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39 逃げ道をくれ


あの後も数時間しっかり海を堪能し、日が暮れる直前に近くの街に向かった。


そして暗くなった頃に街に着くと、そこでは祭りと思わしきものが開催されていた。


「なんだこれ…?」

「あ!もう夏祭りが始まってるんだ!」

「へー…結構大きいお祭りなのね」

「まあウチの屋台群には敵わないけどね!!」


アメリアはなぜか胸を張ってドヤり始めた。


だが確かによく見渡してみるとシルクレーター領ほど屋台が多いわけではなかった。


だがしかし毎日並んでいる屋台と毎年一度しか並ばない屋台では活気のレベルが違うわけで。


「にしても人の熱気がすごいな…装飾もかなり張り切っているみたいだし、まさに年に一度の祭りって感じだな」


この街の人間はこの祭りのために様々な準備を重ね、そして戦いに挑むような気持ちで祭りを開催しているのだろうか。


そう思わされてしまうぐらいに人々の心に炎が宿り、その熱が馬車にまで伝わってきている気がするのだ。


それはとても素晴らしいことであるが、そうなると少し不満そうな表情を浮かべる人物が隣にいる。


「(ウチのお祭りだってすごいのに…)」


その人物とは当然アメリアのことで、彼女は頬を膨らませたまま何かをブツブツと呟いていた。


でもせっかくの祭りなのでそんな顔をせずに楽しんでもらいたいというノアの良心が働き、手をパチンと叩いて二人の視線を集めた。


「よし!ここで降りて食べ歩きでもするか!」

「賛成」

「うん、そうだねっ。そうしよう!」


アメリアは三大欲求が強いため、食べるという言葉を聞くだけで考えていたことの全てが脳から吹き飛んでいくのだ!


(フッ、チョロいなっ)


単純オブ単純なアメリアに向けてそのような失礼なことを誇らしげに考えると、彼女から疑り深い目を向けられた。


「今、何か失礼なことを考えなかった?」

「え!?い、いやぁ…考えてない、ぞ…?」

「ふーん…それならいいんだけどっ」


なんでバレてんだ!?


まさか顔に出てたか!?


心の中でそのように焦りの言葉をあげるが、ある解決法を思いついたのでそれを実行した。


「あ!あそこにうまそうな唐揚げが売ってるぞ!早く行こうぜ!」

「え!?唐揚げ!!??」


またしてもアメリアは食べ物に釣られ、先ほどの疑いの目をキラキラと輝いた目に変えた。


(いやチョロすぎだろ。このままじゃ犯罪に…いや待て)


ノアはとんでもない大発見をしてしまった。


(うまく使えばアメリアを思い通りに…)


例えば浮気がバレても食で釣ればどうにかできるのでは?


いやそもそも浮気なんてしないけどな。


(これは…考えない方がいいな…)


このままでは自分の下衆な部分が垣間見えてしまいそうになると思い、速攻で考えるのをやめて馬車から降りた。


そして嫁二人の手を取って馬車から下ろした後、御者に挨拶をしてから祭りの灯りの方に向かって行った。


「綺麗ねー」

「いい匂いがするぅ〜」


屋台が大勢並ぶ広場に行くと、壮大な景色と美味しそうな匂いの暴力が襲ってきた。


これほどの祭りならばこの熱気にも納得がいくというものだ。


現に他所から来た三人もすでに祭りを堪能している。


「よっし、まず何から食べる?」

「さっき言ってた唐揚げはどうかしら?」

「さんせー!」


この雰囲気に入り込むだけでテンションが上がり、海で遊び尽くしたのにも関わらず足取りも軽くなっていった。


「ん〜♡おいひぃ〜♡」

「うまいなこれ!」

「熱々で美味しいわね」


腹を空かせて十分、ようやく変えた唐揚げを頬張りつつ足を進めて次の食べ物を探していく。


そして唐揚げを食べ終えた頃にスイーツ大好き女性陣がクレープ屋を眺めながら足を止めた。


「あのクレープ美味しそ〜」

「いちごクレープ、美味しそう…ふ、太らないかしら…」

「あ、確かに…」


二人とも一度は目を輝かせたが、フェリスが重大なことに気づきアメリアも表情を濁らせた。


そして急遽会議が始まり、ノアに聞こえないように至近距離で会話を繰り広げた。


(何やってんだ…?)


二人はコロコロと表情を変化させながら会話をしているためノアの脳にはそんな疑問が浮かんできた。


(そんなに気にする必要あるか…?)


「あるよ!!!」

「え、なに…?」


全女性に失礼なことを脳内で考えていると、アメリアに心を読まれて強く指摘を受けた。


「私たちにとってこの話は命よりも大事なの!ちょびっと体重が増えただけでも女の子は気になっちゃうの!」

「そ、そうか…ごめんごめん」


アメリアに強く迫られてしまい、ノアは思わず後退った。


そしてしっかり謝罪の言葉を伝えるが、アメリアはまだお怒りの様子であった。


「全くもう…ノアは女心を全然わかってないよねっ」

「ごめんって…そこまでだとは思ってなかったんだ」

「(ただでさえ最近服が入らなくなってきたのに…)」


ん?何か聞こえたぞ?


(そんなに太ったのか…!?)


「ノアのせいだよ!!!あなたが私をダメにするからだよ!!!」

「えっ俺のせい?」


なんか普通に心を読まれてしまい、そして罪を問われ始めてしまった。


もうこうなったアメリアは手がつけられないと思いフェリスに助けを求めるような目を向けるが、目が合った瞬間にそっぽむかれてしまった。


「ノアは反省するべきだと思うわ…わ、私もその…被害者だから…」

「え!?」


ちょっっっと待て。


本当に身に覚えがなさすぎる。


太る要因といえばご飯であるが、アメリアの屋敷にいた時はメイドさんが調理したものを食べてたしそれより前も基本他人が調理しているものを食べていた。


なのでこちらのせいになるはずが無いのである。


「ごめんけど、ちょっと身に覚えが無さすぎるわ。2人がそう言うってことは俺が悪いんだろうけど、今考えた限りだと何が悪かったのかわからないんだ」


思い出しても二人を太らせた記憶は見当たらないため、正直にそれを話して頭を下げた。


すると二人は仕方なさそうに説明をしてくれた。


「ノアがその…たくさん触ってくるからよ…」

「へ?」

「ノアが毎晩毎晩好き放題するせいで胸が成長しちゃってるの!!!」

「…へ?」


あ、これもしかして俺が悪いやつ?


いやそれはそうなんだろうけれども、何か想像していたのと違って思考が停止してしまう。


「えーと…つまり太った原因は俺の性欲のせい?」

「「うん」」

「あぁ…大変申し訳ございません」


そこまで好き勝手していた記憶はないが、急激に成長したのであればそれが原因で間違いないのだろう。


そのことを瞬時に理解したノアは深々と頭を下げて謝罪をした。


「これからはもう少し抑えれるように努力するのでどうかお許しください」


ノアは素直に反省してこれからのことについて提案するが、二人はどこか不満そうに言葉を返してきた。


「いや、別に抑える必要はない…よ?」

「そうね…無理して我慢すると身体に悪いしそこは抑える必要はないと思うわ」

「…そっすか」


じゃあどうすりゃいいんだ!?


太るからやりすぎるのはダメだけど我慢するのもダメ。


なあ、またジレンマが発生してないか?


(もう考えるの諦めようかな…)


この二人相手には敵わないということが今日一日でわかり、ノアは謎の無力感に襲われた。


そしてこの問題の解決を諦め、完全に現実から逃げる道を選んだ。


「よし!クレープ食うか!」

「え、いやでも__」

「大丈夫!全部うまく行くさ!」

「急にどうしたの…?」


突然ハイテンションになったため二人からは怪訝そうな目を向けられるが、完全に無視して強制的にクレープを食べさせた。


そしてその日の夜、全てが終わった後にまた二人に色々と怒られてしまうのであった。


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