にフェリスに抱きついた。
「よかった…ありがとう…!」
ノアは涙を流しつつ力強くフェリスを抱きしめる。
そしてフェリスもノアの背中に手を回し、そっと背中を撫でながら微笑んでくる。
「こちらこそありがとう。私と一緒になってくれて」
様々な苦難を共に乗り越えてきたからこその言葉にさらに涙を誘発され、ノアはフェリスの胸の中でいつもより大きく泣いた。
そしてこの場にいた全員はその姿を温かく見守り、夫婦の愛の結晶の完成を見守った。




