42 村の少女
「大丈夫ですか?」
ラミア村に向かう途中、三人は地面に崩れ落ちて泣いている少女を発見し、そして彼女の状態を確認した。
「これ…服に…!」
彼女の服は燃えたよに一部が破れていて、さらにところどころに血のような赤いものが付着していた。
その状況を見てこの少女に見に何かが起こったということを察し、まずは彼女の精神面を心配する。
「何かお辛いことがあったのですか?私たちでよければ力になりますよ」
フェリスは彼女に優しく微笑み、そして手を差し伸べた。
するとその少女は涙を拭い、フェリスの手を取って立ち上がった。
「申し訳ございません。見苦しいところを見せてしまいました」
立ち上がった彼女は気品のある立ち振る舞いで挨拶をし、そして自己紹介を始めた。
「申し遅れました。私はセリー・ラミアーデと申します」
「俺はノア・アルカル__」
「ラミアーデ!!!???」
丁寧な自己紹介を受けたためこちらも自己紹介をしようとすると、アメリアが驚いた表情で声を上げた。
「ってことはあなたはラミア村の村長の娘さん!?」
「まあ…そうですね」
「えぇぇぇ!!!???そうなのか!?」
たまたま見つけた少女がまさか目的地の村の村長の娘だとは思わず、ノアもつい大きな声を上げてしまう。
流石にそこまで驚かれるのは想定外であったため、セリーは意表をつかれたように目を見開いた。
「はい…。一応そうですね…」
セリーは苦笑いを浮かべつつ首を縦に振った。
「マジかぁ。まさかこんな奇跡が起こるとはなぁ」
「そうね。これから向かう村の村長さんの娘さんとたまたま出会えるなんてね」
「ん?ちょっと待って?」
ノアとフェリスがこの奇跡に対して驚いていると、アメリアがあることに気がついた。
「どうしてセリーさんは一人でこちらに?村からはそれなりに距離があるはずですけど…」
ここは村から馬車で一日程かかる場所であるため、とても女性一人で来れる距離ではなかった。
そのことを疑問に感じたアメリアがセリーに質問を投げると、セリーは何かを思い出したかのように表情を暗くし、そして身体から汗を滲み出した。
「あ、えと…その…身体強化魔法を使って逃げてきて…」
「逃げてきた?一体村で何が…?」
「そ、それは…」
セリーの村では恐らくとんでもない悲劇が起こっている。
だがここで彼女の優しい心が溢れ出し、見ず知らずの人をを巻き込みたく無いという感情が生まれているのだろう。
「…だ、大丈夫です。大したことはありませんから…」
セリーは笑えていない笑みでなんとか誤魔化そうとするが、正義感の塊である三人は逃そうとせず。
「そんなことないですよね?あなた、さっきからずっと震えてるし」
「何か大変なことがあったら助けを求めることも大切ですよ?ほら、ここにちょうど便利屋がいることだし」
「いや誰が便利屋や。でもまあ、何かあるなら助けになりますよ」
「し、しかし…」
これだけの言葉をかけても彼女は折れず、口を思い切り塞いで心の声を漏らさないようにしている。
そんな絶望に満ちたようなセリーの顔を見ると、流石にもう我慢することはできなくなってしまい、三人は強めに声をかけた。
「セリーさん!話してください!あなたの村で何があったのか!」
「私たちはあなたの力になりたいのです!私たちの迷惑とか余計なことは考えずに話してください!」
「ですが…」
「セリーさん!私たちがそんなに頼らなく見えますか?」
ここでアメリアがいやらしい一言を放ち、セリーの困惑を誘った。
「い、いえ…決してそういうわけでは…」
「なら頼ってください。私たちは、あなたの味方ですから」
アメリアが優しく言葉をかけると、セリーは一瞬涙を浮かべた。
だがその涙は一瞬で引っ込め、そしてまたしても表情を暗くして村での惨劇について全てを話した。
「ま、魔人が村に…!?そんなこと…」
「信じ難いけれど…本当なのですよね?」
「はい…」
魔人というワードを聞き、フェリスとアメリアは一気に怯え始めた。
それほどまでに魔人というのは人間にとって恐ろしさの象徴であるのだ。
「それに、家族も残されていると…」
「う〜ん…」
先程まではあれだけ意気込んでいた二人もこればかりは歯が立たないようで、眉間に皺を寄せたまま頭を悩ませていた。
(まあ、普通ならどうしようもない状況だよな)
そう、普通なら対処のしようがない状況である。
ならつまり普通じゃない方法で対処すればいいだけの話だ。
「俺がなんとかするよ」
最恐には最強で。そう思ったノアは手を挙げて立候補する。
だが当然全員から止められてしまう。
「む、無茶ですよ…!」
「流石にあなたでも魔人数人ともなると厳しいんじゃ…」
「そうだよ!今回は相手が悪すぎるよ…」
不安そうに、必死そうに止めてくれる妻に対して(いい妻を持ったな)なんていう喜びの感情を抱きつつも彼女らの頭を撫でて不安を取り除こうとする。
「大丈夫だよ。俺ならなんとかできる。なんてったって、俺には神剣がついてるからな」
「「「神剣…?」」」
父以外の人間に神剣の話をするのは初めてなため、三人からは疑問の目を向けられる。
「まあ、めちゃくちゃ強い剣だよ。神様から選ばれた者にだけ与えられる的なやつだよ」
彼女らに安心してもらうために神剣について少し詳細に話すと、当然のように驚きの目を向けられる。
「え!?神様から選ばれたの!?」
「まあな」
「じゃあとてもすごい剣なの?」
「そうっぽいな」
「そんな素晴らしい方が目の前に…私は神様になんとお返しすれば…」
神剣の話をするとセリーの目には希望が生まれ、その瞳でこちらの顔をまっすぐに眺めてきて。
「ノアさん。どうか、私たちの村を救ってはくれないでしょうか」
セリーは深々と頭を下げ、真摯にお願いをしてくる。
そしてノアは当然首を縦に振った。
「任せてください。必ずあなたの家族も助けてみせます」
「それは頼もしいです…!」
セリーは頭を上げて今度は綺麗な笑みを向けてきた。
そこでようやく彼女の不安が少しだけ払拭されたことがわかり、安心して村に向かうことができる状態になった。
ここで村に向けて出発するべく足を進めようとしたのだが、それは嫁二人の言葉によって止められてしまう。
「ねぇ、私たちにも何か手伝えないかしら…?」
「流石にノア一人に全部させるわけにはいかないよ」
「いやぁ…特に何もないんだがな…」
今回の場合、村で二人に手伝えることは本当にない。
しかも二人に少しでも身の危険があるというだけで心のどこかに躊躇いが生まれ、魔人との戦いで不利に働く可能性があるのだ。
そんな理由から彼女らに手伝いをお願いするわけにはいかないのだが、それでは納得できないようで。
「私たちは少しでもあなたを支えたいの。それがたとえとても小さなことでもね」
「そうやって寄り添って生きていくのが夫婦だと思わない?私はそう思うなっ」
二人はそう発言しつつ両手で手を握ってきて、彼女らの熱い気持ちを手から伝えてくる。
「確かにそうだな」
そんなに綺麗な彼女らの心を無碍にすることなどこの男にできるはずもなく、二人に対して指示を出した。
「じゃあ二人にはこの近くまで逃げてきた村民の対応を頼みたい。それと、セリーさんの護衛も」
「ええ、任せて」
「絶対に任務を達成させるねっ!」
「ああ、頼んだ」
そう言ってから二人に背を向け、顔だけを振り向かせて三人の美少女に目を向けた。
「じゃあ、行ってくるな」
「いってらっしゃい」
「絶対無事で帰ってきてねっ」
「村と家族のこと…お願いいたします」
「任せなっ!」
そして自身に身体強化の魔法を思い切りかけ、全速力で村の方向に駆けて行った。
そしてその途中、ノアは空に向かってこう叫ぶのであった。
「スローライフさせてくれよ!!!!!」




