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23 あなたは一体…?


翌朝目を覚ますとノアは天井をじーっと眺め始めた。


(やっちまった…)


絶対にしないと決めていたのに結局手を出してしまい、今現在フェリスの隣で凄く後悔していた。


「(はぁ…こんなんで大丈夫なのか?)」


これからは宿に二人きりで泊まることも多くなる。


今回のように欲情しまくってたらいつか体力がもたなくなる。


そのような心配がある為こちらからは絶対に手を出さないと決めていたのだが…


(ま、誘惑されたから仕方ないよな!!!!)


ノアは完全に開き直って過去の自分を肯定する。


そんなことをしているからフェリスの誘いにサラッと乗ってしまうのだろうに。


まあそんな現実を見るはずもなく隣のフェリスの顔をじっと眺めているとフェリスはパチパチと目を開いた。


「…おはよう」

「おはよう。よく眠れたか?」

「ええ…おかげさまで」

「…」


これには何もコメントしない。


あまり掘り返されてはたまらないからな。


「そ、そろそろ服着るか。今朝は少々寒いからn__」

「だめ」


ノアは布団から出て立ち上がろうとするが、フェリスの首に通している腕を握られて止められてしまった。


そしてフェリスは自身の身体を布団で隠しつつうるっとした目でこちらを見つめてきた。


「せっかくなんだし、もっといちゃいちゃしよ…?」

「ダメだ。もう明るいんだしそろそろ服を着て支度を始めないと」


今度こそは強い意志を持ってフェリスの誘いをきっちり断る。


するとフェリスからは拗ねた目を向けられたが、今後のことを考えるとそろそろ慣れていかねば。


まあそんな感じで色々あったが、とりあえず旅の一日目が終了した。


まだ家族と別れた悲しみが心のどこかに残ってはいるが、それはフェリスと一緒に過ごすことによってなんとか紛らわせる。


そして様々な地を回りつつ、遙か遠方を目指して馬車を走らせる。


旅が始まって10日後。


いつものように馬車でグラグラと道を進んでいると、付近から叫び声のようなものが聞こえてきた。


「なんだ!?」

「あっちの方です!行きますか!?」

「っ…!」


森の中で突然聞こえてきた女の人の悲鳴。


身の安全を考えると絶対に行くべきではない。


特に今はフェリスがいる。


危ないとわかっている場所に近づいてフェリスに危害が及ぶ可能性がある。


そういった疑念がノアの判断力を鈍らせるが、そんな時にフェリスから強く手を握られた。


「行きましょう。困っている人がいるなら助ける。あなたはそういう人でしょう?」


フェリスは強い眼差しでノアの目を見るが、それでも覆せない意思がノアの中にある。


「…いや、行けない…。俺にはフェリスを守るっていう使命があるからな」


ノアは口に出したくない言葉を口にする。


「だからあの人たちは、助けられない…」


苦しい表情をしつつ首を横に振る。


これも仕方ないことだとフェリスに言い聞かせようと思ったのだが、フェリスは全く理解してくれていなさそうだった。


「ううん。あなたは助けに行ってあげて。わたしのことは大丈夫だから」

「いや、そういうわけには__」

「行きなさい、ノア。私はね、困っている人を助けているカッコいいあなたが好きなの。それに、自分の身ぐらい自分で守れるわ。学院主席は伊達じゃないのだから」


確かにフェリスには魔法の才能があった。


フラクシア魔法学院では常にトップの成績で、正直ノアが守らなくても問題はない。


そんな彼女が胸を張って大丈夫と言っているのならきっと問題はないだろう。


(少し過保護だったか)


ノアは自分の束縛の強さに少し反省しつつ馬車から飛び降りた。


「二人はここにいてください。多分ここの方が安全ですし。何かあったらすぐにデカめの魔法で呼んでください。じゃあ、行ってきます」


フェリスに手を振った後、全速力で声の方向に駆け出した。


(間に合ってくれ…!)


心の中でそう祈りつつ身体強化の魔法をかけて走る。


そして草木をくぐり抜けて少し開けた場所に出たところで悲鳴の主と思われる少女の姿が見えた。


「いや…来ないで…」


腰を抜かしている少女は魔獣に襲われそうになっていた。


そして魔獣の爪が少女の首に触れそうになった時、ノアは自身の魔力制限を解除して光の速さで魔獣の腕を吹き飛ばした。


「っ…!?」


あまりに速い出来事だった為彼女は状況を理解できていなさそうに目を見開いている。


だがそんな間にも魔獣は襲いかかってくる。


「数が多いな…まあいいけど」


ノアは音速で魔獣を倒しつつ余裕そうにそう呟いた。


そして一瞬にして二十を超える魔獣を倒し、剣を鞘に収めた。


「す、すごい…」


ただ一人生き残った少女は地に尻をつけたままノアに畏敬の目を向けた。


その視線に気づいたノアは少女に近づいて笑顔で手を差し出した。


「大丈夫ですか?立てますか?」

「え、えと…ごめんなさい。立てそうになくて…」


よく見ると彼女の足は小さく震えていて、まだ恐怖心が心に残っていることがわかった。


そんな少女を森の中で一人放っておくことはできずノアは彼女をお姫様抱っこして歩き始めた。


「え!?あ、あの…」

「大丈夫です。近くに治癒魔法が使える仲間がいますから、そこまで連れて行きますね」

「は、はい…」


彼女は顔を赤くしつつ身体を小さくしてノアに身を任せてきた。


その行動で安心してくれたことがわかり、ノアは内心ホッとしつつ馬車に向かった。


数分歩いたところで馬車が見え、フェリスが手を振って呼び寄せてくれた。


「おかえりなさい」

「ただいま」

「そちらの方は…?」


フェリスは抱え込んでいる少女のことが気になったらしく、首を斜めに向けたまま質問を投げてきた。


「襲われてた集団の生き残りだ。怪我してるかもしれないから診てもらっていいか?」

「ええ、わかったわ」


ノアは少女を馬車の中に上げ、そしてフェリスが治癒魔法をかけた。


「どうだった?」

「特に怪我はしてなさそうだったわ。でも、精神的に傷を覆ってしまっているかもしれないわ」

「そうだな…」


自分の目の前で護衛と思わしき男たちが全員殺されたのだ。


そんな光景を若い女性が見てしまったのであれば、精神に異常をきたしてしまっても仕方がない。


フェリスはそんなことを心配していたようだが、彼女はそんな心配はいらないとばかりに話し始めた。


「私は大丈夫だから…ありがとう。おかげで命が助かったよ」


彼女は二人に対して頭を下げた。


「どうお礼をしたらいいか…」

「いえ、礼なんていりませんよ。俺が助けたくて助けただけですから」

「そうですよ。私たちはあなたを助けたかっただけですから、恩を感じる必要はありませんよ」


そうやって優しい言葉をかけると彼女は驚いた目をした。


「い、いいの?何か要求しなくて…これでも一応貴族の娘だから、何か役に立てると思うよっ!」


彼女は若干投げやり気味に礼をしようとしているが、そんなものは本当に必要ないのできっちり断る。


「いえ、本当に必要ありませんので、あなたは気にせず__」

「か、身体でもいいからっ__!!」

「えぇぇぇぇ!!!???」


どうやら彼女は是が非でも礼をしたいらしく、自らとんでもないものを差し出してきた。


そしてその瞬間にフェリスの表情が暗くなっていって…!


(ヤバいぞこれはなんとかしなねぇと…)


ノアは冷や汗をかきつつ少女を引き止めようと努める。


「お、落ち着いてください!もっと自分を大切に__」

「ノアくんなら…私構わないからっ__!!」

「「え?」」


突然彼女から飛び出した言葉に二人は呆気に取られてしまう。


「ど、どうして俺の名前を…」

「あ…」


少女は失敗してしまったといった感じの目で口を隠した。


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