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52 重い期待


「はぁ、疲れた…」


ノアは嫁三人との戦いをなんとか乗り越え、先程までのパーティが開催されていたリビングに戻った。


「お、帰ってきた」

「おかえりなさーい」


リビングにはパーティの片付けをしているラミアーデ夫妻がいて、二人はニヤニヤと笑いながら目をこちらに向けてきた。


「お風呂どうだったかしら?」

「とても気持ちよかったです」

「それはどっちの意味だい?」

「そのままの意味ですよ…」


流石はあの三人を差し向けた人たちだ。


考えていることが一段上だ…ッ!


「こーら、年頃の男の子にそんなこと訊かれても困るだけでしょう?」

「確かに。素直に言えない時期だもんなぁ…。ごめんな」

「いや本当に何もありませんでしたからね!?」

「うんうん、そうね〜♡」

「全然聞いてねぇ…」


どうやらこの二人は年頃の男女が共に風呂に入ると必ずいかがわしいことが起こると考えているらしく、ノアは改めてこの夫婦のむっつり具合に頭を悩ませた。


(ったく…この人らどんな人生歩んできたんだよ…)


ダンテとセシリアは幼馴染で、付き合い始めたのはノアたちと同じぐらいの年齢だったと聞く。


その二人がこのような価値観を抱いているということは、おそらくこの二人は昔風呂でいかがわしいことになったのであろう。


別にそこまでは個人の自由だしラブラブカップルでとてもよろしいと思うのだが、その価値観をあまり押し付けないでほしいというか…。


つまり人には人それぞれのペースがあるというわけだ。


(俺はあなたたちほどお盛んじゃないんですよ)


ノアは脳内でとんでもないブーメランを投げつつさりげなく二人の片付けを手伝い始めると、そこで上機嫌な女性三人組がリビングにやってきた。


「お風呂いただきました」

「とっても気持ちよかったです〜」

「ふふっ、それはよかったわ♡」


ニコニコと笑う嫁三人と、ニヤニヤと微笑むセシリア。


この人ら、絶対わかってやってるだろ…!!


(なんか、今日はずっとこの人らのペースな気がするな…)


女性四人で楽しそうに会話を弾ませている傍らで、ノアはひっそり頬を赤らめる。


「…」

「まあまあ、そう恥ずかしがるな。別に悪いもんじゃないだろ?」


気づけば隣にはダンテの姿があり、ダンテは少し強めに背中を叩いて励ましてくる。


「まあ、そうですけど」

「いいじゃねぇか。愛する嫁とイチャイチャするなんて、何も恥ずかしいことじゃないんだからさ。もしそれが恥ずかしいんなら、俺は超絶痛いやつになってしまうし」


最後の一言は要らなかったが、途中までの話には激しく同意であるため、ノアは考えを改める。


(ちょっと考えすぎてたか。この人だって俺の家族なわけだし、そこまで恥ずかしがる理由もないか)


価値観を改めてこの新たな父に素直なになろうと考え、ノアは勇気を持って口を開く。


「いや風呂ではホントに何もしてませんからね!?」

「またまたぁ、照れんなってぇ」

「だから違うんですってぇぇ!!」


ノアの悲痛な叫びなどこの男に響くはずもなく、さらには女性陣までもがこちらにやってきてしまう。


「違わないわよね〜。この子達もそう言ってるわ」

「はい!私たちはいかがわしいことをされました!」

「え、なんで?」


相変わらずアメリアが爆弾を投下し、それに乗っかる形でフェリスやセリーも頬を赤らめて。


「私たちは断ったんですけど、ノアにどうしてもって言われて…」

「いや断ったの俺の方なんだが?」

「私がお風呂に入っている時に無理やり入ってきて…少し怖かったです…」

「逆な逆!!俺が入ってる時にセリーが入ってきたんだろ!?」

「あら、そうでしたっけ?」

「わざとらしいな!!」


そうやって四人は夫婦で仲良く会話を繰り広げた。


そしてその姿をそばで見ていた義両親は微笑ましいものを見る目でこちらのことを見つめ、嬉しそうに言葉を放った。


「みんな仲良しね〜」

「これはいい夫婦になるな」

「あなた、それは違うわよ?もうとっくにいい夫婦になってるわよ?」

「確かにな。いい夫婦じゃないとこんなにいちゃつかないか」

「いちゃついてませんから!!」

「ふふっ♡親公認のイチャラブカップルになっちゃいましたねっ♡」


セリーや他の人たちも全員がノアの敵となり、もうどうしようもない状態が完成してしまった。


こうなってくると当然ノアも考えることを放棄し、適当にこの場凌ぎの嘘をつくことにした。


「そうだな。これからはその名に恥じないようにたくさんイチャイチャしないとな」

「「「!?」」」


もうどうにでもなれと適当な発言をしてみると、先程まで嘘を口走っていた嫁三人が目を見開いて驚きながら頬を赤く染め上げた。


「えっ、そ、そうね…♡」

「そんなにやる気だったんだね…」

「それだけ求められるとなんだか恥ずかしいですね」


自分たちが言い出したことなのに彼女らは恥ずかしそうにしており、ノアは若干の不満を覚えた。


(恥ずかしがるなら最初からやるなよ…)


ノアは結局自分が一番恥ずかしくなるという事にも気づかず堂々としており、義両親はそんな夫婦のことをしっかりと揶揄ってくる。


「まあ♡仲良しね〜」

「もうみんな結婚すれば?」

「もうしてるわよ」

「あ、そっか。相性抜群だもんな。そら結婚してるわ」


ダンテはなぜかキメ顔で謎の発言をかましつつも、娘夫婦の姿を優しい目で見守る。


「みんな幸せそうだな。これならセリーも上手くやっていけそうだ」


セリーとノアたちは出会ってから日が浅いためか、ダンテは娘が幸せになれるかどうかを心配していたようだが、今の仲睦まじい姿を見せられてその不安は吹っ飛んでしまった。


そしてその気持ちはダンテの妻も抱いていたようで、彼女も安心したようにホッと息を吐き出した。


「そうね。みんなならきっと、とてもいい家庭を築けるわ」

「そんでもって元気な子供が産まれるんだよな!」

「ふふっ♡孫の顔が見れるのはいつになるかしら〜♡」

「「「「!?」」」」


ほっこりとした雰囲気で仲良しこよしな感じになると思いきや、ダンテが謎にとんでもない発言をしてきやがり、一気に雰囲気が豹変してしまう。


「案外今年かもしれないぞ?」

「いや…!流石にそれはあり得ませんから!」

「「え?」」

「えっ」


ノアは自信を持ってダンテの言葉を否定したのだが、フェリスとアメリアはノアの発言に対して疑問を抱いているような声を上げた。


流石にその発言を聞くと心臓がドキッと跳ねてしまうため、今後ショックししないためにも二人にはしっかりと説教をしておこう。


「いや待て。その冗談は心臓に悪いって…」

「「冗談…?」」

「え」


あれ、もしかして冗談じゃない?


そう思わされるような反応を二人がしており、ノアの心臓の鼓動はさらに早くなっていく。


「あらぁ♡もしかして二人はもう妊娠してるのかしら?♡」

「う〜ん…どうでしょう。可能性としてはあり得ると思いますけど、今のところはあまりそういった雰囲気は感じないですね」


なぜかハイテンションになっているセシリアの質問に対し、フェリスはお腹をさすりながら悲しそうな表情を浮かべた。


だがその反面、ノアは今までにないほど安心感を抱いていて。


(あっぶねぇ…!!)


別に子供が欲しくないわけではないんだけど、なんか今じゃない気がするため、二人のお腹に子供がいないとわかってから心の中で大きく胸を撫で下ろした。


だがそこで油断してしまったせいか、アメリアが頬を赤くしながらとんでもない発言をぶち込んでしまう。


「でもまあ、時間の問題だと思います♡だって私たち、毎日のように__」

「何言ってんの!!!???やめてくれマジで!!!」

「あらぁ…♡それは楽しみねぇ…♡ノアくん♡頑張ってね♡」

「……っ」


義両親やセリーから期待の眼差しを向けられ、ノアは一人恥ずかしさに押しつぶされそうになった。


ん?待て。


なんでセリーも期待の眼差しを向けてきているんだ?


あなたも妻なのだからどちらかといえばフェリスとアメリアの子供に期待する側じゃ…


(え、もしかしてそういうこと?)


流石に一気に三人相手だなんて無理だろ!!


せめて一人一人にしような!!


な!!!


「よろしくお願いしますねっ♡」

「…」


ノアは肩身を狭くしつつ脳内で生命の尊さについて追求するのであった。


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