38 反省はしてるつもりです
今現在、一同は旅の途中にビーチに足を運んでいる。
妻二人は楽しそうに水を掛け合いながら海を満喫し、非常に充実した時を過ごしているように見える。
そして少し離れたところから二人を眺めているこの人物も、海を十分に堪能していた。
(いやぁ…最っ高)
いやノアは海などどうでもよくてただ二人が水着姿で遊んでいるという光景に夢中になっていた。
でも仕方ないだろ?こんなに可愛い二人が水着でキャッキャうふふしてるのだから。
そういう人が同じビーチにいたら絶対盗み見るだろ?な?
え、あれ。見ないって?
お前…人間か?
(ここで見ないなどむしろ無礼まである)
ノアはそんな意味不明な思想の持ち主で、たまに二人から引かれたりもする。
だが二人はそれでも愛してくれるため、最近は自分の性癖がどんどん露見していっている気がする。
現に今、胸や尻ばかり見ていたのがバレてめちゃくちゃ睨まれてるし。
「やっべ」
「お〜い!そろそろこっちおいでよ!」
「…ああ」
アメリアから笑っていない笑みでお誘いを受け、ノアは半ば強制的に二人のもとに行くことになった。
「お、気持ちいいな。いい感じの冷たさじゃないか__」
「変態」
「性欲の塊」
「え」
海に足を入れて何事もなかったかのように二人と話そうとするが、それは叶わず罵声を浴びせられる。
「あなたはいつもそうよね…。そういうイベントがあればあなたは女の子の胸やお尻ばかり見て…飽きたりしないのかしら」
「その通りだよ。毎晩あれだけ見たり触ったりしてるのに昼になったらすぐ目で追っちゃって…。どれだけ欲が強いの?」
「…」
二人の言葉はごもっともなため、ノアは全く言葉が出てこなかった。
弁明の余地もないし、言い訳をする隙すらない。
(これはちとマズイかもな…)
経験上こういう場面で二人はとんでもない要求をしてくる事がわかっているため、今度はどんなことをねだられるのかドキドキしていた。
だがしかし二人から放たれたのは想定外な言葉で。
「はぁ…お詫びとしてノアは私たちに水をかけられるべきよ」
「…え?」
フェリスがそのように言い放つと、隣のアメリアもその話に乗っかった。
「そうだよ!反省の気持ちが見られるまで罰を受けるべきだよ!」
「えぇ…」
二人はある意味とんでもない暴論を投げかけてくるが、それで二人が満足するならこの話を受け入れない手はない。
というわけで渋々首を縦に振ったわけだが、一応注意喚起だけはしておいた。
「正直この欲の強さは本能だからな…罰を受けたところで治るかどうかはわからないぞ」
まあ、結局こういうことなんだよな。
いくら注意しようが二人のことを邪な目で見てしまうのは男として当然の行動なのでいくら反省しようが治しようがないのだ。
そのことを二人に説明したのだが、二人はそんなの関係ないと言わんばかりに水をかけてきて。
「私たちはいつもの仕返しがしたいだけだからそんなの気にしなくて大丈夫だよ!!」
アメリアが楽しそうに手を動かしながらそう言い放つと、ノアの頭には当然の疑問が浮かんできた。
「仕返し!?一体何の…?」
仕返しということは過去に何かをやらかしているというわけで、その事についてノアは不安になってきた。
そしてその疑問については頬を赤く染めたフェリスが説明をしてくれた。
「い、いつもベッドでたくさん鳴かされてる仕返しよ!!」
「え゛!!!???」
「あの場で仕返そうとしてもいつも出来ないから今こうやって仕返ししてるの!」
フェリスは投げやり気味にそう声を上げると、アメリアも首を大きく縦に振り、そして水をかける勢いを強めてきた。
そして何も言えなくなったノアはただ二人が水をかけてくる姿に幸福感を感じながらボーッと突っ立っていた。
で、また視線が勝手にあらぬ方向に行ってしまい。
「ねぇ、また変なところ見てない?」
真っ先に気づいたアメリアがそう言いながら手を止めらると、フェリスも手を止めてこちらを睨みつけてきた。
「はぁ…全く反省してないわね…」
「ごめん…。でもさっきも言った通り、コレは本能だからどうしようもないんだ」
「ふーん…そうなんだ…」
あ、全然信じてないなこの人たち。
こっちは真剣だぞ!!
まあそんな心の叫びなどこの二人には届かないだろうな。
(俺は一体どうすればいいんだぁぁぁ!!!)
完全なジレンマが発生し、ノアに逃げ道は閉ざされてしまった。
こういう時、人間はどういう行動を取ると思う?
その答えは簡単。
「ハッ!」
「え、何して__」
「…」
「ノアぁぁぁ!!??」
ノアは自らの首にチョップし、自ら気絶という道を選択した。
だがしかし頑丈に仕上げられているノアの身体はその程度では意識を奪う事ができず。
(クソ…!このまま倒れたフリするしかねぇか…!)
結局そのような結論に至り、何とか心を無にして演技を始めた。
「…」
「と、とりあえずテントまで運びましょう…!」
「そうだね…!一旦寝かせよっか…!」
二人は掛け声をかけながら死んだフリをしているノアを何とか持ち上げてテントまで運び、一度普通の枕に寝ころばせた。
「で、ここからどうする…?」
「…どうしましょう…」
ここまでは何とか済んだが、これから一体どうすればいいのか二人はわかりかねている。
だがやはりこういう時は頭の切れるフェリスがしっかり答えを導き出して行動を起こした。
「よし…とりあえずノアのことは私が見ているから、アメリアは魔法で冷えた水を作ってくれないかしら?」
「わ、わかったよっ!!」
フェリスが指示を出すとアメリアはテントから少し離れたところまで行き、魔法を使う音を響かせ始めた。
そしてそれを確認したフェリスの膝に頭を乗せられ、そして彼女は顔を至近距離まで近づけてきた。
「(ねぇ…ホントは起きているのでしょう?)」
(!?)
フェリスが小さな声で完璧な指摘をしてきたため思わず心臓が大きく跳ねた。
「(やっぱり。あなた、こういうところは不器用よね)」
どうやら身体も反応してしまっていたようで、しっかりフェリスにバレてしまった。
バレているのに目を瞑ったままなのも流石に気まずいためノアは思い切って目を開けた。
「…ごめん」
「(ふふっ、別にいいのよっ。これに、謝るのは私たちの方だし)」
フェリスはクスッと可愛らしい笑みを浮かべた後、膝の上の夫に対して頭を下げた。
「(さっきはいたずらが過ぎたわ。ごめんなさい)」
「ったく…勘弁してくれよ…」
「(つい楽しくなってしまって。いつもやられている側だから少し調子に乗ってしまったわ)」
「…そうか」
何とも言い返しにくい言い訳をされ、ノアは口を閉ざして黙り込んでしまった。
だがその間にもフェリスはとんでもない言葉をぶっ込んでくる。
「(あと…私たちの身体を見て興奮してくれるのは嬉しいから…別に嫌がってたりはしてないわよ…?♡)」
「そ、そうですか…」
ならよかったよこんちきしょう!!!!
マジでこっちは心臓が破裂しそうなぐらい追い詰められてたんだからよく反省してくれよな…。
こんな心の言葉を吐き出すことはなく、ただずっと目の前の山を眺める。
「………」
「の、ノア…?」
「どした?」
「その…あんまりじっと見られると恥ずかしいのだけれど…」
「ふぅん…」
なぜ山を見ているだけなのにフェリスが恥ずかしがるんだ?
目の前にあるこの二つの山を見ているだけで…
「キャッ__!?」
「ん…??」
「え、ノア…?起きて…って何してるのっ!?」
「あ」
ちょうど山に触れたタイミングでアメリアがこちらに帰ってきたため、彼女は目を見開いて驚きをあらわにした。
…ん?まて。何で山が鷲掴みできるんだ…?
「…あ」
「…だ、大胆すぎるわよ…♡」
「全然反省してないみたいだねっ」
「ご、ごめんなさぁぁぁい!!!!!!」
結局何もかもがうまくいかない夫くんであった。




