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44 少女の悩み


「へー、そういった経緯でこちらにいらしたのですね」


ノアがラミア村に向かってから数時間後、避難民の案内などをある程度終えて落ち着いた頃に三人は仲良くお話をしていた。


「そうなんですよ〜。あの時の味は今も忘れないですね〜」

「ふふふっ、それはよかったです。ちなみにどちらのお店で食べられたか覚えてますか?」

「ん〜…もう十年以上前だからあまり覚えてないんですけど…」


セリーの質問に答えたいアメリアは過去の記憶を絞り出し、そして断片的に覚えていたことを口にした。


「確か、どこかの家のお母さんが作ってくれたんですよ。髪が真っ白でとても綺麗な方でしたね〜」

「髪が白いお母さんですか…それ、もしかしたら私の母ではないでしょうか?」

「え!?」


セリーからの衝撃的な憶測に対し、アメリアは目を見開いて驚き、フェリスは冷静に分析をする。


「もしかしてセリーさんのお母様は白い髪で?」

「はい。この髪は母譲りなんです」

「髪が白い方はかなり限定されますから、アメリアに料理を作ったの人はセリーさんのお母様の確率は高そうですね」

「はい。私も村で白い髪の人は母と私しか知りませんので、恐らく母で間違いないでしょうね」

「そ、そんなことあるんだ…」


あまりの偶然に一同は驚くが、そこでセリーが一つ疑問を抱いた。


「でも、なぜ母はアメリアさんに手料理を振る舞ったのでしょうか?基本的に母が手料理を振る舞うのは私と父しかいませんし、一般の客人にそういったことはしてないはずなのですが…」

「!!!???」


ここでアメリアは自分の失態に気がついた。


(た、確かあの時はシルクレーター家の人間として視察に来た時だから…)


アメリアが一度ラミア村に訪れた理由は領地を運営する上で参考になりそうなことを学ぶたであったため、その時は貴族としての対応をしてもらった。


ラミア村の村長も流石に貴族が来たとなればちゃんとした対応をしない訳にはいかず、その過程で家にお邪魔した時にセリーの母から手料理をいただいた。


(言えない…!全部言ったらノアに怒られちゃう…)


今は普通の人間として旅をしているため、いくら優しいセリー相手でも無許可で正体を明かす訳にはいかない。


(い、一体どぉすればぁ…)


当然だが、アメリアに話を捏造するなどという能力はない。


そこでフェリスに涙を目を向けて助けを求めると、フェリスはこっそり頷いてわざとらしく声を出した。


「確かあれよね?親とはぐれて迷子になってお腹を空かせていた時にちょうどセリーさんのお母様に見つけてもらってそのままご飯をご馳走になったんだったわよね?」


フェリスは機転を効かせて話を作り上げ、そしてアメリアは深々と頷いた。


「うん!!そうだったよ!!!」

「そんな偶然が…世間は狭いですねっ」


少し違和感はあるが、とりあえずセリーは納得してくれたのでよしとして、これ以上話を続けて違和感に気づかれるわけにはいかないのでなんとか話を逸らしにかかる。


「あの、失礼ですがセリーさんはおいくつですか?」

「年齢ですか?」

「はい。あ、私は19です」

「私は20歳ですよっ」

「へ〜、私一番年下ですねっ」

「そうなんですか!?」

「そうは見えないですね…」


フェリスが露骨に話を変えると、セリーからは衝撃の回答が返ってきた。


セリーの立ち振る舞いは大人の女性のそれだったためか、二人は完全にセリーが年上だと思っていた。


なので彼女が自分よりも年下だということに衝撃を受け、思わず目を見開いた。


「ふふっ、驚きすぎですよっ。そんなにおばさんに見えますか?」

「いやいやいや!そういう意味じゃなくてですね!!」

「すごく品があってお姉さんって感じがするって意味ですよ…!」

「そうですか?ありがとうございますっ」


二人は心から思ったことを話すと、セリーは嬉しそうに微笑んだ。


「あと、敬語使わなくていいですよ。私、17ですから」

「17!!!???」


二人はセリーの身体を眺めながら大きく声を上げた。


彼女は背が高くて四肢がスラッと長く、それでいて凹凸のある身体つきをしている。


もう完成系と言ってもいいだろう彼女の身体もまだまだ発展途上だということを知り、二人は衝撃を受けた。


「ちなみに…何月生まれなの?」

「四月ですよ」

「ってことは…四つ下!!??」

「私も三歳差ね…」


あまりの歳の離れ具合に驚き、そして二人は現代の女性の成長の速さを実感した。


「その歳でそんなにしっかりしてるんだ…すごいねぇ…」

「いえいえ、村長の娘なのですから、これぐらい当然ですよ」

「そっか。じゃあ小さい頃から色々叩き込まれてるの?」

「はい。やはりそういう家に生まれると苦労するものなのですね」


((わかるなぁ〜))


セリーが村長の子のように、この二人は貴族の生まれである。


それすなわち、二人も幼少期から相当な教育を受けていることとなり、二人はセリーの話に心の中で共感を示した。


だがもちろんそれを表には出さず、平静を装って話を続ける。


「でもあれだね〜、やっぱり村長の一人娘ってなると色々縁談とかあるんじゃない?」

「まあ、それなりにありましたね」

「へー、ちなみに今パートナーは?」

「残念ながら、殿方とはほとんど関わりがなく…」

「んー…苦労してるのね…」


パートナーの話になった途端にセリーは表情を曇らせ、明後日の方向を眺めながら何かに絶望し始めた。


その姿を見て二人は少し気まずさを覚え、頑張って話を変えようと__


「あの、お二人はノアさんと結婚されているのですよね?もしよろしければお話を伺いたいのですが」

「ん!?ま、まぁいいけど…」

「!!ありがとうございます!」


なぜかセリーは今までに見たことのないぐらいのテンションで喜んでいるが、これはこの歳特有の乙女心が発動したということなのだろう。


まあフェリスもアメリアも同じような乙女心を持ってはいるんだねどネ。


やはりこの二人とセリーの違いといえば、男性経験があるかないかであろう。


そこにやや劣等感を感じているらしいセリーは二人に悩みを聞いてもらうことにし、小さく口を開いた。


「あの、実は私…恋というものがよくわからないのです…」

「恋…?」

「はい。今までに男性からアプローチを受けたことは何度もあるのですが、そこにドキドキすることもなくて、それで縁談も全て断ってしまって…父を苦労させてしまっているのです…」

「「んー…」」


セリーの生々しい悩みに対し、二人は真剣な答えをあげるべく頭を悩ませ、そして自分なりの意見を伝える。


「多分、セリーちゃんは焦りすぎてるんだと思う。相手がどうとか跡継ぎがどうとかって、思い詰めてるんじゃない?」

「!?」

「私はね、恋ってそうやって無理にするものじゃないと思うの。やっぱり、恋には運命が必要だと思うんだっ」

「運命…ですか…」


アメリアの言葉を聞いてセリーは納得しかけているので、もう一押しだと考えたフェリスが追い打ちをかける。


「そうね。やっぱり恋って運命を感じた相手とするべきだと思うわ。たまたま彼を見かけるだけで嬉しくて、彼と目があっただけでドキドキしてしまう。そういう人に対して恋心は生まれるものだと思うわ」

「なるほど…」


どうやらセリーは納得してくれたらしく、首を縦に振りながら笑みを向けてきた。


「ありがとうございます。なんだかうまくやれそうな気がしてきました」

「そう?ならよかった」

「頑張ってね。セリー」

「はいっ!」


こうしてセリーの心のモヤモヤは解決され、セリーは心の中で二人とノアの初々しさに少し嬉しくなっていたのだった。


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