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49 計算通り


「ありがとうございました〜」


セリーの指輪に魔法でイニシャルを刻印してもらい、もう一度妻に指輪をはめ直してから店を出る。


気づけばもう日が暮れていて、夏の夜空が綺麗に映る下でセリーはただ自身の指を眺めていた。


「ふふふっ♡ふふふっ♡」


セリーはそれはもう嬉しそうな笑みを浮かべていて、その姿を見ているだけでも大金を叩いた価値を感じるが、やはり財布は乏しくなってしまっているモノで。


(後でフェリスに怒られるかもな…)


夫婦間のお金を管理しているのはフェリスであるため、何の了承も得ずに大金を使ってしまったとあれば怒られてしまう可能性がある。


(いや、フェリスなら許してくれる…はず…!)


フェリスとて鬼ではないので、こういった大事な買い物であればお咎めを喰らわないはずだ…!


…はずだ!


(…とりあえず言い訳は考えとくか)


フェリスのことは信じてるけど、一応ね…?


一応、何を言われてもいい感じに返せるようにだけはしておこう。


そんな風にしてノアはセリーの家に帰った後のことを考えつつ歩みを進めていると、セリーがニコニコと微笑みながら身体を寄せて来た。


「指輪、ありがとうございます。一生大切にしますねっ」

「ああ」

「それでその…一つ質問があるのですが」

「なんだ?」


セリーは珍しく頬を赤らめ、目をチラチラと彷徨かせながら質問を放った。


「どうして…この指輪を選んだのですか…?」

「どうして、か…」


ノアはこの指輪を選んだ理由について自分の正直な気持ちを述べ始める。


「そうだな…まあ安直に言うと、これがセリーに世界一似合う指輪だと思ったからだな」

「世界一、ですか…?」

「ああ。この指輪を見た瞬間にビビって頭に来てな。気高く輝くその指輪はどこかセリーに似てるように見えたな」


あの時率直に感じたことを言葉にするが、やはり他人が理解するのは難しいようで、セリーは頭の上に?を浮かべながら首を傾げている。


「この指輪と私がですか…?」

「んぁ〜、どう説明すればいいかわかんねぇけど、とりあえず世界一綺麗なセリーに似ている世界一綺麗な指輪を選んだってこと」

「そ、そうなんですか…」


詳細に説明するのを諦めて大まかな事実だけを述べると、セリーは思いの外顔を赤くして目線を逸らした。


そんな今まで見たことのない可愛らしい妻の仕草を見て夫は心を完全に射抜かれてしまう。


(えまって滅茶苦茶可愛い)


その時ノアの心には愛情が生まれ、つい本能のままにセリーを抱きしめてしまう。


「!?…どうしたのですか…!?」


当然セリーには驚いた表情を向けられるが、ノアは彼女を抱きしめ続けた。


「なんか…したくなっちゃってな。夫婦だからいいよな?」

「それはまあ…構いませんけど…」


セリーは先程よりも顔を真っ赤にし、まるでそれを見られたくないかのようにすぐに胸に顔を埋めて来た。


「でも…次からはちゃんと言ってくださいね…?」

「ああ、わかってるよ」

「(でないと私の心がもちません…)」


セリーが小声でそう呟いているのがわかり、ノアの心臓は鼓動を大きくしていって。


「あの…もしかして、ドキドキしてますか…?」

「っ」


まさかバレるとは思っておらず思わずビクッと身体が跳ねてしまい、その言葉が図星だということがバレてしまう。


「ふふっ、嬉しいです」

「…やめてくれ」

「あら、お顔が真っ赤になってますよ?」

「…うっせ」

「意外に可愛いところもあるのですね♡」


セリーは頬を赤つつも笑顔を向けて来ており、その姿を見てノアの愛情はさらに深まっていく。


(あーもう可愛すぎだろ…このままキスしてやろうかな…)


「…?どうかしました?」

「ん!?ああいや、何でもないよ」


どうやらセリーの顔をじっと眺めてしまっていたようで、彼女から不審そうな目を向けられてしまった。


だがしっかりと誤魔化しておいて、ノアは次の一手を打つためにセリーに言葉をかけた。


「なあセリー」

「どうしました?」

「セリーはさ、フェリスとアメリアのことどう思ってる?」

「…」

「ん…?どした?」


これからのために他の妻二人についてどう思っているのかを訊いてみたのであるが、どうやらセリーの地雷を踏んでしまったらしく、頬を膨らませて不満そうな顔を向けてきた。


「いえ?別にどうもしてませんよ?」

「いや絶対になんかあるだろ。もしかして二人のことに不満があるとかか?」

「いえ?別にそういうわけではありませんけど?」

「じゃあどういうことなんだ…」


結局ノアはセリーが拗ねている原因がわからず、セリーは仕方なさそうにため息をついた。


「あのですね、こうやって一人の女の子とイチャイチャしている時に他の女の子の名前を出されるのはこちらからすればかなり傷つくものなのですよ。女の子は私のことだけを見てって思う生き物なのですから」


セリーの言うことはもっともであり、ノアは素直に反省の意を示した。


「そうだな…。ごめん。俺の気遣いが足りてなかった」

「わかればいいのですよっ。それでは、お詫びにもっとイチャイチャさせてくださいっ♡」

「うお゛っ!?」


セリーはどこか吹っ切れたかのように思い切り抱きついて来て、そして楽しそうにギュッと腕に力を入れてくる。


「私の心臓の音、聞こえますか?」

「い、いやぁ…聞こえないなぁ…」

「そうですか?なら、もっとくっつけて…っ!」

「何してんの!?」

「私のドキドキを知ってもらうために胸を押し付けているんです」

「いや何してんのぉぉ!?」


セリーは恥ずかしそうにしつつも身体を強く押し付けて来て、ノアのドキドキはさらに深めさせられる。


「どうですか?これで聞こえますか…?」

「ああ、聞こえるよ。聞こえるからそろそろ離れてくれ」

「ダメです」

「何でだよ…!ここ外だぞ!誰かに見られたらどうすんだよ…!」


ここは普通に外だというのにセリーは頑なに離れようとせず、二人のドキドキはさらに増していく。


「いいじゃないですか…♡私たちの愛を見せびらかしましょう…?♡」

「いや見せびらかさなくていいから!ほら、早く離れよう!」

「…わかりました。そこまでいうのなら離れましょうか」


セリーは少し拗ねつつもようやく離れる決断をしてくれ、安心したノアはホッと息を吐いた。


だがしかしセリーは一向に離れようとしてくれず、ノアは頭の中に疑問符が浮かんできた。


「あの〜…離れてください…?」

「そうですね。離れますよ」

「いや離れますよじゃなくて、離れてないじゃん」

「さっき、私とイチャイチャしている時に他の女の子の名前出しましたよね???」


なんか、セリーが笑っていない笑みを向けてくる。


その笑みからはちょっとした脅しのようなものが溢れ出しており、ノアは何かを察したようにため息をついた。


「はぁ…何がお望みで?」

「ふふっ、私のことよくわかってますねっ」

「まあな、一応夫婦になったからな」

「よろしいです。では、私とキスしてください」

「オッケーキスね。それぐらいならすぐにでも…て、え???」

「あら?聞こえませんでしたか?キスしてくださいって言ったんですよ?」

「いや聞こえてないわけではないんだけど」


(普通に人が通る道でそれ要求してくるか…!?)


流石に大胆すぎる妻に対して驚きを隠しきれず目を見開くが、セリーの決意は断固としたもののようで。


「はい、どうぞ。私のファーストキス、奪ってください♡」

「いや流石にここじゃマズイだろ…」

「大丈夫です。この道は人通りが少ないので♡」

「…」


全部計算通りってワケか。


セリーは家を出た時からここまで考えてプランを練っていたのだろう。


そう思わされるぐらいにここまでの流れは完璧であり、ノアは新しい妻に対して素直に白旗を上げた。


「目、瞑って」

「はい…♡」


そしてセリーの唇を奪い、二人はある辺境の村で永遠の赤い糸で結ばれたのであった。


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