18 家族
ノアは自分のこれからとフェリスの意思を正直に伝えた。
するとやはりフェリスの両親は驚きを隠しきれず、目を見開いて口元を押さえている。
「急にこんなお願いをして、大変申し訳ないです」
「……」
ヴィクトリア家の当主であるフェイズは机に肘をついて頭を悩ませる。
そしてその妻であるアイリスはまだ戸惑いを隠しきれない様子で、今も目線があちこちを彷徨っている。
このままでは話は良い方向に進まない。
直感的にそう感じ取ったノアが何か付け足そうとするが、その前に同じことを感じていたレノスが口を開けた。
「俺はこの二人のことを応援したいと思っている。二人にとってこの旅が今後の糧になると信じているからな。いや、こいつらならきっとそうしてくれる」
「…!?」
ノアは父親の発言に驚きの目を向けるが、レノスは構わず続ける。
「これはあくまで俺の意見だけど、別れってのはどうせいつかくる。ならもし本人たちが望むのであれば、笑って送り出してやるのが親としての責任だと思っている」
またしてもレノスの発言に驚かされる。
(そんなこと思ってたのか…)
普段はヘラヘラしてるくせに、こういう男らしいところがあるから嫌いになれない。
(俺もいつか親になったら…)
こういう親になりたい。
そう、誰からも信頼され、誰からも愛されるような親に。
ノアはそんな憧れを抱きつつ、フェイズとアイリスの表情を窺った。
「…そう、だな」
「確かに、レノスさんの意見は最もね」
どうやらレノスの言葉によって親心というものを刺激された二人は小さく笑みを浮かべ、そして緊張している娘を見つめた。
「フェリス。ちゃんとノアくんの役に立つんだぞ」
「っ…!!」
フェイズはいつものように笑いかけてくれた。
そしてその笑みを見てフェリスは涙が溢れてしまう。
「あなたなら大丈夫よ。きっと立派なお嫁さんになって、ノアくんと生涯を添い遂げられるわ」
フェリスを慰めるようにアイリスが言葉をかけるが、フェリスの涙はさらに加速してしまう。
「お父さん…お母さん…っ!」
「こらこら、そんなに泣いたら化粧が落ちるぞ?」
「そうよー。せっかく綺麗にしてるんだから、ちゃんと笑っていなさい」
二人は立ち上がってフェリスの両隣に行き、そして彼女を抱きしめた。
「大丈夫。何があっても、フェリスは俺たちの娘だ。もし何か不安なことでもあれば、いつでも手紙をよこしてくれ」
「あなたは強い子だからこれから何があっても大丈夫だと思うけれど、もしどうしても耐えきれなくなったら、いつでもウチに帰っておいでね?」
横から両親に優しい言葉をかけられ、フェリスはさらに目頭を熱くしていた。
そんな良い親子の光景を見て、ノアは釣られるように笑みを浮かべた。
(良い親に恵まれたな。まあ、俺もそうか)
ノアは必然的に両親を見つめた。
「?どうかした?」
「いーや、なんでも」
「いや、俺にはわかるぞ?良い親に恵まれたなぁ…なんて考えてたんだろ?」
「…まあ、な」
恥ずかしさのあまり目を逸らしてしまうが、ここで感謝を伝えなくては親不孝ものだと思い、小さく肯定をした。
そんなノアの反応に二人は驚いた様子であったが、恥ずかしいのでそちらは見ないでおいた。
それから数分後、ようやくフェリスの涙がおさまり、例の話が再開された。
「で?二人の旅を認めてくれるのか?」
「…ああ、勿論だ。ヴィクトリア家の当主として、フェリスの旅を認めよう」
「ありがとうございます」
ノアはそっと頭を下げ、そしてヴィクトリア公爵家の当主に自分の信念を伝えた。
「必ず、フェリスを守ってみせます」
「ああ、頼んだよ」
「そして、必ず幸せにします」
「ああ。俺たちの大事な娘を、幸せにしてやってくれ」
「はいっ」
ノアはフェイズとアイリスに真剣な眼差しを向ける。
その目で自分の本気度が伝わるよう、思い切り二人の目を見つめた。
だがそこにはにこやかに笑っている二人の目しかなく。
「そんなにかしこまらなくていいさ。何せ君は俺たちの息子同然なのだから」
「そうよ。あなたも、もし何かあったらいつでも手紙を書いてちょうだいね?」
「はい、必ず」
「欲を言えば、毎月のように手紙を書いて欲しいわねー」
「こらこら、無理を言うんじゃないよ」
その場の空気は温かくなり、全員から笑みが溢れた。
そんな最中、ノアは密かに思うのだった。
この人たちの笑顔も絶対に守り抜く、と。




