13 大切なこと
「お前もしかして、考えてなかったな…?」
大事な婚約者のことを忘れてしまっていたノアはレノスに叱るようにそう言われた。
ノアは喋ることができなくなり、その場で固まったまま目を逸らした。
「ノア。奥さんのことを忘れるなんて、女の子からしたらすごく悲しいわよ?」
「…」
はい、ごもっともで。
母から、そして全女性からそう言われたような気がしてノアは額に汗を流した。
(マズイマズイマズイ!!このままじゃただの最低男じゃねぇか!!)
ここは何とか言い訳しないと色んな人に怒られてしまいそうだ。
主に扉の向こうに居る人物に。
というわけで、ノアは言い訳を何とか考えてそれを話すことにした。
「いや、忘れてたわけじゃないんだ。大事な話だからこそ一番最後にするべきだと思っていてだな」
「…本当か?」
「本当だよ」
「…そうか」
レノスから滅茶苦茶疑われているような目を向けられるが、ノアが気合のこもった目を向けたことによってレノスは多分納得してくれた。
「で、結局どうするんだ?フェリスちゃん、連れて行くのか?」
「……」
レノスは途端に話を戻すが、ノアはまたしても口が開かなくなった。
だがしかし今度は先程とは違う表情をしていたようで、それに気づいたレノスは勘づいたような目を向けた。
「もしかして、迷っているのか?」
「…ああ」
二人は同時に難しい顔をする。
「ちなみにだが、お前は連れて行きたいと思ってるんだよな?」
「ああ。でもそれは…」
「リスクがある、か」
二人は揃って眉間にシワを寄せて考え込む。
そんな二人に反し、全く理解が追いついていない人物が一人。
「え?どういうこと?リスク…?ノアが居れば安心なんじゃ…」
どうやらアリアは話について来れていないらしく、頭の上に?を浮かべながら二人に質問を投げた。
そしてその質問に二人は優しく答えをあげた。
「確かにノアが居ればこれ以上ないぐらいに安心ではあるが…」
「俺は魔法適性が低いから超高等な魔法とか使われるともしかしたら対応できないかもしれない」
世界最強の剣士に弱点があるとするのなら、間違いなくそこであろう。
ノアは生まれつき魔法適性が低く、成人した今でも初歩的な魔法しか使えない。
自分を守るだけなら容易いのだが、もし一人庇いながら戦うとなると話は別だ。
もし超高等な暗殺系の魔法でも使われてしまえば恐らくフェリスを守ることが難しい。
そう言った懸念がノアの中で渦巻き、結果としてフェリスを巻き込んでいいものか迷わせている。
それを理解したアリアは深刻そうに頷き、彼女もまた頭を悩ませ始めた。
そして数秒、もう埒が開かないと思ったのかレノスは思い切り息を吐き出して話し始めた。
「もういっそ本人に訊いてみたらどうだ?もうそれが一番早い気がする」
「それもそうね。奥さんの意見を聞いてその通りに行動する。カッコいい旦那さんのいい例ね♡」
アリアはニコニコと笑いながら男二人を見つめた。
謎に重圧を感じた二人は座っていられなくなり、アイコンタクトをとって一旦退却する事にした。
「よし、とりあえず一旦終わりにしようか。続きはフェリスちゃんを交えてまた後で」
「そうだな。とりあえずフェリス呼んでくるな」
ノアはすぐに扉に駆け込み、素早く目の前の扉を引いた。
「あっ__!」
「あ!?」
しまった。
焦っていたせいか、扉に彼女がもたれかかっていることをすっかり忘れてしまっていた。
「大丈夫か?」
「う、うん…ありがとう」
ノアの胸には何とフェリスの身体が!
普通なら驚くのだろうが、ノアは最初から気づいていたので全く驚かない。
「で、何してたんだ?ずっと扉に耳を当ててたようだけど」
「…気づいていたの?」
「ああ。隠密の魔法を使ってただろ」
「う…。ごめんなさい」
「いいよ別に。説明する手間が省けたし。とりあえず中に入りな」
といった感じでフェリスはリビングに入り込み、ここから宇宙一大事な話が始まった。




