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31 ご両親


あれからいくつか森を越え、そして山を下り切るとようやく大きな街が見えてきた。


「あ!見えてきたよ!」


するとアメリアが嬉しそうに騒ぎ始め、そこが目的地であることがわかった。


「あれがシルクレーター領か。思ってたより結構でかいな」


良い領主がいれば自然と領地は発展するもの。


つまりある程度発展を遂げている領の領主は人格者であるということだ。


(ひとまず安心だな)


もしシルクレーター領が相当貧しそうだったらどうしようかと考えていたが、アメリアの育ちなどを考えるとそれは杞憂であった。


「ようこそ!私の街へ!」


そしてアメリアは両手を広げて満面の笑みで二人を街に受け入れようとしている。


その笑顔を見てこの街はアメリアにとって大切な故郷であり、誇らしい自家の領地であることがわかり、二人はさらに安心感が増した。


だがこれからアメリアの両親と対面するとなると流石に緊張せずにはいられず、少し身体が震えてしまう。


「あ〜緊張してきたぁ…」

「ふふっ、確かに初めて来る街は緊張するわね」

「それもそうだけど、アメリアの親御さんに怒られないかどうか不安でな…」


何せ今回はかなりイレギュラーな結婚の報告をすることになるため、普通に怒られて絶縁させられる可能性があるのだ。


このような最悪の事態になる可能性があるので緊張せずにはいられなかった。


だが親のことを知っているアメリアは何度もノアの言葉を否定する。


「いつも言ってるけど、お父さんもお母さんもとっても優しい人だから大丈夫だよ。二人が怒ってるとこなんて見たこともないし想像もつかないよ」

「ん〜…でもなぁ…」


アメリアは毎回このように説明をしてくれるが、やはり会ってみるまでは不安になってしまうタチなわけで。


そんなノアの気持ちが理解できたのか、フェリスがギュッと手を握って励ましてくれる。


「今はアメリアのことを信じましょう?結局あまり考えすぎても意味なんてないわ。それよりも今はせっかく来た街を思い切り楽しみましょう?」

「…それもそうだな」


フェリスの手の温かさを感じて不安は払拭され、言葉の通りに観光を楽しもうと心を切り替えた。


そして三十分後、ようやく街の門を潜ってシルクレーター領の中に入った。


そこでまず目に入ったのは大きな一本道とその端にズラッと並んでいる屋台の一群だった。


「な、なんじゃこりゃ…」

「ふふん!これこそがウチが誇る屋台群だよ!この街じゃ毎日がお祭りみたいに屋台が並んでるんだよっ!」


アメリアは誇らしげに胸を張ってドヤっている。


いつもなら子供らしくて可愛いと思うところではあるが、この景色を見せられてはそんな思考になれず、目を見開いたまま街の人々を見続けた。


領民の一人一人の表情には活気があり、そして何よりも楽しそうに生きている。


それがどれだけ素晴らしいことかはノアもよく知っていて。


「いや、スゲェなマジで。こんなに活気がある街初めて見たよ」

「ふふんっ!!」

「これだけの街を作るぐらいなのだから、アメリアのご両親はきっと素晴らしい人なのね」

「その通り!!!」


二人が色々褒め称えると、当然の如くアメリアは調子に乗り始め…


「二人とも欲しいものがあったらいつでも言ってね!私がいくらでも買ってあげるから!」


なんて非現実的なことを平気で言い、結局二人に子供っぽいと思われるのである。


「…その時は頼むわ」

「また今度一緒に観光しましょうね…」


二人はアメリアに残念な生き物を見る目を向けつつ視線を外に戻した。


そして馬車で一本道を真っ直ぐ進むと、奥の方に大きな屋敷が見えてきた。


「あれってもしかして…」

「うんっ!私のお屋敷だよ」

「立派な屋敷ね」

「まあ、一応貴族だからね!」


またアメリアがドヤ顔をして屋敷について色々語っているうちに屋敷に到着し、一同は近くで馬車を降りた。


そしてアメリアが門の前の警備の人間に顔を見せると、一人が急いで屋敷に走って行き、もう一人が驚いた様子で頭を下げた。


「お、お帰りなさいませお嬢様!ご無事で何よりです!」

「ただいまです」


やはりアメリアの身に何かがあったのは知れ渡っているようで、警備の人間は泣きそうになりながらもアメリアを迎えた。


「よく帰られました…本当に、何があったのかと…」

「あはは…心配させてごめんなさい。でも私はこうして帰ってきましたから、安心してください」


先程まで調子に乗っていた人間とは思えないような大人な素振りで警備の人間と話をするアメリアを見て、やはり本来はこういう人間なのかと認識させられる。


いや逆に親しい人間にだけああいう子供っぽい一面を見せるのだろうか。


真実はどちらかわからないがひとまずアメリアの新しい一面を見れたことに喜びを感じていると、警備の人間が頭に?を浮かべながらアメリアに質問を投げ始めた。


「あの…つかぬことをお伺いしますが、そちらの御二方は…」

「あ、そうだった。こちらの二人は私が魔獣に襲われていたところを助けてくださった命の恩人です」


アメリアに紹介されて軽く会釈をすると、その警備の人間が慌てて深々と頭を下げてきた。


「こ、これは失礼いたしました!まさかお嬢様の命の恩人とは思わず…!」

「いえいえ、あなたは自分の責務を全うしようとしただけですので何も悪くありません。どうか頭を上げてください」

「はい、ありがとうございます…!」


貴族によってはとんでもない警備もいる中、ここの警備の人間にはとても思いやりの精神が感じられる。


こういったところからもアメリアの両親の人柄が垣間見え、ノアの緊張感は徐々に解されていく。


「よし、なんか今ならいける気がしてきたぞ」

「あら、さっきまであんなに怯えていたのにね」

「いや怯えてたとか言うなよ。間違ってはないけども」

「そこは否定しないんだ」


三人で冗談を言い合って身体の緊張を解し、ノアの心は自信に満ち溢れてきた。


「さて、そろそろ挨拶したいんだが、俺ら入って大丈夫なのか?」

「それは少々お待ちください。もう一人の警備のものがご当主様に確認に参っているので」


警備の人がそのような発言をしたタイミングで丁度屋敷からもう一人の警備がアメリアの両親と思わしき人間を連れて出てきた。


そして母親と思わしか人物がアメリアを見た途端泣きながら走り出し、アメリアを勢いよく抱きしめた。


「アメリアっ__!!!」

「お母さん!!!」


アメリアも母親のことを思い切り抱きしめ、母の胸の中で大きく泣いている。


そんな微笑ましい親子の姿を片目に、この家の当主と思わしき男がこちらに向かって歩いてきた。


「お初にお目にかかります。アメリアの父であり、この土地の領主のアブスト・シルクレーターです。失礼ですが、お二人は?」

「私はフラクシア王国のアルカルナ公爵家の長男、ノア・アルカルナと申します。そしてこちらが…」

「妻のフェリス・アルカルナと申します。お会いできて光栄です」

「ああ!まさかあのアルカルナ公爵家のご長男だとは…!よくぞいらっしゃいました!」


アメリアからの説明の通りとても気さくで優しい人であり、ノアは心の中で思い切り息を吐き出した。


(優しそうでよかったぁ…!とりあえず一安心だな)


そんな感じで胸を撫で下ろしていると、アブストからある質問を投げられた。


「それで、お二人は一体どうしてアメリアと共に…?」

「ああ、それは__」

「私のことを助けてくれたからだよ!」

「おお!そのような…!」


アブストの質問に対して丁寧に説明をしようとすると、先程まで母と抱き合っていたはずのアメリアが一瞬で説明を終わらせた。


そして両親は当然のように納得し、深々と頭を下げてきた。


「アメリアの命を救ってくれて本当にありがとうございます!」

「ありがとうございますっ!」

「いえいえ、俺たちは当然のことをしたまでですから」

「なんとお優しい…!」


アメリアの両親はノアの優しさに感服したように輝いた目を向けてくる。


「あの、お二人さえよろしければ今からお礼をさせてはいただけないでしょうか?娘を助けていただいた人を何もせずに返すわけにもいきませんので」

「そうですね。なら、お言葉に甘えて」

「よし!早く中に入ろ〜」


こうしてノアとフェリスはアメリアの屋敷にお邪魔することになった。


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