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19 妹


その日の夜、ノアは旅に向けて片付けを進め始めた。


無駄に広い部屋のせいか、一人での片付けはかなり難航していた。


だがそんな時にその人物は現れた。


「お兄様。私も手伝いましょうか?」


扉の前で顔だけをひょっこりと覗かせているのは妹のラヴィアだった。


ラヴィアはとても心優しい人物なのでこういった困り事の度に姿を現してくる。


今回も当然困っていたのですぐに部屋に招き入れ、細々とした物の片付けを手伝ってもらうことにした。


「お兄様、少し散らかりすぎではないですか?もう少し頻繁にお掃除するなりメイドに任せるなりすればいいのに」

「あはは…全くもってその通りだ」


ラヴィアのもっともな指摘に対し、ノアは苦笑いを返す。


「ごめんな。俺が片付けてないせいで手伝わせてしまって」

「いいえ。これは私がしたい事ですから。お兄様がお片付けが苦手でよかったですっ」


心優しいラヴィアはそう言って笑いかけてくる。


相変わらず笑顔が眩しい妹である。


(母さんによく似てるな)


心身共に成長してきたラヴィアはここ最近よく母に似始めてきた。


母は意外と頼りになるところがあったりするので、すなわちラヴィアも頼り甲斐がある人物になっているということだ。


「(ラヴィアも、成長したな)」

「?何か言いました?」

「いや、なんでも」


二つしか歳が違わないくせにノアは親のようにラヴィアの成長に感激している。


「お兄様、手が止まってますよ?」

「ああごめん。さっさと終わらせないとな」


そんな感じで三十分程片付けを進めてようやくひと段落ついたので二人は一旦休憩をすることにした。


二人は横に並んで椅子に座り、まるで恋人かのようにくっついた。


そしてラヴィアはノアの肩にもたれかかり、少し表情を暗くして話し始めた。


「本当に、行ってしまうのですね…」

「ああ」

「お兄様がいなくなるってことは、私が一番上の子になるってことですよね」

「そうだな」


アルカルナ家はノアを含めて6人の兄妹がいる。


長男であるノアがいなくなるとすれば、長女であるラヴィアが兄妹内で一番年上となるのだ。


そしてどうやらラヴィアはそのことに不安を感じているらしく、下を向いてぎこちなく笑っている。


「私にそんな大役が務まるでしょうか。お兄様という大きな穴を、私が埋められるでしょうか」


正直に言うと、アルカルナ公爵家にとってノアという跡継ぎの存在は大きかった。


他の貴族からの信頼も厚く、アルカルナ家の次代の当主として文句の付けようがない程の逸材だった。


だがしかし、そんなノアはもうすぐ家から姿を消す。


それ即ち、跡継ぎの問題が出てくるわけだ。


ラヴィアは長女なのできっと跡継ぎにはなれないだろう。


だがしかし、貴族界で一番歳上の子供というのは存在感が大きいわけで。


これからはきっとラヴィアの普段の振る舞いがアルカルナ家の威厳に大きく関わってくるだろう。


そういった重圧に耐え切れる自信がラヴィアには無いのだろう。


だがしかし、それは昔のノアも同じだった。


「俺もな、昔は不安でいっぱいだったんだよ。全く知らない貴族に対してもいい態度を取らないといけなくて、正直結構しんどかった」


ノアは自分の昔話をしてラヴィアを励ます。


「でもな、そんな時に家族の顔を思い浮かべると、なんか頑張れる気がしてな。俺はいつもそうやって不安を乗り越えてきた」


そっとラヴィアの頭を撫でつつ、彼女の不安を払拭するべく話を続ける。


「ラヴィアは強い子だから、きっと何があっても大丈夫だ。でもどうしてもしんどい時があったら、俺の顔を思い浮かべてくれ。ラヴィアの中の俺が、きっと力をくれるから」

「…そう、ですか」


照れているのか、ラヴィアは少し頬を赤くしながらこちらを向いた。


「なら、今のうちにお兄様の顔を脳に焼き付けておかないとですね」

「それはちょっと怖いな」


そんな冗談に二人は大きく笑い、そしてノアは一番長くそばにいてくれた妹との時間を堪能した。


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