47 敵だらけの家族
「と、いうわけなんだが…」
ノアとダンテは一度女性陣のもとに戻り、そして先ほどまで話していた結婚についての話をこの話全員に説明した。
「セリーと結婚…ね」
「セリーちゃんはどう思う?」
結婚ともなれば流石に本人の意思が大事なため、それを理解している一同はセリーの意思を確認した。
するとセリーは顔をこわばらせて頭を悩ま__
「いいと思います、結婚」
「そうだよね〜流石に今すぐには…って」
「「「「「え???」」」」」
セリーは悩む暇もなくすぐに首を縦に振るが、この場にいる全員は理解が追いつかず。
「え?いいの?あなたあれだけ男の人と関わるのを避けてたじゃない」
「別に避けていたわけではありませんよ。ただまあ…今まで関わってきた方の目からは少なからず下心が見えていましたので…それで少し距離を取っていただけです」
セリーの言葉を聞き、ノアは納得したように頷いた。
彼女はフェリスやアメリアにも劣らない圧倒的な容姿を持っており、それに立ち振る舞いも綺麗で美しい。
それだけでも男どもが惚れるには十分すぎるのに、彼女が村長の娘ともなれば男たちは下心を持って彼女と接してもおかしくはない。
(わかるなぁ…その気持ち)
そしてこの男も過去にそういった経験があり、心の中で深く共感の意を示す。
「じゃあノアさんからはそういうのを感じないってこと?」
「その通りです。今回の件だって、ノアさんは何の下心もなくただの善意でこの村を救ってくださいました。そんなこと、普通の人間には出来るはずがありません」
セリーがノアのことを褒め称えると、この場にいる全員が共感を示すように首を縦に振っていたため少し恥ずかしさを覚える。
「い、いやぁ…別に誰でもすると思いますけどねぇ…?」
「そんなことはありません。仮にそのような優しい心を持っていたとしても、あの状況を見て行動できる人物が世界に何人いるでしょうか。私が思うに、そんなことができるのはあなたしかいません」
「その通りね」
「間違いないね」
「…」
なんかめっちゃ恥ずいんすけど。
内容的にはセリーが一番恥ずかしがるようなことであるはずだが、彼女は全く恥ずかしがらずに口を動かしている。
「もしそんな方と結婚出来るという話があるのであれば、私は喜んでその話に飛び込みます。ただそれだけのことです」
セリーは何の恥ずかしげもなくそう言い切り、そしてセシリアが彼女の確認しにかかる。
「つまり、あなたは彼のことが好きなの?」
「いいえ」
「え、」
あ、この人利害のためなら好きじゃない男とも結婚するタイプの人だ。
ノアは直感的にそう感じたのだが、その思いは一瞬にして裏切られる。
「私はノアさんのことを心から愛しています」
「「おぉ…」」
「言い切ったなぁ」
「なら問題ないわね。あとはノアさんの気持ち次第かしら」
「え?」
なんか気づけば話がまとまっていたんだが?
(ヤバい、何も考えてなかった…)
突然全員から視線を向けられ、そして決断を迫られた。
「えーっと…二人はどう思う?」
「いいと思う!セリーちゃんがいればもっと楽しくなりそうだしっ」
「私も賛成ね。セリーは優しくて気遣いもできるし、とてもいいお嫁さんになると思うわ」
「そうか…」
…完全に逃げ道を塞がれてしまった。
いや別に逃げるつもりだっわけではないが、やはり逃げ道があるのとないのとでは心の余裕が違うというか…。
(いや落ち着け俺!大事なのは俺がどう思うかだぞ!)
そう、今ここで大事になるのは他人の意見などではなく自分の意見である。
彼女と生涯を添い遂げる人物はこちらになるわけだし、ここはしっかり慎重に考えないといけない。
そしてノアはじっくりと頭を悩ませ、彼女との将来を想像した。
そこに写る景色は真っ白で美しいウェディングドレスを見に纏ったセリーと共に歩いていく姿であった。
(やっぱ、俺も心のどこかで彼女のことを…)
好きになっているのだろう。
きっと気づかない間に彼女の魅力に取り込まれていたのだろう。
今セリーの目を見た瞬間にふとそう感じた。
(まあ、嫁が三人ってのも悪くないか)
せっかくセリーは好きだと言ってくれているのに、その気持ちを蔑ろにするなど好きな人相手に出来るはずもなく、ノアは真剣な眼差しで口を開いた。
「セリーさん。もしよろしければ、俺と結婚してください」
ノアは優しく彼女に手を差し出した。
そして彼女はすぐにノアの手を取って口を開いた。
「はい、よろしくお願いしますっ」
そこで二人は赤い糸で結ばれ、晴れて夫婦となったのである。
「おめでとーー!!!」
「おめでとう」
「やっとセリーに男が…!」
「今晩は祝杯ね〜」
その瞬間リビング内は大きな盛り上がりを見せ、そして今後について様々なな作戦会議が始まった。
「いやぁコレでウチの村も安泰だなぁ。将来は大勢の孫たちの村長争いが見れそうだ」
「あはは…大勢っすか…」
「あ、この話し方だと家族って感じがしないな…せっかく義理の家族になったわけだし、コレからはノアくんと呼ばせて貰っていいですか?」
「それは構いませんよ。あと、敬語もいいですよ」
「それは助かるなぁ。ありがとう、ノアくん」
始めにダンテが話していた話題のままでは色々とマズいことになりそうであったが、こちらが話を変える前にダンテが話を変えてくれたので良__
「で、ノアくんは何人子供作るのかしら?♡」
「ブッ__!?」
「あら、そんなに驚く必要ないのよ?コレは跡継ぎ問題として大切な話なのだから」
「まあそうですけど…」
この場にいる全員の視線が集中し、ノアはどうすべきか頭を悩ませる。
「えーと…セリーはどう考えてるんだ…?」
悩んだ結果セリーに質問してその答えに合わせるという方法を取ろうとするが、その作戦はセリーの言葉によって無意味に終わることになる。
「私は何人でも大丈夫ですよ。あなたが望むだけ子供を産んでみせます」
「おぉ…」
「結構積極的なのね…」
セリーの純粋な笑みに対し、フェリスとアメリアは意外そうな目を向けた。
それもそのはずだ。
普通こんなお淑やか清楚美人からそんな回答が出てくるなどと考えもしないだろう。
それには当然ノアも当てはまり、セリーに対して意外そうな目を向けた。
「?どうかしました?」
「いや、何でもない」
「そうですか?ならいいのですが。それで、あなたはどう思っているのですか?」
「何の話だ?」
「とぼけないでください。何人子供を欲しているのかという話ですよ」
セリーはいつにも増して語気を強めてノアの心を追い詰める。
「私たちの将来に関わる重要な話なのですから、ちゃんと答えを出してください」
「…!」
案外、こういうタイプの人間が一番厄介なのかもしれない。
純粋で一番無害な人だと思ってたのに!
(万事休す、か…!)
もうこうなってしまうと逃れられないということは経験上わかっていることなので、ノアは諦めて自分の正直な気持ちを伝えることにした。
「まあ…まだ具体的には考えてないんだけど…三人ぐらい?が妥当なんじゃないかなぁ…」
「三人ですか…」
「三人か…」
「三人ねぇ…」
「「「それだけでいいの(ですか)?」」」
「…」
いやなんだよそれだけって。
どんだけ体力有り余ってると思われてんだよ。
そもそも妻が他に二人いるというのに三人っていうのはかなり思い切ったつもりだし、これ以上など求められても無理な話だ。
なので今回は強く断りを入れておかねば!
「いえ、コレは体力面や経済面を考慮した上での決断ですので、俺はコレで満足ですよ」
よし、こうすればこの人たちも観念するだろ。
流石にここから追い討ちなんてことは絶対に__
「そう?でもあなた?」
「ああ。経済面なら俺たちも支援するし」
「私体力には自信ありますよ?」
「私たちもしっかりサポートするわ」
「お互いに頑張ろうね!」
「だそうだ。だからノアくんは何も気にせず思うがままに子供を作ればいいよ」
(全員敵なのかよぉぉぉ!!!!!)
ノアの心の声は誰にも届かなかった。




