29 どっちも気持ちいいです
「ゔ…ぎもぢわるい…」
結局昨晩はあまり眠ることができず、睡眠不足のまま馬車に乗り込むことになった。
そうなると当然不調が発生するわけで、ノアは現在フェリスに膝枕をしてもらっていた。
そしてすぐそばにいるアメリアは昨日のことを反省しつつノアに頭を下げた。
「ごめんね…私がやりすぎちゃったせいで…」
確かに昨晩はアメリアが暴走していた為、ノアは体力がゼロになるまで搾り取られることになった。
だがそれだからといってアメリアが全て悪いわけではない。
「いや、俺の体力が無さすぎるせいだ。これから長い夫婦生活のためにももっと体力つけねぇとな」
これからの夜は二人同時に相手をすることになる。
となれば当然今までの倍近くの体力がいるわけで、ノアは自身を鍛え上げることを決意し、俯いたままのアメリアに優しく微笑んだ。
「アメリアは何も悪くないさ。初めてだったからちょっとわからなかっただけだろ?」
「それは、まあ…」
「なら仕方ないさ。これから少しずつ慣れていけばいい」
「そうね。私も初めての時は少し暴走してしまったけど今はどうにかなってるから、アメリアもきっと大丈夫よ」
ノアに合わせてフェリスも慰めの言葉をかけると、アメリアはようやく顔を上げて笑顔になった。
「そう、だね。うん、ありがとう。これからもっとノアを楽しませてあげられるように頑張るねっ!」
「えっ」
アメリアがトンデモ発言をすると、フェリスもニコニコと笑いかけてきた。
それってつまり、そういうことだよな?
え、どういうこと?
ちょっとノアの脳では理解が追いつかないが、多分これからも楽しい夜を過ごせそうなことだけはわかった。
あと毎回体力切れになりそうな未来見えてしまい、ノアは未来が不安になった。
だがそんな心境を二人が知るはずもなく、ただ笑いかけてきている。
(どうなるんだ俺…)
多分無事では済まないだろうが、この二人にされるのなら悪くないかと考えつつフェリスの膝枕を堪能する。
そしてそこから一時間が経つと体調も回復し、フェリスの膝から頭を上げた。
「あら、もういいの?」
「ああ。落ち着いてきたから大丈夫」
身体を起こして座った体勢をとると、逆方向にいるアメリアが自分の膝をトントンと叩いてアピールをしてきた。
「じゃあ今度はこっちにおいで?」
「いや、もう落ち着いたから大丈夫だぞ?」
「ううん、そうじゃなくて」
もう膝枕をする必要は無いはずであるが、アメリアはそんなことはないと言わんばかりにノアに声をかける。
「私がノアに膝枕してあげたいのっ」
「してあげたい…?」
「だってノアはフェリスちゃんの膝枕ばっかりだもん。それはずるいよ。私だってノアに膝枕してあげたいのっ」
確かに言われてみれば今までずっとフェリスの膝枕ばかりを利用していた。
それはアメリアが共に旅をするようになってからもずっとであり、それは彼女にとっては苦しいところがあったのだろう。
そのことにふと気づいたノアは素直にアメリアの言葉を受け入れ、彼女の膝に頭を乗せた。
するとアメリアは嬉しそうに笑い、まるで可愛い子供にするみたいに頭を撫でてきた。
「ふふふっ♡よしよ〜し♡」
「……」
なんだコレ。滅茶苦茶癒されるんだけど。
ふわふわもちもちな太ももに、暖かくて柔らかい小さな手。
それに加えて圧倒的な母性。
フェリスとはまた違った暖かさを持つアメリアの膝の上で、ノアはぼんやりとその感触を楽しんでいた。
「どう?私の膝はっ」
「ああ…凄くいいな。やっぱり人によって感触とかが変わるもんなんだな」
ノアは心の底から思ったことを話すと、その言葉に過剰に反応した人物が不満そうな顔でこちらを見つめてきた。
「つまり私のよりアメリアの膝枕の方が良いってことかしら?」
「え!?あ、いやそういうことじゃなくてだな…」
「ふーん…まあノアが幸せならそれでいいのだけれどね?ええ、それで構わないわ」
フェリスはそんなことを言いつつ滅茶苦茶拗ねている。
流石にこの空気のままアメリアの膝枕を堪能するのは憚られるため、ノアは自分の言葉を付け足した。
「フェリスにはフェリスの良さがあって、アメリアにはアメリアの良さがあるんだ。だから別にどっちが良いとかではないんだ」
フェリスに対して弁明すると、先ほどとは変わって照れた顔でツンデレみたいに斜め上を向いた。
「ふ、ふーん…ちなみに…私のはどこが良いの…?」
「っ…それはだな…」
これは、もう言うしかないよな…。
どう足掻いても恥ずかしい説明しかできない気がするが、もう逃げ道は塞がれたので言うしかない。
(歯食いしばるか…)
ノアは自分の想いを伝えるべく勇気を振り絞り、渋々口を開けた。
「フェリスの膝はな…滅茶苦茶安心するっていうか、心の底から暖かくなるのを感じるんだ。だからフェリスの膝枕はめっちゃ安眠できる」
「そ、そうなの…」
羞恥心を捨てて本心を伝えると、思いの外フェリスは恥ずかしそうでガッツリ目線を逸らしてきた。
(な、なんとかなったか…)
「じゃあ私の膝枕の良さはどこなの?」
「…」
安心するのも束の間、今度はアメリアが顔を覗かせてきた。
まあ立派な山のせいでほとんど顔は見えないのだが。
というか、そもそもアメリアの膝枕はまだ数分しか堪能できてないのに感想を求められても困る!
まあ、頑張って言うけれども!
「そうだな…。アメリアの膝は柔らかくて大きいから頭が包まれてる感じがして癒されるな。それに頭の撫で方もなんかめっちゃ安心するんだよな」
なんとか褒め言葉を絞り出すと、アメリアは嬉しそうに笑ってくれた。
「ふふっ♡ありがと♡」
余程嬉しかったのか、アメリアはなでなでをたくさんしてくれた。
(なんか子供扱いされてる気が…)
アメリアはまるで子供を可愛がるかのように撫でてくるのでついそんな感想を抱いてしまった。
でも恐らくアメリアはそういうことをするタイプの人間なので仕方なく受け入れることにした。
(まあアメリアが幸せそうなら良いか)
そうだ。アメリアが幸せならノアは何だってする。
だがしかし、今彼女が幸せかどうかはわからない。
そんなの顔を見ればわかるだろって?
いやだから顔が見えないんだって。
(…にしてもデカいな)
そう、アメリアの立派な二つの山のせいで彼女の顔が見えないのだ…!
出会った時から思っていたが、相変わらず立派なものを持ってやがる。
それを昨晩は好きにしていたのだ。
(あ、やべ…)
昨晩の記憶が蘇り、ノアのノアは反応してしまいそうになった。
だが流石に仰向けになっている今反応されたら確実にバレてしまうため、脳内で念仏を唱えて悪念を取り払った。
そして一度深呼吸をし、もう目に入れてしまわないよう目を瞑った。
アメリアのなでなでの甲斐もあってか、ノアは思わず睡眠についてしまった。
それから二時間後、ノアはゆったりと目を覚ました。
「…?」
「もちよかったの…♡え、ノア!?お、起きたの!?」
「ああ…眠ってたのか」
状況はよく理解できないが、アメリアはなぜか慌てている。
「さっきの話聞いてた!?」
「いや、何も」
「そ、そっかぁ…」
なぜかアメリアは安心したように胸を撫で下ろし、露骨に話を逸らしてきた。
「そういえばお腹空いたね〜。そろそろお昼にしない?」
「ん…もうそんな時間か」
ノアは身体を起こし、一旦外の景色を眺めてみた。
良い感じの休憩場所はないかと辺りを見渡してみると、目の端に何か生き物と思わしき物が見えた。
「野生の動物…?」
かなり距離があるので判別がつけにくいが、近くを通る可能性があるため念のため魔法を使って確認をしてみる。
身体強化魔法を目にかけ、視力を大幅に上げてみた。
そしてその生き物の方を見てみると、そこには想定外のものが見えてきた。
「…!!!???もしかして…魔獣…!?」
ノアの目に映ったのは黒いオーラを纏ったS級レベルの大型の魔獣だった。




