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60 緊張の報告


翌日の早朝、いつものように早起きをして仕事のために備えようと身体を起こしたのだが、そこにいつものような騒がしさはなかった。


「あれ、みんなまだ寝てんのか?」


普段なら全員がニコニコと笑いながら挨拶をしてくるのであるが、今回はまだ全員起きていないらしく、今日は静かな朝を迎える事になった。


「ま、たまにはこういう朝もいいか」


たまには一人で朝を過ごすのも悪くないと考えつつベッドから降りてまずは朝風呂に向かった。


ノアは風呂そのものが好きであるため朝風呂は毎朝のルーティーンであり、当然今日も例外なく部屋の風呂にゆったりと浸かった。


「あ゛〜生き返るぅ゛〜」


ノアはオッサンみたいな声を出しつつ温かい湯船に浸かり、そのまま今日の仕事を頭の中で整理し始めた。


(とりあえず、今日も木材運びを中心にやるかねぇ。あと二割ぐらい残ってるから、今日死ぬ気で終わらすか)


普通ならその二割を運ぶのに十人がかりでも三日ほどかかりそうであるが、この男にそんな常識は通用しない。


(で、今日死ぬほど疲れて帰ってからしばらくみんなに甘えまくってやろうか)


先程まではカッコよかったのに突然考えが可愛らしいものになってしまうが、これぐらいはぜひ許してほしいものである。


最近かなり疲れが溜まってきていて働くことがかなり億劫になってきているのに、今日は頑張って仕事をしようとしているんだぞ!


こういう時ぐらい死ぬほど甘える権利をくれないといつか死ぬぞ。寂死ぬぞ。


まあとりあえず死ぬとかはどうでもよくて(よくない)、今は全身をマッサージしてできるだけ疲れを癒しておかねば。


そう思って自分の手で全身をマッサージしてみるのだが、やはり昨晩妻たちにしてもらったマッサージと比べるとどうしても物足りなく感じてしまい、つい声に漏れ出てしまう。


「やっぱ、なんか足りねぇよなぁ。みんなにマッサージしてもらった方が、何倍も気持ちよかったなぁ」


そう声を漏らして今晩もお願いすることを決意していると、突然風呂場の扉が開いてタオルを巻いた美少女が入ってきた。


「なら、今から私がしてあげるわよ」


そこに立っていたのは高身長スタイル抜群超美形女子であるフェリスであり、ノアは当然の如く目を見開いて驚いた。


「え!?な、なんでここに__!?」

「あなたがお風呂に入って行くのが見えたから…?」

「なんで疑問形」


もはや夫と一緒に風呂に入る理由などその程度でよくなってしまったのかと嬉しいのか恐ろしいのかわからない感情に襲われ、ノアはこれからの朝風呂ライフに危惧する。


だがしかし妻からすればそんなことはどうでもいいらしく、フェリスは話を逸らしてさっさ浴槽に入ってこようとする。


「まあまあ、理由なんてなんでもいいでしょう?とりあえず今からマッサージしてあげるから、ちょっとスペース空けてもらえるかしら?」

「すっげぇ強引っすね…」


いつものように強気な姿勢でくるフェリスに対してしっかりとスペースを空けてあげると、彼女は普通に湯船に浸かってきて、まずはこの湯についての感想を述べ始めた。


「ん…いつもより少し熱いわね。毎朝これぐらいで入っているのかしら?」

「まあな。朝は少し熱いぐらいの方が脳が覚めるし、夜に溜まった疲れをちゃんと癒しておかないといけないからな」


普通なら夜に疲れが溜まるなどおかしな話であるが、この夫婦に至ってはそれが当たり前のことであるため、フェリスは申し訳なさそうに謝ってくる。


「ご、ごめんなさい…。疲れているのにいつも付き合わせてしまって…」

「別に謝るほどではないよ。俺だって好きで付き合ってるわけだから、この疲れは別に悪いもんじゃないし」


ノアは昔から嫌ならキッパリと断るタイプであり、そのことをちゃんと知っている幼馴染さんはノアの言葉が嘘ではないことがわかり、安心したように胸を撫で下ろした。


「そう…それならよかったわ。でも本当にしんどい時はちゃんと言うのよ?じゃないとあの子たちはわからないから」


少し笑いながら強引タイプのアメリアとセリーに対する対応を話してきたため、ノアもクスクスと笑ってしまうことになった。


「確かに、あの二人は言わないと無理矢理にでも襲ってきそうだな。特にアメリアはなんかは疲れて寝てても襲ってきそうだし」


ナチュラルに一つ年上の先輩のことを小馬鹿にしてフェリスと笑いあい、そして直後からマッサージを始めてきた。


「あ、マッサージ、始めるわねっ」

「頼むわ」

「まずは手からやって行くわね」


そう言われてノアは手を差し出し、そこにフェリスの白くて柔らかい指が駆け巡る。


「ちょっとくすぐったいな」

「確かに、他の人に手を触られるとくすぐったいわよね。でも今は我慢してほしいわ」

「頑張るわ」


そんな会話をしつつ手をマッサージしてもらい、次は腕のマッサージが始まった。


「ねぇ、ノア」

「ん?」

「ちょっと、話があるのだけれど」


また何気ない会話が始まるのかと思えば、フェリスは先程とは違う表情を浮かべており、そこで何かあることを悟った。


「ああ。言ってみな」


もし何か悩みでもあるのであれば真剣に答えてあげたいし、ここはしっかりフェリスの言葉に耳を傾けようと言葉をかけると、フェリスは頬を染めて上目遣いで話し始めた。


「実は…最近あの日が来てなくて…」

「あの日…?」


フェリスの濁した言葉ではノアに伝わらず、次に彼女はもっとわかりやすい表現でノアに話した。


「その…女の子の日が…」

「…!?」


フェリスがわかりやすい言葉で話してくれたためノアも言葉の意味を理解し、思い切り目を見開いて驚きを表した。


「それで…今日病院で診てもらおうと思ってて…」

「え、来てない…?体調不良とかではないよな?」

「ええ、健康そのものよ。でもほら…健康でもあの日が来なくなる時はあるじゃない…?♡」


健康で病気でもないのに女の子の日が来なくなる…?


その答えに辿り着くのには少し時間がかかってしまうが、そもそもの女の子の日の存在する意味を考えるとすぐに答えは導き出され。


「え!?それってつまり…」

「うん…妊娠したかもしれないの…」

「えぇぇぇぇぇ!!!???」


ノアの脳天には雷が落ち、今世紀最大の衝撃で全身が覆われた。


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