41 目的地
「う〜ん…どうすべきかね…」
旅が始まって数カ月の時が流れた今、一同はあることについて頭を悩ませていた。
「どこかで定住するつもりなんだよね?」
「ああ。だがどこでするかが問題だよなぁ…」
三人の悩みとは旅の終着点のことであり、全員深く考えずにここまでやってきた。
そのため三人ともどこに定住すべきか頭を悩ませ、そして議論を重ねている。
「でもあまり遠すぎてもよくないわよね」
「そうだねー。でも近すぎるのもよくないんでしょ?」
「ああ」
あまり遠すぎると三人の体力が持つかどうか不安だし、近すぎるとそもそも旅の意味がないのである。
なので地図を広げて良い場所を探しているのだが、あまり良い場所が見つからない。
「このままでは中々決まりそうにはないわね」
「たしかに…」
「とりあえず一旦条件を整理してみましょうか」
このままでは埒が明かないといち早く感じたフェリスが一度条件を整理する。
「まずフラクシア王国からは一定の距離が必要。でも離れすぎると魔族の侵攻が及ぶ危険性が高いからそれはダメ。よね?」
「ああ、そんな感じだな。ついでに辺境の村とかなら最高だな」
「辺境ね…」
他国といえど王都ともなれば顔を知っている人間も存在するため、できるだけ王都からは距離が欲しい。
だがここが難しい問題で、王都から離れすぎると国からの恩恵を得られにくいという点がある。
国からの恩恵が受けられない、すなわち何か災害などがあっても全く支援が受けられないということだ。
もっと簡単に言うと、収めた税が全く還元されないということである。
ノアとしてもそこまでの辺境には行きたく無いが、王都に近づきすぎて名が知れたとなれば…。
そんな問題が頭をよぎり、三人は深々と頭を悩ませていた。
「あんま端すぎても色々不便だし、それよりは王都よりの方がいいか?」
「でもそれだと身分がバレる可能性があるし…どこかいいところは無いのかしら」
「…ねえ、こことかどう?」
「?」
中々決まらず話は停滞していたのだが、そこでアメリアは直感的にいいと思った場所に指を差した。
「ラミア…?」
「そう、ラミア村。実は私一回だけ行ったことあるんだっ」
「へー」
アメリアの指の位置を見ると、そこはノアが考えていた条件と一致していて。
興味が湧いたノアはラミア村のことをアメリアに尋ねた。
するとアメリアは頑張って昔の記憶を絞り出しながら話し始めた。
「雰囲気は辺境の村って感じだったけど、割と裕福な村だったよ」
「へー」
考えていた条件と完璧に一致するため、アメリアの話にどんどんのめり込んでいく。
「人もすごく優しくて温かい人ばかりだったよ。みんな笑顔が絶えないいい人たちだったよっ」
「ふーん、いいな。ちなみに飯は美味いのか?」
体重する上で大切なことをアメリアに訊くと、彼女は自身ありげに胸を張った。
「ふっふっふ…実はね…私が食べたご飯の中でも五本の指に入るぐらい美味しかったんだよ…」
「ま、マジか…!?」
生粋のご飯好きのアメリアがそこまで言うだと…!?
なら食の味は間違い無いはずだ…!
(これは…悪く無いな)
いや非常に良いぞ!
こんなに素晴らしい村がこの世界にあったなんて!!
ノアは速攻でラミア村に行く事を決め、二人に意思確認をとる。
「俺はめちゃくちゃ良いと思うんだけど、二人ははどう思う?」
「とてもよさそうね。一度行ってみる価値は十分にあると思うわ」
「うんっ。私ももう一回行ってみたかったんだぁ」
アメリアに関しては絶対に飯が目的だろ。いや良いけれども。
「とりあえずこれで決定でいいか?」
「「うん」」
ここでノアは拳を掲げ、そして大きく声を上げた。
「行くぞ!ラミア村!」
「「おー!」」
こんな風にして旅の目的が決まり、そこへ向けて馬車を進めた。
◇
「ど、もうしてこんな…」
とある辺境の村にて、少女は絶望に満ちた表情でそう呟いた。
目の前に広がるのは炎の海、あるいは村人たちの悲鳴。
そしてその悲鳴はこちらまで近づいてきて。
「早く逃げて!!」
「殺される…!!」
「いやぁぁあ!!!」
それほど多く無い村の人間たちが次々と走り、命を守るために村の外に全速力で駆け抜ける。
だがその人々たちに反するように少女はただ立ちすくんだまま。
そしていつしか悲鳴がほとんど聞こえなくなり、そこで自分が逃げ遅れたことに気づいた。
「あ、え…どうすれば…」
直後少女は混乱に襲われた、その場で足場を身をすることしかできなくなった。
もうすぐ奴らがやってきて殺されるという不安によって少女の足は動く事を忘れ、そしてとうとう膝がガクンと崩れ落ちた。
「大丈夫か!!??早く逃げるぞ!!!」
そこで突然少女の父が現れ、少女を抱えて逃げようとした。
だがしかしもう手遅れであった。
「「!?」」
なんとか村から逃げ出そうと道を駆けていたその時、洗練された炎魔法が二人の前に立ち塞がり、二人の行く手を阻んだ。
そしてその背後から吐き気ばするほどに恐ろしい気配が迫ってきた。
「よお人間。お前がここのボスか?」
後ろを振り返り、その声の主を目に入れると二人の心臓は大きく跳ねた。
「魔…人…!」
僅か十メートルという瞬殺の間合いの中、父は魔人と対峙した。
「そうだ。俺がこの村のボスだ」
「そうか。なら、お前には死んでもらう」
そこで父は悟った。
自分の命はもう無いに等しいのだと。
魔人と人間の力の差など歴然であり、国最強の戦士でようやく互角といった程である。
そんな魔人と戦おうなどただの愚策であるため、父は剣を抜かずただ死を待つだけとなった。
だがしかし彼には一つだけ諦めきれないことがあった。
「それはかまいませんが、この娘は見逃してもらえませんか?彼女は私とは無関係の一般人なもので」
「ふーん…まあいいだろう。たかが娘一人殺したところで楽しくも無いしな」
「ありがとうございます」
父は最後の望みとして娘を生かすことを選び、少女を腕から下ろした。
「え、あの…」
「行きなさい。君はちゃんと長生きするんだよ」
「いや…でも…」
少女は涙を流して父に訴えかけるが、父の意思は固かった。
「行きなさい!!!セリー!!!」
ここまで声を荒げる父は初めて見た。
その驚きか、少女は反射的に足を動かせた。
そして一時的に消された火の上を駆け、遠くまで走り抜けて行った。
ただ遠く、分からぬ道を駆けて行き、そしていつしか足が止まった。
「お父さん…お母さん…!」
しだいに膝が崩れ落ち、そして地面に向かって涙を流し始めた。
そしてしばらくの間目を湿らせていると、近くから木材のが転がるような音が響いてきて。
「大丈夫ですか?」
少女の前には馬車が止まっていて、その中からは一人の男とその妻らしき二人が顔を覗かせていた。




