55 決意
「そういえば、ちょっと話があるんだけど」
その日の昼過ぎ、ダンテはリビングにみんなが集まったことを確認してからそう切り出してきた。
そしてダンテの言葉に対して全員が疑問符を浮かべていると、ダンテは神妙な雰囲気で話を続けた。
「ノアくんたちはこの村に住むつもりで来たんだったよね?」
ダンテの話はノアたちがこのラミア村に来た経緯を確認するものであり、ノアは正直にあの頃の話し合いの内容をダンテに話した。
「なるほど…。なのにいざ来てみると魔人に襲われていたと」
「はい…で、でもまああれは運が悪かったというか、たまたまって感じでしたからねぇ」
実際に魔人がこの村を襲った理由は暇だったからというとんでもなくしょうもない理由であり、そんな理由ならどの場所に位置する村でも襲われる可能性はあるのだ。
なのでノアはその点についてはしっかり理解をしており、今現在もこの村に住むかを考えていた途中であった。
そしてダンテはその件について話があるようで、少し深刻そうな表情をしている。
「率直に、ノアくん…いや、みんなに話があるんだけど」
「?」
「私たちにも、ですか?」
「ああ。フェリスちゃんもアメリアちゃんも、そしてセリーにもだ」
「なんでしょうか?」
フェリスやアメリア、そしてセリーが見つめる中、ダンテはみんなの目を見て口を開けた。
「単刀直入に言う。みんな、この村に住まないか?」
ダンテが言葉を放った瞬間疑問は吹き飛ぶかと思ったが、その疑問はさらに深まってしまうことになった。
「えっと…理由を訊いても?」
「ああ、そうだな。まあ半分ぐらいは俺のわがままなんだけど…」
そういう切り出しの後、ダンテは自身の考えを全員に話し始めた。
「まず、君たちはこの村の英雄になっている」
「英雄…?」
「ああ。大勢の魔人から村を救った英雄だ」
「…?」
相変わらずダンテの言っている意味は今ひとつ理解できず、ノアや妻たちは頭の上に?を浮かべる。
そしてそのことを察したダンテはすぐさま説明に言葉を付け足す。
「実は村のみんなはまだ心の整理が追いついていないんだ。今回の件で家族や友人を失った人だって少なくない。そして何より、子供たちは恐怖を植え付けられている」
「なるほど…つまり、ノアがこの村のヒーローとしてそういった方達の心に寄り添ってほしいということですね」
「そういうこと」
一番初めに理解したフェリスがダンテに確認をとり、徐々に全員が理解を示すようになった。
だがしかし、そこでも少しの疑問は残ってしまう。
「それはいい案だと思うんですけど…それと永住にはあまり結びつかない気がするのですが…」
ノアは今正直に思ったことをダンテに問い、そしてダンテは表情を明るくして回答を出した。
「それは単純に俺がここに住んでほしいって思ってるだけだよ!!!」
「「「…え?」」」
ダンテは明るくそう言うが一同は全く理解が追いつかず、ダンテはみんなのために補足で説明を始めた。
「だってみんながここにいないと孫の顔が見れないだろ!!」
「えっ」
ダンテが言い放った言葉はあまりに予想外なものであり、やはりみんなの疑問は深まってしまう。
そんな説明不足の夫に変わり、セシリアはわかりやすく説明をしてくれた。
「つまり、赤ちゃんのことを考えるとそろそろどこかに身を置いたほうがいいんじゃないかしら?ってことね」
「赤ちゃん…?」
セシリアの言葉を聞き、ノアはハッと何かを考えついた。
「ま、まさかフェリス…!」
「あ、いえ。私はまだだけれど…」
「じゃあアメリアか…!」
「いや、私じゃないよ?」
「え、もしかしてセリー…?」
「あら、それは少し気が早いですよ?♡」
「…?」
まさか誰か既にお腹に赤ちゃんがいるのではないかと考えたが、そうではなかったようだ。
「ああごめんなさい。そういう意味じゃないの」
「はあ」
「元気な赤ちゃんを産むためには、もちろん母親が健康である必要があるわよね?」
「それはもちろん」
「じゃあ仮に妊娠してから妊娠が発覚するまでの間にストレスが溜まって体力も落ちる旅をしていたら、どうなると思う?」
「「「「あっ…」」」」
セシリアの話を聞き、ノアや妻たちは旅のリスクに気づいて思わず口を開いてしまう。
「その状態だと、元気な子を産めるか心配ですね…」
「それもそうだし、母親の体力が持たなくなるかもしれないわね」
「最悪、二人とも助からない可能性が…?」
セリーは深刻そうな顔で母にそう尋ね、そしてセシリアはさらに深刻な表情で言葉を返した。
「そういう話を聞いたことがあるわ」
「マジか…」
セシリアやダンテの話を聞き、ノアは真剣にこの話について考える。
(そうだなぁ…確かに子供のこととかを考えると近いうちにどこかに住む必要があるな…。てか、どちらかといえば今すぐに住むべきだよな)
時期的なことを考えると、そろそろフェリスは妊娠していてもおかしくはない。
そしてそれはアメリアもそうであり、いずれセリーもそうなるであろう。
なら今すぐにでも彼女らがストレスのたまらない環境で住み着くことは必須であるため、ノアはこの村に住むということを決意する。
「なあ、俺はこの村に住んでもいいと思うんだけど、みんなはどう思う?」
その決意を全員に伝え、妻たちにこの件についての意見を求めた。
すると彼女らは同時に見つめあって頷き、こちらに笑顔を向けてきた。
「うんっ。いいと思う」
「そっちの方が色々助かるわね」
「正直旅は少し怖いので、ずっとここにいれると嬉しいです」
どうやらみんなの意見もノアと全く同じようであり、ノアはこの村に住むという決意を固めた。
「よしっ。それじゃあ俺たちはこの村に家を建てることにします」
「ありがとう…!」
「これでいつでも孫の顔が見られるわね〜」
「…」
セシリアがさりげなくとんでもない発言をしてくるが、それには反応せずスルーしたのだが…
「じゃあ早く孫の顔を見せられるように頑張らないとですねっ♡」
娘のセリーは期待に応えるべく頑張る体制を整えているようで、輝いた目でこちらの顔を見つめてきた。
もちろんそれにも知らないふりをするのであるが、ここで嫁たちの謎の連携が発揮されてしまう。
「これで私たちはいつでも準備万端になるから、あとはあなた次第よ?」
「今から毎年産むってなると…二十人はいけるねっ♡」
このようにして二人までもがおふざけを始めてしまうと、当然こういった話が大好きなセシリアが入ってくるわけで。
「まあ♡じゃあ三人のお母さんを合わせて六十人の孫が見れちゃうわね♡」
「が、頑張りますっ」
「私は二十五人いけますよ?」
「確かにセリーちゃんはまだ若いからね〜」
気づけば女性四人は勝手に盛り上がっていたため、気配を消してダンテの方まで逃げて行った。
「あははっ。仲良しだな」
「何笑ってんすか…毎日あんな感じだと身がもたないですよ…」
「確かにっ。俺は一人でも結構しんどかったからなぁ…」
最初は笑ってからかってきていたダンテだが、次第に笑顔は消えていき、私がセシリアの顔を見ながら表情を曇らせて行った。
「…いや、多分ノアくんなら大丈夫だ。うん。きっとなんとかなるさ…」
「言葉に覇気が無いんですけど」
「まあ…頑張れよ…」
ダンテは可哀想な生き物を見つめるまで見てき、ノアは謎の絶望感に駆られる。
そして顔を下に向けてため息を漏らし、気配を消したまま部屋から消え去ろうとした時だった。
「で、ノアはどう思ってるの?♡」
「え、なにが」
「なにがって、子供は何人ぐらい作れそうかって話だよっ」
「…」
「おーい、訊いてる?」
「ノーリアクションってことは、何人でも大丈夫ってことじゃないかしら?♡」
「おぉ…なるほど…♡」
「そ、そうなの…?♡」
「私はあなたが望むなら何人でも大丈夫ですけど….あんまり作りすぎても大変ですから、せめて三十人ぐらいにしておきませんか…?♡」
「…」
一体どこで言語と常識を学んできたんだ?
この人たちの話していることは全くもって理解不能だし、常識的な考えの一つもない。
これ、逆にこっちがアホなだけなのか?
(いやんなわけあるか)
ノアは冷静に自身にツッコみつつ意味不明な会話に終止符を打とうと孤軍奮闘するのであった。




