40 今も清いですよ?
「あ゛〜あぢ〜」
数週間の時が過ぎるといよいよ夏も本番で馬車の中となるとかなりの暑さが一同に襲いかかる。
「フェリスぢゃん、あれお願〜い…」
「りょーかい」
暑さに耐えきれなくなったアメリアはフェリスに魔法を使うようお願いし、そしてフェリスは氷魔法と風魔法の二つを馬車内にかけた。
すると馬車内の温度は一気に下がり、アメリアは快適そうにしながらフェリスに感謝の言葉を述べた。
「あ〜涼し〜ありがと〜フェリスちゃん」
「どういたしまして」
「流石はフラクシア魔法学院の首席だな〜」
「え、フェリスちゃんって首席だったの!?」
しれっとノアがフェリスの過去について話すと、当時のフェリスを知らないアメリアは驚いた表情でフェリスを見つめた。
それに対してフェリスは少し戸惑いつつも謙虚に自身の過去について話し始めた。
「まあ…一応そうだったわ。でもたまたまよ。当時は運が良かっただけで…」
「いやそれでもすごいよ!あの名門で首席だなんて、引く手数多でしょ!?」
「そうだな。今の宮廷魔法士団の団長も首席卒業生だし、どうせそこからも高待遇で声かかってたんだろ?」
「まあ…ね」
「そ、そんな人が今隣にいるなんて…」
フェリスの思いがけない実績にアメリアは驚愕し、目を大きく見開いたまま固まってしまった。
そしてその姿を見ていたずら心をくすぐられたノアはさらにアメリアを驚かせてやろうと口をペラペラと動かした。
「てか首席卒業もたまたまじゃないだろ?試験の順位も常にトップだったし、なるべくしてなったって感じだよな」
「そ、そうなの…!?」
「一応、ね…?」
「いやぁあの時のフェリスは凄かったなぁ。まさに同級生の希望の星って感じだったよなぁ」
「そんなになの…!?」
驚きのあまり固まりそうになっているアメリアを見てノアは少し大袈裟な言葉を綴り、アメリアの驚きを引き出そうとする。
だがそんなノアの悪い心を読んだフェリスはアメリアに真実を話そうとする。
「別に希望の星まではいかないわよ。私はたまたま才能を持って生まれただけの人間だもの。希望になるのはもっと努力をして能力を磨いた人のはずよ」
フェリスが少し自虐的にそう言うと、ノアがその言葉を完全否定する。
「じゃあフェリスこそ希望になるべきだよな。才能がどうこう言ってるけど、フェリスが裏で誰よりも努力してたの、俺は知ってるよ」
フェリスとは幼馴染なため、彼女が才能だけでなく努力でここまで力をつけたのはよく知っている。
そして誰よりも悩んで誰よりも苦労してきたことも知っている。
自分で自分の努力を否定しないでほしいと素直に感じたノアはその気持ちを言葉に変えようとする。
「フェリスが自分のことをどう言おうと、俺にとってフェリスは希望だったよ。どんなものよりも眩しい希望の星だったよ」
「…っ!?」
今まで抱いてきた感情を全部フェリスに話すと彼女は嬉しそうに笑った。
「ありがとう…。なんだか、報われた気がするわ」
「それは良かったよ。フェリスはそうやって自分のことは隠したがるけど、謙遜し過ぎるのも良くないぞ?」
こうやって涙を流しそうになりつつも笑っているフェリスと会話を繰り広げていると、先ほどまで目を見開いていたアメリアも加勢してきた。
「そうだよっ!フェリスちゃんはすごいことをしてるんだから自信もって!」
「そうよね…ありがとう…」
フェリスの心には自信が湧き、そして真っ直ぐにアメリアの目を見つめた。
「なんだか、カッコ悪いところを見せちゃったわね。せっかく希望の星だとか言ってくれたのに」
「別にいいさ。俺はフェリスのそういうところも尊敬してるから、何も問題ないさ」
そうやってみんなで笑顔を見せ合うと、アメリアがポンと思い出したようにフェリスに質問を投げかけた。
「そういえばさ、なんでフェリスちゃんは宮廷魔法士にならなかったの?」
あまりに突然の質問にフェリスは戸惑い、そして頬を赤く染めて目を逸らした。
「それはその…」
「というかそれ以外にもたくさん声がかかってたんでしょ?なんでどこにも行かなかったの?」
「…だ、だって…私はノア専属の魔法士だから…♡」
「えぇぇぇぇ!!!???」
フェリスの衝撃発言を聞いてアメリアは衝撃を受け、そしておそらくこの発言の犯人であるノアの方を見た。
するとノアもフェリスみたく顔を赤くして目を逸らしていて。
「どういうこと!?一体どういう契約だったの!?」
「いやぁ…契約ってほどじゃないんだけどな…若気の至りだよ…」
「どういうこと!?」
ノアは深くは説明しないが、フェリスには伝わっているようで。
「あの頃のノアは今とは違う意味で積極的だったから、そういうことも普通に言ってきてたの…。そして私が本気にして話を全部断っちゃったの…」
「えぇ…」
「いや俺も一応本気ではあったんだぞ?ただあの時は恥じらいとかがあんまなかったから普通にそういう事を言ってしまっただけでな…」
二人の言葉を聞いてまたも目を見開いたアメリアは少し呆れたように言葉を放つ。
「二人は昔からそんなにラブラブだったんだね…羨ましいよ…」
「別にそこまでじゃない…よな?」
「そ、そうだったかしら…?」
「え」
今と比べればあの頃はそこまでラブラブだった気はしないのだが、どうやらフェリスからしたらそうではないらしい。
「だって私たち毎日のようにどっちかの屋敷に行ってずっと二人で過ごしていたじゃない?それは世間一般的にはラブラブだと思うのだけれど…」
「え」
「えぇぇぇぇ!!!???」
フェリスが学院に通っていた頃の話をすると、アメリアはさらに驚いた表情を向けてきた。
「どっちかのお屋敷でずっと二人きり!?え、フェリスちゃん卒業したのはつい最近だって言ってたよね!?」
「それは…そうだけれど…」
ん?卒業?
学院を卒業したのは二年前だから最近ではないはずだが?
そのような疑問が頭に浮かぶが、その疑問はすぐに解消されることになる。
「じゃあつまり本番はしないけど途中まではえっちなことしてたってこと!?」
「ん?????」
耳に着地した言葉のおかしさについ耳を疑うが、それは紛れもなくアメリアが放った言葉であって、それにフェリスは否定の言葉を返した。
「いえ、それも最近の話よ…」
「じゃあ二人で何してたの!?」
「それは…ね?」
「え?」
あまりの会話の異常さについ頭がパンクしそうになっていると突然フェリスから視線を向けられたため、ノアは言葉を詰まらせた。
「ああ…そうだな…」
「もしかして覚えてない?」
「!?…いやそんなことはないけど…」
ノアは過去の記憶を漁り当時のことを思い出したのだが、正直恥ずかしくて話したくないのである。
だがしかしそういうわけにもいかなそうな空気感なため、ノアは仕方なく話し始めた。
「…まあ色々してたけど、一番良くやってたのは普通におしゃべりだよな?」
「普通だったかしら?」
「…」
赤裸々に話したつもりであったが、濁した部分をフェリスに指摘されてしまい心に焦りが生まれる。
そしてフェリスも(覚えてないの?)と言わんばかりの冷たい目を向けてくるため、ノアは仕方なく当時の詳細な話をした。
「手を握ったり身体を寄せ合ったりキスしたり、色々しながら喋ってたよなぁ…」
「そうだだわねっ♡」
そこでフェリスはなぜか嬉しそうに笑い、そしてアメリアは頬を赤くしながら二人に目を向けた。
「す、すごいね…まさしく純潔なお付き合いって感じだね…」
「それが今となっては、ね?」
「………」
二人からなぜか笑っていない笑みを向けられて目を逸らして逃げようとするが、二人は全く逃がしてくれる気はないようで。
「最近は歯止めが効かなくなったみたいにすぐにえっちなことをしたがるわよね」
「確かに。キスなんてしたらすぐに興奮してしまうもんねっ」
「…」
俺は何も聞こえないぞ!!!!
ノアは聞こえないふりを続け、今日からはもう少し抑えて清いお付き合いを心がけようと誓うのだった。




