43 守るために
光の速さで炎の上がる村に向かい、そして躊躇わず火の中に突っ込んでいく。
「こりゃひでぇな…」
村は既に半分ほどが燃やされていて、大怪我を負って地面に倒れ込んでいる人も数人見受けられた。
その悲惨な光景を見てこの元凶である魔人に対しての怒りが増し、早々と魔人の気配の方に向かった。
「さぁて、どうやって殺されたい?」
ある角を曲がって大きな広場に出ると、そこには一人の魔人と一人の男性が対面していた。
だがしかしどう考えても男の方が下手に出ており、その人はもうすぐ殺されそうな状況になっていた。
「そうですね…できればゆっくりお願いしたいですね。色々考えながら逝きたいものでしてね」
「そうか…。それも悪くないなぁ」
どう考えても格上の相手が目の前にいるというのにその男は怯まず冷静に魔人と会話し、さらに言葉を使って時間を稼ごうとしていた。
こんな勇敢な男がこんなところで死んでいいわけがない。
直感的にそう感じたノアは腕を切り落とそうとしている魔人の懐に入り込んだ。
「!?」
目にも止まらぬ速さで魔人の目の前に突っ込み、そして腰の神剣を抜いた。
「あっぶねぇ…まさか人間に斬られそうになるとはな」
「チッ、流石に速いな」
かなりのスピードであったはずだが、魔人の腹まで剣は届かなかった。
そのことに対してまた少し苛立ちを覚えるが、とりあえず今は背後にいる男を避難させることを優先させる。
「怪我はありませんか?」
「は、はいっ!」
「それはよかったです。なら急いで避難を__」
「何呑気に話してんだぁ!!!」
男性を逃がしてから戦おうと思っていたが、流石に魔人がそれを許してくれるはずもなく、容赦なく背後から強力な炎魔法を放ってきた。
そして直後、その魔法は虚空に消え去った。
「…は?」
「え?」
この場にいるノア以外の生物は頭の上に?を浮かべ、未だな状況の理解が追いついていない様子であった。
「今、一体何が…」
「お、お前!何をした!?」
魔人がそうやって興味深そうに(?)質問を投げてきたので、ノアは仕方なくこの出来事を説明してあげることにした。
「普通に剣で魔法を消しただけだが?」
「…は?」
ご丁寧に説明をしてあげたというのに魔人はまだ理解ができていない様子であり、ノアは仕方なく補足説明をしてあげる方にした。
「だーかーらー、魔法を剣で切りつけて消したんだよ」
「一体何を言っているんだ?」
「はぁ、これだから脳の足りない魔人は…」
「んだとゴラァ!!!」
ノアの全く補足になっていない説明と挑発に苛立った魔人は今度は闇属性の魔法を放ってきた。
「これは流石にどうしようもないだろう!なんてったって魔族にしか使えな__」
「ほい」
「え゛ぇぇぇぇ!!!???」
魔人は自信満々そうに魔法を放ったが、ノアの剣にあっさり魔法が消されてしまい、思わず目を見開いて大声を上げた。
「ど、どうなってんだよ!?」
「何回も言ってんだろカス。魔法を消してるんだって」
「いやそんなん言われてもわからんわ!!!」
魔人が至極最もなツッコミを入れると、流石にノアもイライラしてきてしまい。
「はぁ…お前もういいわ。消すわ」
「は?」
何度説明しても理解しない魔人と話す価値などないと判断し、本気で魔人を殺しにかかった。
「じゃあな、能無しクン」
身体強化を先程の100倍の出力でかけ、光速よりも速いスピードで魔人の首を切りつけた。
「あ、りえねぇ…こんなことが…世界に許されていいわけが…」
生命力の強い魔人は首を切られた直後も小さく言葉を発し、そして数秒後に息を引き取った。
「よっし、まずは一人。さーて、セリーさんのご家族はどこにいんのかねー」
そんなことをボソボソと言いつつ生き残った男性に近づき、そして優しく言葉をかけた。
「もう大丈夫ですよ。魔人は死にましたから」
「あ、ありがとうございます…!お陰で助かりました…!」
「いえいえ、当然のことをしたまでです」
男はノアに深々と頭を下げ、誠心誠意礼を伝える。
流石にそこまでされるとは予想していなかったが、その気持ちを素直に受け止め、そしてこの勇敢な男をここから脱出させようと声をかける。
「それより、早くここから逃げてください。まだまだ魔人はいますので、できるだけ遠くに逃げてください」
「それは…できません」
ノアが逃げるように言った途端、先ほどまで明るかった表情を途端に真剣な表情に変化させ、ノアの言葉を否定してきた。
その表情を見てこの人には何かがあると察したノアは素直に理由を問うた。
すると男は急に自己紹介を始めてきた。
「申し遅れました。私はこの村の村長のダンテ・ラミアーデと申します。以後お見知り置きを」
「!?村長ですか…!?」
まさか探していた人物が目の前にいることがわかり、思わず目を見開いて驚いた。
そして直後、ダンテは強い目つきで言葉を放った。
「はい。ですので私に残された村人を放って逃げることはできません」
ダンテはこの村の長として相当の責任感を持ち、命をかけて村人を守るつもりであった。
そして当然このような熱い男の言葉を聞いてノアが痺れないはずもなく、心の中の何かを奮い立たせながら口を開いた。
「わかりました。ならまず、今の状況について聞かせてください」
ノアはダンテがここに残ることを認め、そして一番状況を理解してあるであろう彼に現状を尋ねる。
「魔人は合計で何人いましたか?」
「七人です…」
「マジか…」
魔人が七人もいるとなると、下手をすれば小さな国家が滅びかねないようなレベルであった。
なぜそんな大人数でこんな小さな村に攻めてきたのかは謎であるが、それは一旦置いておいて質問を続ける。
「現在の魔人の進行状況はわかりますか?」
「うーん…先ほどまで魔人に捕まっていたのでそれは把握していないのですが…」
ダンテはそう言いながら辺りを見渡し、一瞬にして魔人の進行状況を察知した。
「まず村の北側を壊滅状態にして徐々に東西に侵攻して行っているようですね。東は半分ほど侵攻が及んでいて、西は少しスピードが遅いようですね。そして幸い南はほとんど進行が及んでいないようですね」
「そ、そうですか…」
長年この村で生きてきた人間の圧倒的な地図の把握力により状況を一瞬で判断することができるが、正直ノアは引いていた。
(普通そんなことできねぇだろ…)
いくら村長とはいえ、迫り来る火の手を見ただけでどこまで侵攻されているのかがわかるものなのか…?
ノアの知る限り、そんなことをしでかすことができる人物は一人しかいない。
それは紛れもない、ノアの実の父であった。
(まあ、あの人は半分人外みたいなもんだけどな)
どう考えても村長と領主では管理する面積の桁が違うため、こればかりは比べる対象が悪いとしか言いようがないな。
まあ、それはどうでもいいとして。
とりあえず状況をある程度把握することができたためすぐにでも魔人討伐に向かおうと考えるが、そこであることを思い出したため足を止めた。
「あ!あと…あなたのご家族は無事ですか?」
「家族、ですか…?」
「はい。ダンテさんの妻や子供たちのことです」
「…わかりません」
セリーに頼まれた家族の救出を達成すべくダンテに質問をかけると、彼は大きく表情を曇らせた。
先ほどまでノアが来たおかげで希望が垣間見えていた目から光が消え、絶望の表情に変わった。
「妻は他の村人を連れて早々と避難したため無事だとは思いますが…娘は…わかりませんっ…」
ダンテは涙を堪えつつそう言葉を発した。
それに対し、ノアは笑顔でダンテの肩に手を置いた。
「娘さんは無事ですよ」
「な、なんで…!」
「俺はあなたの娘さんからの頼みでこの村に来たんです。彼女はきっと今頃俺の連れと一緒に楽しく話でもしてますよ」
そうやって慰めるように言葉をかけると、ダンテは下を向いたまま大粒の涙を流して。
「よかった…!ありがとうございます…!」
そしてダンテはノアの手を強く握り、ただ例を言い続けた。
そしてダンテの涙が収まった頃、ノアは動き始めた。
「じゃ、行きましょうか。大切なものを守るために」
「そうですね。行きましょう!」
二人は拳を大きく掲げ、脅威である魔人を屠るために足を進めた。




