58 沈黙
ノアは自身に秘められた能力や神剣についての秘密を全て三人に説明し、彼女らの反応を窺った。
「ん〜…ちょっと理解が追いつかないかなぁ…」
「そうね…にわかには信じがたい話ね」
どうやら三人ともあまり理解できていないようで、困惑しているような目で考えを巡らせていた。
それに対し、ノアは三人の理解を得ようと言葉を募らせる。
「確かに初見で理解するのは難しいかもしれないけど、事実俺は今まで普通の人間じゃ死んでいるようなシチュエーションを乗り越えてきただろ?」
そうやって三人に話をすると、三人ともが腑に落ちたように頷いた。
「確かに、あなたは何度も強大な敵を倒し続けてきたわね」
「今回も魔人数人相手に一人で立ち向かってましたし、きっとノアが言っていることは事実なのでしょうけど…」
「それはそれで、なんかちょっと怖いねぇ…」
アメリアやセリーは一瞬不気味そうにこちらを眺めるが、すぐに視線を改めて弁明をし始めた。
「いや!別にノアが怖いって言ってるわけじゃないからねっ!」
「ノアの能力に驚いてしまっただけで、決してそういうつもりではありませんのでっ!」
「あはは、それならよかったよ」
もしかしたら一生怖がられ続けてしまうのではないかと危惧していたが、今まで散々仲良くしてきた二人ならその心配は不要のようであった。
その事実にノアはホッと胸を撫で下ろし、そしてみんなに少しでも恐怖を残さないように優しく声をかけた。
「俺はこの力を安易に使うつもりはない。みんなには勿論、人間相手に使うつもりは毛頭ないよ」
そしてそこでノアは口調を強め、自身の覚悟を話すように口を開いた。
「でも、家族を脅かすような奴だけは、容赦なく潰すつもりだ」
今まで見たことがないようなノアの強い表情に対して三人はドキッと心臓を跳ねさせ、ノアが自分たちのために命をかけているということを理解した。
「そっか…うん。そういう時は、よろしくねっ」
「ああ、任せろ。俺のこの力は全部みんなの為に使うからな」
「ありがとうございますっ」
そこでセリーは何を思ったか突然頬にキスをし、ニコニコと笑みを浮かべた。
「え、どした?急に」
「ふふっ、嬉しくなってしまって、つい」
「喜ぶところあったか?」
「はい。ノアが私たちのことを守ってくれると言ってくださったので」
どうやらセリーはノアの発言に対して喜びを感じたらしく、そしてそれはフェリスとアメリアも同じのようで。
二人は同時にノアの両頬に唇を当て、嬉しそうに微笑みを向けてきた。
「ありがとう。今まで私たちのことを守ってくれて。
そしてこれからも、よろしくお願いするわ」
「その分私たちは元気な子供を産むからねっ!」
「あ、ああ…頼むぞ…?」
なぜそういった話になったのかはよくわからないが、とりあえず三人の心から恐怖という言葉は消えたようなのでよしとして。
とりあえず今日のところは普通に疲れたので早めに寝ようと目を瞑る。
「じゃ、俺はそろそろ寝るな。今日は疲れたし」
そう言って完全に眠りにつこうとしたのだが、それは三人によって止められてしまう。
「え、もう寝ちゃうの?」
「ああ、今日は疲れたからな」
「そ、そうですか…今晩は期待してたんですけどね…」
「まあ私たちがノアに無理をさせるわけにはいかないわよね。ノアには色々助けてもらっているわけだし」
なんか今日だけ強引じゃないなぁ。
いつもだったら無理矢理にでも起こしてくるくせに…。
(いや、それは流石に言い過ぎか)
別にいつもだってこちらがきっぱり断れば彼女らも諦めてくれるのであろうが、いつも首を縦に振ってしまうためそういった流れになってしまうのだ。
だが今回はノアの秘密を聞いたのもあってか、彼女らはいつもより控えめに誘いをかけてくる。
「無理をさせるわけにはいきませんしね。私たちが疲れさせてはいけませんよね」
「ノアが嫌なら私たちから強制するのはやめておきましょう。でも、それだと少し寂しいわね」
「だね〜。ちょっと欲張りなんだろうけど、いつもしてもらってるから今日も求めちゃうよねぇ」
三人はわざとらしく会話を交わし、回りくどくこちらを誘ってくる。
(クソ…今日こそは絶対に寝てやるんだ…!)
だがしかし、ノアの心には鋼の決意が__
「…一回ずつだけだぞ」
「!!」
「やった〜!」
「い、いいの?」
「仕方ないだろ?可愛い嫁にあんなこと言われちゃ」
ノアは可愛い妻の為ならばなんでもする人間である為、いくら鋼の決意があっても彼女らに求められたら簡単に砕かれてしまうのである。
で、今回も例外なく彼女らに流されてしまうことになる。
「ありがとうございますっ。じゃあ早速始めましょうか」
「疲れているだろうから、あなたはそのまま寝転がってて」
「今日は私たちが頑張るねっ!」
そのようにしてノアはいつものように三人との甘い夜を過ごすのだった。
◇
「もう寝ちゃったかな?」
「そうっぽいわね」
あれから数時間後、色々終えて疲れたノアは自然と眠りについた。
そして三人はその姿を見届けたあと、ノアの身体に触れながら話を始めた。
「私たち、こんなに貰ってばっかりでいいのかな…?」
「そうね…。私たちはノアに何もあげられていない気がするわね…」
アメリアとフェリスが深刻そうな表情をしつつノアの寝顔を眺め、そしてセリーも重い口調で話し始めた。
「ノアは毎日朝から夜までしんどい思いをしながら私たち家族のために必死で働いてくれていますし、私たちはそれに見合ったお礼や労いをしてあげるべきですけど、正直足りているとは思えませんね…」
セリーの言葉に二人は軽く頷き、今後の生活の為の作戦会議が始まった。
「とりあえず、これからは毎日マッサージしてあげよっ。さっきやった感じだと結構喜んでたみたいだし、それに私たちが上手くやれば疲れもだいぶ癒せるだろうし」
「そうね。とりあえず明日からマッサージの勉強をしましょうか」
「なら明日のお昼過ぎにでも図書館に行きますか?確かそういった本もあったはずです」
「案内お願いするわ」
「任せてくださいっ」
三人は少しでもノアの役に立とうとこれからの予定を立てるのだが、そこでどうしても問題にぶつかってしまう。
その問題というのは、先程までベッドで行われていたことの話である。
「でもやっぱり毎晩のように付き合ってもらってるから、どうしても疲れが取りきれてなさそうなんだよねぇ…」
「「…」」
最近三人は毎晩のようにノアのことを求め、そして強引に押し切って付き合ってもらっていた。
それに対してノアも仕方なさそうながらも嬉しそうであったが、やはりここのところ疲れが溜まっているようで、最近は朝の目覚めが悪そうであった。
この問題に関しては三人が我慢すれば済む話であるのだが、ノアが優しくて嫁に甘いばかりに毎回三人はねだってしまうのである。
「流石に…そろそろ抑えたほうがいいわよね…?」
「ノアはなんだかんだ毎回付き合ってくれてますけど…やはりここは私たちが少し我慢するべきでしょうね」
別にこの話自体はこれで解決であるのだが、それではノアの望みが一つ叶わなくなってしまうのである。
「でもそれだと子供ができないよね…。ノアも結構楽しみにしてるみたいだから、できればたくさん産んであげたいんだけどねぇ…」
アメリアの言葉を聞いて全員が深刻そうな表情を浮かべるが、直後フェリスだけが目をチラチラと彷徨わせながら二人に語りかけ始めた。
「その、実はその話で相談が…」
「ん?なに?」
フェリスは頬を赤く染めながらお腹を軽くさすり、言い出しにくそうに話し始めた。
「私、妊娠したかもしれないの」
部屋中には驚きの沈黙が走った。




