53 ベッドに乗せられて
あれから数時間後、全員が眠気を感じ始めたぐらいの時間になってノアたちはリビングを離れ、セリーに案内されるままに客室の扉を開いた。
今日は色々疲れたし早くベッドにダイブして眠りたいなと考えつつ部屋の中に入ってベッドを見てみたところでノアは全身を固まらせた。
「……」
「?どうかしましたか?」
「いや、その…」
直後ノアは声を荒げてこの部屋のとんでもない欠点を指摘した。
「なんでベッド一つしかねぇんだよ!!!???」
その欠点の内容はこの広めの客室の中にダブルベッドが一つしか置かれていないという点であり、ノアは謎の恐怖心を抱いていた。
だがそんなノアの心境などセリーに通じるはずもなく、彼女は何もおかしくなさそうに返事をしてくる。
「この部屋は夫婦の方が泊まることを想定して作られてしますので、ダブルベッドが一つあるというのはなにも不思議ではないと思いますが」
「いやそれは普通に一対一の夫婦の場合の話だろ!!??」
そう、ノアたちは合計して四人いるため、単純に考えるとダブルベッドが二つあるのが正解である。
その点についてセリーにしっかり指摘をしたのだが、セリーは無理やり押し通すつもりのようで。
「はい、おっしゃる通りです。ですが私たちの心は一心同体です。本来ならシングルベッドでもいいぐらいですよ?」
セリーは謎の推論を投げかけてきて、彼女以外の三人は意味不明そうな表情を浮かべた。
「いやそれは現実的に不可能だろ!!??」
「それは試してみないとわかりませんよ。それは無論ダブルベッドに四人で寝る場合もです」
「試す気なのか…?」
「もちろんです。お二人も構いませんか?」
「あ、うん…」
「別に構わないけれど…」
ノアはセリーの強引さにかなり驚いているが、それはフェリスもアメリアも同じようで、二人とも目を見開きながら困惑していた。
「セリーちゃん…思ってたよりも積極的なんだね」
「え?そうですかね」
「そうよ…少なくとも私たちよりは積極的だと思うわ」
え、あなたたちそれ本気で言ってる?
(あなたたちも十分引けを取らないぐらい積極的だけどな)
今までフェリスとアメリアと共に過ごしてきたノアは直感的にそう感じ、あまりの無自覚さについドン引いてしまう。
「ノア…?私の顔に何かついてる?」
「ん!?あぁいや…別に何でもないぞ」
フェリスとアメリアにジト目を向けていることがバレてしまい、フェリスから少し強めの指摘が入った。
そしてこの雰囲気で話の流れを持っていかれてしまうと後が大変なことになるのは火を見るより明らかなため、ノアは勇気を振り絞って三人の肩に手を回した。
「さ!早く寝ようぜ!今日は色々あって疲れてるからなぁ」
「「「え?」」」
「え」
嫁三人を連れてベッドに入り込もうとした時、三人からは「なんで?」と言った目線を向けられてしまい、ノアの頭は困惑でいっぱいになる。
「どうかしたか?もしかしてもっと起きていたいとかか?」
「それは…まあ…」
「近からず遠からずみたいな…?」
「いやわからんて」
脳内に浮かぶ疑問を三人にぶつけるが、フェリスとアメリアからは具体的な答えは返ってこず、どうしたものかと頭を悩ませた。
だがしかし、二人と違ってセリーは詳細な答えを笑顔で教えてくれた。
「つまり、今晩は夫婦の営みをしないのですか?ということです」
「ンッ!!!???」
セリーが平気な顔をしてとんでもない発言をしてきてため、ノアは思わず声を大きくしてしまう。
「待て待て!!何でそんな話になるんだ!?」
「何でと言われましても…夫婦になってすぐに初夜を迎えるのは当然のことでは…?」
「んな常識はねぇよ!?」
セリーが田舎者すぎるのか、それとも性知識がなさすぎるのか。
いずれにしろとんでもない発言には変わりなく、ノアは急いで彼女の言葉を訂正する。
「夫婦になっても何ヶ月もしないって人だっているし、それに結婚した当日に初夜っていうのはあんまり聞かないぞ」
「え…そ、そうなのですか…?」
セリーが頬を少しずつ赤くしながらフェリスとアメリアの方を見ると、二人も頬を紅潮させながら小さく頷いた。
するとセリーは耳まで顔を赤くし、恥ずかしそうに顔を隠しながら身体を小さく丸めた。
「うぅ…私はなんてはしたないことを…」
「まあまあ…そんなに気にすんなよ」
「そうだよセリーちゃんっ…!別に珍しいってだけでおかしいわけではないんだから!」
「そ、そうなんですか…?」
「そうだよっ!」
アメリアの余計な発言のせいでセリーは希望を見出したように立ち上がり、その希望の眼差しをこちらに向けてきて。
「ノア…ダメでしょうか…?」
「…っ」
セリーはうるっとした瞳でノアの顔を見上げ、甘い声でおねだりをする。
「私、早くあなたと繋がりたいのです…。心も、身体も…」
「…っ」
ノアは目線を逸らしてセリーの誘惑を耐え凌ごうとするが、それをフェリスとアメリアが許してくれず、彼女らはセリーの味方になって発言をしてくる。
「ダメだよノア。年下の女の子がこんなに頑張ってるのに、目を逸らすのは良くないよ」
「その通りね。あと、あなたはセリーに恥をかかせた責任を取るべきだわ」
「…」
二人はいつかのようにノアの逃げ道を塞ぎ、セリーの心と向き合えた言わんばかりの視線を突き刺してくる。
このままセリーのことを受け入れなければノアはただのクズになってしまうという構図になってしまい、当然ノアにはセリーを受け入れるという選択肢しか無くなってしまう。
「あ〜…その、とりあえずベッド入るか。初めては色々大変だから、ゆっくりやっていこうな」
セリーの目を見てそう発言すると、セリーは頬を赤くしたまま目線を逸らして。
「は、はい…。わかりました…♡」
恥ずかしさと嬉しさが混じったようなセリーの表情にまた心を揺さぶられ、ノアのドキドキは増していく。
(っ…理性保てるかな…)
今日はパーティでお酒を飲んで酔っているのもあり、さらに前科があるせいで自分に自信をなくしてしまう。
だが彼女らはそれすらも受け入れるつもりのようで、目に♡を浮かべながら共にベッドに入ってきた。
「ふふっ♡セリーちゃん緊張してる?♡」
「は、はい…流石にこういうのは初めてなもので…」
「大丈夫よ。私たちだって初めては緊張したし、誰だってそうなるものなのよ。それはもちろん、ノアだってね」
「そうなんですか…?」
フェリスが謎に過去の話を暴露し、それを聞いたセリーはノアに事実かどうか尋ねた。
そしてノアは一瞬黙り込んで考え、セリーの緊張を解くために事実を伝えた。
「まあ…あの時は緊張したな。俺自身も初めてだったし」
「じゃあ今は緊張していないのですか…?」
「いや、めちゃくちゃ緊張してる。セリーとするのは初めてだからな」
「そ、そうなんですか…」
セリーは目を逸らしてどこか嬉しそうな表情を浮かべた後、こちらを向いて目を瞑った。
「じゃあ…始めましょうか」
「…だな」
「まず初めは…何をすればいいですか…?」
「じゃあキスしようか」
「わかりました…♡」
そこでセリーは目を瞑り、こちらの動きを待ち始めた。
そしてノアはセリーの唇に向かって顔を近づけ、そのままの勢いで彼女の唇を奪った。




