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26 あの日の告白


あの日、アメリアの頭に雷が落ちた。


フラクシア魔法学院の卒業が迫り、もう学院に来る理由も無くなってきた頃の話だ。


アメリアはいつものように学院の図書館で本を漁り、取り出した恋愛小説を楽しそうに読んでいた。


(やっぱり恋愛っていいなぁ…私もいつかこんな恋を…って、それは無理だよね)


この学院内でアメリアは完全に余所者で、言動や身なりはあえて目立たないようにしていた。


当然オシャレや化粧もできるはずがなく、興味があっても手を出せずにいた。


そんな女に男が寄ってくるはずがないと、アメリアは完全に諦めていた。


というかそもそも、貴族の娘は政略結婚のため他の貴族に嫁ぐのが当たり前だ。


なのでアメリアに自由に恋愛をする権利などあるはずがない。


そういった理由から、アメリアは学院内で恋をしないように心がけていた。


だがその時、何者にも覆せない衝動がアメリアの身体の中に流れ始めた。


突然図書館に現れたスッと背が高くて優しい顔立ちで、そして気品のある立ち振る舞いの男子生徒。


アメリアはその生徒を見た瞬間に心臓が大きく跳ねたのを感じた。


(え…どうしたんだろう私…っ!)


アメリアは自分の抑えきれない感情に困惑した。


あの人を一目見るだけで心臓が大きく跳ね、頭がぼんやりと暖かくなってくる。


この感情は一体何なのか。


それは恋愛好きな彼女ならすぐにわかってしまうことで。


(これが…恋…?)


よく恋愛小説のヒロインが抱いているような感情が今自分の中にある。


それがわかってしまうとアメリアは自分のを抑え切ることができなくなり、気づけば彼を追いかけて行っていた。


(私、何やってるんだろう…こんなこと、恥ずかしいのに…でも、身体が止まらない…!)


この感情に身を任せて全てを賭けてみたい。


今まで堅実に生きてきたアメリアとは真逆の発想でその男子生徒に詰め寄った。


「あ、あの…!」

「ん?どうかしましたか?」

「あ、えと…その…」


本棚に囲まれて少し暗いので彼の顔はよく見えないが、きっと不思議そうな目でこちらを見ている。


「何かありましたか?息が上がっているみたいですが…」


普段からあまり運動をしないせいか、アメリアは少し早歩きをしただけで息が上がってしまっていた。


「ううん、これはただ運動不足なだけで…」

「そうですか。まあ一旦落ち着きましょうか」


男子生徒はそう言うが、今のアメリアに落ち着く余裕などない。


むしろ落ち着いて冷静になってしまうと恥ずかしすぎて逃げてしまうだろう。


そのためアメリアは彼の言葉を無視し、早々に話し始めた。


「あの!お、お名前は何と…」

「ノア・アルカルナと言います。あなたは?」

「私は…アメリアです」

「…そうですか」


アメリアはあえて姓を名乗らなかった。


もし他国の貴族だと言うことを知られたら彼から避けられてしまう可能性があるためだ。


だが彼はある程度事情を察してくれたようで、それ以上は言及しないでいてくれた。


そんなところも優しくてカッコいいなと、アメリアは本能的にそう感じた。


「それでえと…ちょっとだけお話しいいかな?」

「ええ、構いませんよ」


アメリアは全身まで真っ赤になっているのを感じつつも、ノアに自分の正直な気持ちを伝えた。


「あの、私…あなたに一目惚れしましたっ」


アメリアは少し投げやり気味にノアに言葉をぶつけた。


「さっき図書館に入ってきた時から目が離せなくて、心がドキドキして、私はあなたに夢中になってしまいました」


最早自分でも何を言っているのかを理解していないが、それでもアメリアは言葉を綴る。


「私はあなたのことが好きです。もし迷惑じゃなかったらその…私を側にいさせてくれませんか…?」


こんな告白、普通なら絶対にあり得ない。


貴族同士に自由恋愛など存在せず、ただ家の発展のためだけに人生を捧げる。


それが貴族の常識である。


だがアメリアはそんな常識を無視し、勇気を振り絞ってノアに告白したのだ。


それだけの事実で、ノアの心は少しだけ揺らいでいた。


だが無慈悲なことに、ノアには既に婚約者がいて。


「申し訳ありません。あなたの要望には応えることができません。ですが、気持ちだけはありがたく受け取っておきます」

「…そうだよね…。ごめんね、時間奪っちゃって」

「謝る必要はありません。あなたの気持ちは本当に嬉しいです。もし将来あなたを側室として迎えられたら、俺は相当な幸せ者ですね」

「っ!?」


もう無理だと思っていたが、ノアからかけられた言葉はアメリアに救いの手を伸ばすような言葉で。


そのうっすらとした希望が、アメリアの言葉をもう一度奮い立たせた。


「うんっ。将来君の隣に並んでも恥ずかしくないように、私頑張るねっ」

「はい。楽しみにして待ってます」


そう言って笑顔を向けた後、アメリアはゆっくりと去って行った。


心が引き裂けそうになるような涙を地面に垂らしながら。



「あー…あの時の…」


風呂で湯船に浸かってアメリアの顔を思い浮かべでいると、ふと数年前告白してくれた少女の姿と重なった。


その事実に驚きを示し、ボーッと上を見ながらあの日のことを思い出す。


「まさか昔告白してきた彼女がアメリアさんだったとはな…」


そして彼女をここまで綺麗にさせたのも自分であったのだとようやく気がつき、ノアの心には申し訳なさが宿る。


昔勇気を出して告白までして、さらに頑張って綺麗になったのに当の本人には覚えられていないのだから、彼女のショックは大きいものだっただろう。


「後で謝らねぇとな…」


身体の力を大きく抜き、湯船に顔を半分埋めた。


そしてそこで一つ、あることを思いついた。


(あの時は一目惚れしたって言ってたよな…。多分あの時は勢いに任せて告白してきたんだろうけど、時間が経った今はどう思ってるんだ…?)


ノアの頭にはそんな疑問が浮かんでくる。


政略結婚が当たり前の貴族社会の中、他国でリスクを冒してまで告白をしてきた彼女。


きっとアメリアは相当な衝動に突き動かされたのだろう。


ならもしかしたら今も昔のような感情を抱いているのでは、などといった期待がノアの頭の中に浮かんだ。


(そういえば、あの時側室がどうこうって話したな。まああの時は社交辞令的な感じで言っただけだが、今思うと…)


それも悪くない。


そういった言葉がノアの脳内に自然と湧いてきた。


アメリアの外見はあの頃とはまるで変わっていて、一目見るだけで大勢の人間が夢中になってしまうほどである。


そんな人間に惹かれてしまうのがこの男のサガでして。


(一応言っておくが、俺は中身で判断してるからな?)


ノアは自分の名誉のために誰もいない空間に対して心の中で訂正を入れておいた。


まぁこの言葉は半分ぐらい嘘なのであるが。


でも一応半分は本当ですよ?


あの日から面白くていい感じの人だなとは思ったましたからね!!!


でもまぁ、今のノアにそんなものは関係なくて。


(我慢できるか不安だ…何とか頑張ってくれ、俺)


今晩は三人で同じベッドに寝る予定だ。


一応ダブルベッドにしてはみたが、たぶん三人だとかなり距離が近くなるだろう。


そうなった場合、無防備な美少女二人が両隣に来るようになってしまうわけだ。


こんな状況、この男が我慢できるわけないだろ!!!


「ちょっと発散しとかねぇと…」


アメリアと別れるまではまだ時間があるため、今晩襲ってしまって嫌われでもしたら馬車での空気が最悪になってしまう。


そう考えたノアは浴槽から出てすぐ近くにある椅子に座った。


そしてノアは自分の欲を制御するために強行手段に出るのだった。


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