56 家を建てよう
というわけで、後日ノアたちは家を建てるためにまずは建築系の商人と話を繰り広げ、条件にあった家を探していく。
「こちらの家は見た目も豪華でご希望通りの部屋を十分な広さで作ることができますが…」
「なるほど…結構しますね…」
商人が見せてきた家はノアたちの提示した条件にこそ沿っているものの、値段はとても払えそうに無いほどのものであり、全員が悩ましい表情をしながら考えを巡らせた。
「でもこれから先ずっと住むことを考えると多少高くてもいいものにした方が良いとは思うのだけれど…」
「まあ、多少ならね…」
フェリスの意見には全員が賛成であったが、どう考えても予算オーバーであっていくら仕事を頑張ってもどうにかなるような値段ではなかった。
そのため一同はさらに表情を渋らせ、この問題について深く議論していく。
「これから先家族が増えていくだろうからある程度の広さとかは必要だけど…」
「それですとやはり高くなってしまいますね…」
「ですよねぇ…」
「子供を育てるのにもお金はかかりますから、無理のない買い物にしたいところですが…」
これが多くの妻を持つ男の苦悩の一つ、働き手が一人しかいなくて養っていけない問題である。
当然のことであるが、多くの人間と家族になるとその分支出は増えていく。
だがそれはその家族に少しだけ働いてもらったりすることによって解決したりする。
だが三人にはこれから出産などの予定があるし(まだない)、単純にノアは彼女らに苦労をかけたくないと思っている。
だがしかし、今のノアはただの一般人である。
はっきり言って三人を養うだけでも精一杯だし、ここから子供が増えたりするともう抱えきれなくなりそうである。
そこにさらに多額の家のローンとかが入ってくるともう破産してしまうため、ノアは非常に頭を悩ませている。
「ん〜…どうしたもんかね…」
「ちなみになんだけど、お金のことを一切気にしないんだったらこの家はいいと思う?」
「ああ。部屋も広いし外装も内装も綺麗だし。文句のつけようが無いな。金額を除けば」
「そ、そうだよねぇ…」
やはりといった感じではあるが、金額だけがネックなところである。
そこについてもう少し考えたいところではあるが、このままでは一生話が進まないため、フェリスは商人に声をかけた。
「あの、他の家も見せてもらえませんか?」
「構いませんよ」
フェリスの言葉を聞くと商人は一度店の裏に去って行き、この空間には家族だけとなった。
その途端、家族のお金を管理しているフェリスが全員に現状のお財布事情を話し始めた。
「あの家、実は今の資金を全部注ぎ込めば一応なんとかなりそうなのだけれど…どうかしら?」
「「え、そんなにあるの?」」
ここまで旅を共にしてお財布事情もある程度知っているノアとアメリアは同時に驚きの声をあげ、フェリスの言葉に耳を疑う。
だがしかし、どうやらフェリスの言葉は事実のようで。
「今あるお金を全てかき集めたら一応足りると思うわ。ただそのお金の中には生活費とか私たちのポケットマネーもあるのよね…」
「つまり、家を買っても一文無しになって貧乏な暮らしになってしまうということですね…?」
「そうなるわね」
セリーの言葉で一同は暗い顔色になり、やはり無理かと諦め始めた。
だがそこでもノアは諦めようとせず、先ほどから思っていた疑問をフェリスに投げかけた。
「てか、ローンじゃダメなの?なんでか知らないけど一括でもギリ足りるぐらいのお金はあるんだから、ローンでも問題ないんじゃないか?」
ノアは軽率にそのような疑問を投げてしまい、妻たちを怒らせてしまった。
「あのねぇノア…」
「ローンだとあの金額より高くなってしまいますよね?」
「それはわかってるよ。でも高くなるって言ってもそんな大した額にはならないだろ?だから俺が仕事頑張ってたらちゃんと返せると思うんだけど」
「はぁ…あなたねぇ…」
三人は呆れた表情を向けてくるため、ノアの疑問はさらに深まる。
「え、何がダメなの?」
そして痺れを切らした三人は語気を強めて説明を始めた。
「それだとノアの身体が持たないよ!あれだけのお金を稼ぐのって大変なんだよ!?」
「それはわかってるけど__」
「王都で働くのならわかるけれど、今は王都から離れた小さな村にいるのよ?」
「つまり?」
「王都に比べてそもそも仕事が少ない上に賃金だって安いです。つまり、あれだけのお金を一人で稼ごうと思ったら身体が壊れるぐらい働かないと厳しいです」
「マジか…」
まさかそこまで深刻な問題だとは思っておらず、ノアは一気に気分が落ち込んでいく。
「じゃあ一括じゃないと無理なのか…。う〜ん…どうしたもんかねぇ…」
今現在ノアの手に職はないため、一括で買った後の生活はどうしても不安であり、それが全員の判断を鈍らせていく。
「やっぱり、もう少し安い家の方がいいのかな…?」
「こればかりは仕方がないけれど、そうする方が堅実ね」
「ですが将来子供がたくさん増えることを考えると、少しでも広い家の方がありがたいですよね…」
妻三人がそのような議論を議論を重ねる中、ノアは一人でこの問題の解決策を考える。
(やっぱ少し無理してでも高い家建てるべきだよなぁ…とりあえず家が建つまでの間に俺が死ぬ気で働けば家が建った後は何とかしのげ…ちょっと待て)
そこでノアは今までの固定観念を捨て、柔軟に頭を回し始めた。
(別に家って建ててもらう必要なくないか?まあ流石に俺一人でやったら色々大変なことにはなるだろうけど。でも俺がこの人たちを雇って色々教えてもらいながら建てていく方が方が安く済むんじゃ…?)
つまり、ノアは建築の専門家に建築のノウハウなどを教えてもらいつつ力仕事を全てこちらでやろうという作戦を思いついたのである。
この作戦がもし可能なのであれば値段を大幅に抑えることができ、結果としてかなり安い金額でそこそこ立派な家を建てれることになる。
(俺、天才すぎねぇか…?)
ノアは自分の天才さに驚きつつ、この革命的な発想を妻たちと戻ってきた商人に説明した。
すると商人は驚いたように目を見開き、甲高い声で話し始めた。
「おお、流石はセリーさんのご主人ですね〜。まさかその手を思い付かれるとは」
「これってアリなんですか…?」
「ええ、勿論アリですとも。ですが旦那さん、あなたお一人で力仕事全ては少々無謀かと…」
商人はこの一点が不安だと言わんばかりに苦笑いを浮かべるが、そこは勿論考えてあるためしっかりとみんなに説明をする。
「いえ、そこは大丈夫です。一応力と体力には自信があるので」
「ですがこの規模の家ですと大体20人ぐらいで建てるので…どれだけ自信があっても厳しいかと…」
「「「ア、そこは大丈夫です」」」
ノアがしっかりと商人に説明をしようとしたところでなぜか嫁三人が声を揃えて商人に説明(?)をしたため商人は諦めて承諾することにした。
「まあ皆さんがそこまで言われるのでしたら…わかりました。その方向で話を進めて行きましょう」
「お願いします」
なぜ嫁たちに力の強さと体力の多さを把握されているのかはわからないが、お陰で何とか話がうまくいったのでとりあえずよしとしておこう。
そしてノアたちは商人と話を進め、いよいよ家を建てる計画が始動した。




