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59 子供


「「え?」」


フェリスの発言を聞き、二人は目を見開いて固まった。


「ど…どういうこと…?」

「その…最近あの日が来てなくて…。まだ確定ってわけじゃないのだけれど、私は何ヶ月も前からノアとしてたからそろそろかなと思って…」


フェリスは頬を赤く染めつつ目線を彷徨わせる。


「ど、どうすればいいのかしら…?とりあえず一旦病院かしら?」

「そうですね。早いうちに病院に行った方が良さそうですね」

「なら明日の図書館に行く前にでも病院行く?」

「それが良さそうですね」


三人は村の中の病院で診てもらうことにし、そこで一度大きく息を吐き出した。


「にしても、もう妊娠するなんてね〜」

「まだ生活も安定していませんし、そこら辺は私たちが気遣ってあげないとですね」

「別にそこまで気を遣わなくていいわよ?一応体力には自信あるから」


フェリスは少し胸を張って自信ありげな顔を浮かべるが、二人からはジト目を向けられてしまう。


「まあそれはそうかもしれないけど、今この中だとフェリスちゃんが一番体力が落ちてると思うよ?」

「そ、そんなことは__」


アメリアの言葉に対して反論を述べようとするが、セリーの少し深刻そうな声によって止められてしまう。


「アメリアちゃんの言う通りですね。まずフェリスちゃんはかなりの長旅を終えたばかりですので、自分が思っているより体力が落ちている可能性があります」


セリーの言葉を聞いてフェリスは核心を突かれたように体をのけ反らせるが、まだセリーの話は終わらない。


「それに体力があるといっても、それはあくまで平均的な女性に比べたらという話です。かなりの体力を持つ男性ですら厳しい戦いになるという長旅を経験したのですから、フェリスちゃんの身体は思っている以上に疲労が蓄積しているはずです」


フェリスの自身にはあまり心当たりはないことだが、セリーの言葉には圧倒的な説得力があり、フェリスは言葉を失ってしまう。


そんな申し訳なさそうにしているフェリスの姿を見て、セリーは慌てて謝罪の言葉を述べ始めた。


「ご、ごめんなさいっ!別にフェリスちゃんに非があるというわけではなくてですねっ!」

「え、ええ…わかっているわ」

「少しでも体力を蓄えることの大切さを知っていただこうと思っただけで…」


今度はセリーが申し訳なさそうに下を向くが、フェリスは笑顔を向けた。


「ありがとう。心配してくれたのよね?」

「はい、もちろん…」

「なら謝らないで?私も、少し無自覚なところがあったから、気づけてよかったわ」

「そうですか…それならよかったですっ」


フェリスに続いてセリーも笑顔になり、その姿を見ていたアメリアはその倍の笑顔で二人に笑いかけた。


「よしっ!じゃあ明日からはフェリスちゃんは私たちにいっぱい甘えるようにしてね?」

「いや別にまだ妊娠が確定したわけじゃ…」

「でも妊娠してなくてあの日が来ないっていうのは逆に問題だよ?」

「確かにそれはそうだけれど…甘えるというのは…」


フェリスは恥ずかしそうに顔を赤く染め、今までほとんどしたことがない甘えるという行為に抵抗感を抱いている。


だがこのまま抵抗感を抱かれているともし妊娠していた時に不安である為、ここはハッキリさせておこうと二人が動いた。


「甘えるというのは、別にそこまで恥ずかしいことじゃないと思いますよ?私だって、この歳になっても全然親に甘えたりしますよ?」

「そうそう。私だって年下のノアやフェリスちゃんにいつも甘えてるでしょ?もしフェリスちゃんが年上の私に甘えるのが恥ずかしいんだったら、私はそれ以上に恥ずかしい人になっちゃうんだけど?」


アメリアはいつものように謎理論を話すがそこには謎の説得力があり、フェリスは少し勇気を出そうと一歩踏み出した。


「そうねっ。じゃあアメリアが恥ずかしい人にならないように、私も甘えるようにしようかしらねっ」

「それがいいですね」

「ちょっと言い方が気になるけど…まあフェリスちゃんが甘えてくれるならいっか♡」


謎にアメリアは嬉しそうにしており、両手を広げてフェリスの方向を向いた。


「えと…何かしら?」

「早速甘えていいんだよ?♡」

「いや…流石にまだ必要ないんじゃないかしら…?」


先程はああいったけれど、フェリスの中にはまだ羞恥心が残っていて、アメリアの胸に飛び込むことを躊躇ってしまう。


だがフェリスの後ろには敵がもう一人いて、セリーはこっそりフェリスの背中を押した。


「ちょっ__!?」

「は〜い♡よくできましたねぇ〜♡」


アメリアはまるで子供を抱きしめているような感じで優しい声を出していて、なんなら頭をナデナデしてきている。


そこで何か反論してやろうとも思ったのだが、アメリアの謎の包容力に包まれてその気は収まってしまった。


「ちゃんと甘えられて偉いねぇ〜♡」

「フェリスちゃんにもこういう可愛らしいところがあるんですねっ♡」


フェリスが喋らないのをいい事に二人は何でもかんでも言ってくるが、やはりフェリスの口は動きはしなかった。


(なに…?この安心感は…まるでお母さんに抱きついているみたい…)


アメリアの胸の中でフェリスは自分の母の胸を思い出した。


(あの頃は…よくこうやって甘えていたかしら)


それはフェリスがまだ幼い頃、母に毎日のように甘えていた日々のことであった。


あの頃は何も考えずのびのびしていたから甘えることができたけれど、最近はノアや家族を守るために気を張っていたため、甘えるという行為をしばらくしてこなかった。


たからフェリスは甘えることに抵抗感を持ってしまっていたが今アメリアに抱きしめられてようやく安心することができ、フェリスは少しずつあの頃の気持ちを思い出してきた。


(なんだか、少し思い出してきたわね)


そこでフェリスは甘えるという行為を思い出し、アメリアの背中に手を回してこちらからも抱きついた。


「!?…ふふっ、よしよ〜し♡」


そこにはなんとも尊い光景が広がっており、仲良く抱きつく美少女二人を見つめる美少女というとても素晴らしいものであった。


こういう時に限ってノアは眠ってしまっているため、ノアは実質人生の半分を損したという事になってしまった(?)。


まあそんなことはどうでもいいとして、今はこの素晴らしい景色を堪能しようではないか諸君。


「…羨ましいです…」

「ん?あ♡もしかしてセリーちゃんも入りたいの?♡」


何かを察したようにアメリアが片手をセリーの方に広げるが、その行動は少し的外れなものであって。


「ま、まあそれもそうなんですけど、私もフェリスちゃんに甘えられたいなと思いまして」

「なるほど…どう?フェリスちゃん」


セリーの要望はもちろんフェリスの耳にも届くが、流石のフェリスも抵抗感が優ってしまう。


「今は…ごめんなさい。まだ年下に甘えるほどの勇気は持てなくて…」

「そうですかぁ…悲しいです…」


セリーはわざとらしくシクシクと嘘泣きをしており、それを見たアメリアがメッとフェリスを叱りつけた。


「こら、年下を泣かせたらダメでしょ?」

「え、あ…うん。ごめんなさい…」

「ふふっ♡ちゃんと謝れてえらいね〜♡」


なぜかご機嫌なアメリアは完全にフェリスのことを子供扱いしており、なんなら半分ぐらいは自分の子供だと思い込んですらいそうである。


「よしっ♡今日からフェリスちゃんは私の娘ちゃんね〜♡」


あ、ガチで思ってたわこの人。


普段は一番子供っぽい雰囲気な癖に、たまたま年下に甘えられただけですぐに調子に乗ってしまう。


これは今に始まったことではなくノアが甘えた時もそうであったため、フェリスは謎の不満感を抱いてしまった。


「違うわよっ。私にはちゃんと両親がいるのだから、あなたの娘ではないわ」

「えぇ〜、そんなぁ…」


プイッと拗ねたフェリスはアメリアの胸から離れ、そのまま布団を被ってノアの隣で寝そべった。


そしてそのままフェリスは眠りにつき、アメリアの悲しみの声も聞き入れないのであった。


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