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24 何の話を?


たまたま森の中で襲われていたところを助けた少女がノアの名前を知っていて二人は大きく目を開いて驚いていた。


「俺たち面識ありましたっけ…?」


ノアは驚いた顔をしつつ当然の疑問をその少女に投げかけた。


すると彼女は恥ずかしそうに頬を染めながらオドオドと説明を始めた。


「えと…私が一方的に知ってるだけで、多分二人は私を知らないと思う…」

「二人ってことは、フェリスのことも知ってるんですか?」

「うん…」


貴族の娘と言っていたから夜会か何かで挨拶をしたのだろうか?


だがそれなら二人のどちらかが確実に覚えているだろうし、これほどの美人をノアが忘れるはずがない。


(一体どこで…?)


そんな疑問が頭の中で渦を巻いていると、その少女は少し悲しそうに自己紹介を始めた。


「アメリア・シルクレーターって聞いたことないかな?フラクシア魔法学院の卒業生なんだけど…」

「シルクレーター…あっ!確かヴェルディスタ王国の貴族じゃ…」

「そうそう!私シルクレーター伯爵家の娘だよっ」


二人が仲良さそうに話しているのを見てノアも過去の記憶を思い出し、手をポンと叩いた。


「あー!ヴェルディスタ王国の貴族の娘がいるって言ってたな!」

「そうそう、それが私だよっ」

「すいません覚えてなくて。多分あまり関わりがありませんでしたよね?」

「そうだね。君たちより私の方が二つ上だからね。それに、あの頃と今じゃ見た目が全然違うし」

「そうなんですか?」


アメリアは苦笑いを浮かべながら過去の自分について話した。


「魔法学院に通ってた頃の私は髪もボサボサでメイクだってしてなかったからね。今考えるとあり得ないほど他人の目に興味がなかったんだよね…」

「では、どうして見た目に気を使うようになったんですか?」

「それはね…」


するとアメリアは突然頬に手を当てて恥ずかしそうに口を開いた。


「恋をしたから…かな」

「「!!」」


二人は一斉に目を見開いた。


「恥ずかしいよね…好きな人に振り向いて欲しくて頑張ってオシャレし始めるなんて…」

「恥ずかしくなんてありません!」

「!!フェリスちゃん…?」


アメリアが表情を暗くして苦笑いをしていると、フェリスが真剣な眼差しで声をかけた。


「好きな人のために頑張るって、とてもいいことだと思います。それは何もおかしくないし、立派なことです」


フェリスは少し口調を強くしてアメリアに語りかける。


「だから、そんなこと言わないでください。もしアメリアさんの言っていることが正しいのなら、私も恥ずかしい立場になってしまいます」


フェリスは自分の気持ちをアメリアにぶつける。


というか、この人しれっと本人の前でとんでもないことを言ってないか?


(俺のためにオシャレしてくれてたのか…?)


フェリスの言い方だとノアのために頑張ってオシャレしてくれていることになる。


いやフェリスは多分そういうことをしてくれる人であろうが、それでも本人の前直接で言われるとこちらが恥ずかしくなってしまうもので。


(…なんか照れるな)


なんて思いつつ頭を掻いている間にもフェリスはアメリアに語りかけていた。


「アメリアさんは胸を張ってください。あなたはとても素晴らしい人なのですから」


フェリスは綺麗な笑顔をアメリアに向けた。


するとアメリアの表情は明るくなり、自信を持った様子でフェリスに笑みを向けた。


「そうだね…。ありがとう。なんか自信出てきたよって」


アメリアはえっへんといった感じで胸を張って得意げに上を向いた。


そんな可愛らしい先輩に対して二人が可愛いものを見る笑みを浮かべた後、フェリスがふと気になったことを訊き始めた。


「あの、もし差し支えがなければ…アメリアさんが好きになった人って…?」

「っ…!?そ、それは…」


アメリアはビクンと身体を跳ねさせて心臓をバクバクと跳ねさせながら言葉に迷っている。


「別に嫌ならいいのですが…」

「う、ううんっ!別にいいんだけどその…」


アメリアは顔を真っ赤にしながら視線を彷徨わせつつフェリスの耳に口を近づけた。


「(ぜ、絶対に誰にも言わないでね…?)」

「(はい、神に誓って絶対に誰にも言いません)」


やはり女子はそういった会話が好きなのか、フェリスはとても楽しそうにアメリアに質問を投げている。


「(え、えっとね…?怒らないで聞いて欲しいんだけど…)」


そこからの会話はノアの耳には入って来なかったが、フェリスのあの驚いた表情を見ると相当な相手だったのだろうと感じた。


そしてその直後、フェリスは頬を赤く染めたまま何かを考え込み、そしてアメリアに対抗心と思わしき視線を向けた。


「ごごごごめんねっ!!決して二人の邪魔をしたりするつもりとかじゃないからっ!!」

「ふふっ、冗談ですよっ」


そうやっておかしそうに笑った後、次はフェリスがアメリアに口を近づけた。


「(でも、正妻は渡しませんよ?)」


フェリスはアメリアに耳打ちをした後、彼女に少し悪そうな笑みを向けた。


それに対抗心を燃やされたらしいアメリアは強い目でフェリスを見返した。


「それは構わないけど、それでも私は負けないよ?何せ私は先輩だからねっ」


とてもそうは思えないような言動をアメリアは見せている。


そしてそばにいるノアとフェリスの見た目が大人すぎるせいでそれはより一層強調されている。


二人は背も高く顔立ちも大人びて綺麗である。


なので普通の二十歳前後の女性が近くにいれば子供っぽく見えてしまっても仕方がない。


「あ、今子供っぽいとか思ったでしょ?」

「っ…!?」


(心が読めるのか…!?)


「ううん、心は読めないよ?でもなんとなくわかるの」


恐ろしい特殊能力だな!


これじゃあ何を考えていてもバレてしまうではないか!


(お、恐ろしいな…)


アメリアのとんでもない力に恐れをなしていると、彼女は口を尖らせて拗ね始めた。


「もうっ、失礼だねっ。私同い年の子の中だと結構発育いい方なんだよ?」

「……」


確かにっ!!!!


なんて言えばフェリスに怒られてしまいそうである。


でも事実アメリアの発育は素晴らしいものであった。


身長こそ平均的であるが、その体型がそれはもう素晴らしいもので。


正直ノアは視線がそちらによらないように頑張って我慢していたのである。


ま、隣のフェリスさんは興味津々のようであるが。


「(す、すごい…これで勝てるかしら…)」


フェリスはアメリアの胸元を見ながら何かをブツブツと呟いている。


一体なぜ?そんなことは知る必要はない。


それより今はこの話の流れをなんとかせねば。


そう考えたノアは焦りを交えながら話し始めた。


「ア、アメリアさんは今からどうしますか?俺たちは向こうの街に行くつもりなのですが…」

「ん?あぁ、そうだね…私もついて行っていいかな?一旦家に帰った方がよさそうだし」


アメリアの護衛は全滅したので帰って報告するのが最善の選択だろう。


そのことを理解した全員は快く首を縦に振り、アメリアを馬車に乗せて出発した。


そして一息ついたところでノアは自己紹介を始めた。


「では、改めまして。アルカルナ公爵家の長男、ノア・アルカルナです。そしてこちらが妻の…」

「ヴィクトリア公爵家の長女、フェリス・ヴィクトリア…じゃなくて、アルカルナ公爵家に嫁入りした、フェリス・アルカルナです」


二人が何気なく自己紹介をすると、アメリアは驚いたように目を見開いた。


「え、結婚したの!?」


どうやらアメリアの脳天には雷が落ちたようだった。


「えぇ…お、おめでとう…」

「ありがとうございます」


なんだかアメリアは複雑そうな表情をしていた。


祝いたいような、悔しいような。


そんな感情がアメリアの中にあるのではないかと思った。


(ま、気のせいか)


アメリアほど優しい人が心から祝ってくれないはずがない。


そんな安直な考えをしつつ二人の美少女との楽しい時間を過ごすのだった。


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