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45 イチャコラしたい


「あ…り得ねぇ…!俺たちが…人間ごときに…!!!」

「よっし、これが最後かな」


一人目の魔人を倒してから三十分後、ノアは村に来た全ての魔人を掃討することに成功し、一度大きく息を吐いた。


「はぁ…まさかあんなしょうもない理由でここに来てたとはなぁ」


数人の魔人にここに来た理由を訊いてみた結果、シンプルに暇だったからここに来たのだということがわかり、ノアは心底魔人に呆れた。


だが仮にそのような理由であったとしても犠牲者が出たのは事実で、呆れるなどという悠長な感情も抱かない人物もいて。


「俺の…村が…」


そう言いながら隣で泣き崩れそうになっているのはこの村の村長であるダンテで、彼にとっては全てを失ったような感情なのだろう。


その心境を察したノアはダンテの肩を叩き、そして彼の心に寄り添う。


「あなたは悪くありませんよ。悪いのは全部あのクソ魔人どもですから。あなたは村人を守ろうと必死で頑張ってたんですから、誇りに思ってもいいんですよ」

「そうですかね…俺は…守れなかったのに…!」


ダンテは先程まで取り繕っていた丁寧な言動を普段のものに戻し、荒々しく自分の非力さを嘆く。


正直こうなってしまえば割とかける言葉がないのでどうしようか頭を悩ませるが、それはある人物が登場することによって解決される。


「あ、あなたっ!!!」

「?…セシリア…!!!???」


突如建物の影から現れたのは真っ白な髪を揺らす美人であり、その人の名はセシリアというらしい。


そのセシリアは建物の影から現れるなりダンテの常に思い切り飛び込み、涙を流しながら力強く抱きしめた。


「あなた…あなた…!」

「セシリア…!どうしてここにいるんだ!?」

「あなたを…放っておけなくて…」


セシリアの言動やどことなくセリーとの似ているところから彼女がダンテの妻でありセリーの母であることがわかり、ノアも一安心して胸を撫で下ろした。


「お二人とも、仲睦まじいのはいいですけど、流石にここではやめておきましょうか。早くここから離れたほうがよさそうですし」


ノアの言葉で二人は今自分たちが置かれている状況を理解し、涙を拭いながら身体を離した。


「こ、こちらの方は…?」

「ああ、この人はこの村の英雄だよ」

「英雄…」

「そこまでじゃありませんよ。俺はただ人として当然のことをしたまでです」


そうやっていつものように謙遜するが、ダンテは褒める手を休ませてくれない。


「何をおっしゃいますか。魔人を全員倒してくれた上に、私たちの娘の命も救ってくださったではありませんか」

「え!?セリーのことを!?」

「ああ。この方が逃げていったセリーのことを保護してくれたんだ。そしてセリーがこの方にお願いして村を助けてくださったってワケ」

「何から何まで…本当にありがとうございますっ!!!」

「いえいえ、本当にそういうの大丈夫ですから。あと、言い忘れてましたけど、俺の名前はノアと言います。気軽に名前で呼んでください」

「ありがとうございます、ノアさん…!!」


二人は深々とノアに頭を下げた後、急足で村を後にした。


そしてそれから五分後、村の火を消し終えたノアもその後ろか二人を追いかけ、そして合流してから二人を案内した。


これまで様々な出来事があったが、ひとまず一件落着したところで両親は娘と合流することができ、両親は腹の底から娘の名を呼んだ。


「「セリー!!!!」」


その声は遥か彼方まで響き、当然本人の耳にも届いた。


「!!!???お父さんっ!!お母さんっ!!」


セリーは自身の名を叫んだ人物の方を向き、そして目から涙を流しながらそこに走って行った。


「無事でよかった…!セリー…!」

「ちゃんと逃げ切れたんだな…!偉いぞ!」


勢いよく両親に抱きついたセリーに、二人は優しく言葉をかけた。


するとセリーは二人の胸に頭を埋めて顔を見られないように大粒の涙を流し始めた。


「もう…心配したんですから…!本当に…もう許しません…!」

「あはは…ごめんな。もうこんなことしないから許してくれないか…?」

「ダメです…!絶対に許さないんですから…!」

「こりゃ困った」


自身を犠牲にしてまで娘を守る姿を見ていたセリーだからこそ、このような怒りを覚えていた。


だがこの怒りに父を咎めるような気持ちはなく、ただただ訳もわからずに気持ちをぶつけていただけであった。


そんな美しい家族の愛をそばでじっくり堪能したノアはいたたまれなくなってその場から離れて行き、そして妻たちを探し始めた。


「ん〜…どこにいるぁ!?」


目を凝らして前方を探し回っていると、突如後ろから衝撃が伝わってきて大変な声が出てしまった。


「一体なんだ…って、フェリスとアメリアか…驚かせやがって」

「おかえりなさい!」

「おかえり!」

「おお、ただいま」


もしかしたらこの二人は泣きながら抱きついてくるのかと思っていたのだが、その予想に反して二人は笑顔で抱きついてきて。


「ちゃんと無事で帰ってきてくれたねっ」

「もちろん。約束したからな」

「セリーのご家族も無事だったのね」

「ああ、なんとかな」


三人はラミアーデ家の奇跡の再会を見ながら笑みを浮かべ、そしてノアは二人のことを正面から抱きしめた。


「っ!?」

「ど、どうしたの!?」


すると二人は驚いたような目つきでこちらを見てくるため、ノアは今の正直な気持ちを打ち明けた。


「なんか二人の顔見れて安心したっていうか、やっとイチャつけるなって思ってさ」


ノアは先程まで気を張っていたためか、その反動がやってきて今こうして二人に甘えたくなっているのであった。


そして珍しく甘えてくる夫の姿を見て、二人の妻は心臓を大きく跳ねさせていた。


「そ、そうなのね…♡」

「うん、いっぱいイチャイチャしよ…?♡」

「ありがとう。じゃあ、遠慮なく」


二人から上目遣いで承諾を得たためノアは二人と唇を交え、そしてもう一度強く抱きしめた。


「一生このままがいいなぁ」

「そ、そう…?♡でもそれだと少し不便じゃないかしら…?♡」

「不便?」

「だってこのままじゃあんなことやこんなことができないよ…?♡」

「あ、確かに。じゃあ離れ…るのもなぁ」


アメリアの甘い声を聞いて二人の背中から手を退けようとするが、やはり今はこのままがいいのでもう一度腕に力を入れた。


このようにして三人は夫婦で仲良くイチャコラしているワケだが、そんなことをしていると当然周りから視線が集中してくるワケで。


「すごく仲良しなんですねっ」

「ああ。まああれだけのべっぴんさんが二人もいればそうなるのもわかるな」

「わかるの?」

「もちろんだとも。現に俺は隣にいるべっぴんさんと今すぐいちゃつきたいって思ってるし」

「そ、そうなの…?♡」

「二人とも、仲が良いのは良いことですけど、沢山の村民がいる前では控えてくださいね」

「そ、それはもちろんわかってるよ…」


ノアたちの姿を眺めていたダンテとセシリアがさりげなくいちゃつきそうになったが、それはなんとかセリーが阻止して何事もなく収まった。


それに対してダンテは少し悲しそうな顔を浮かべるが、仕方がないと諦めてノアたちのもとに向かった。


「こんにちはみなさん。私はラミア村の村長、ダンテ・ラミアーデと申します」

「ノアの心臓、いっぱいドキドキしてるねっ」

「まあな。愛する妻がこれだけの至近距離にいたら誰でもドキドキするよ」

「そうなんだ…わ、私もドキドキしてるよ…?♡」

「わ、私もドキドキしてるわよ…?♡ほら、私の心臓の音、聞こえる…?♡」

「ん!?…あ、ああ…」

「あの〜…お三方…?」


完全に自分達の世界に入り込んだ三人は近くまでダンテが来ているのにも気づかずにイチャイチャを続けた。


そしてダンテの声に気がついたのはすでに手遅れな時であった。


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