11 スローライフをしよう!
味方に囮にされて逃げられるというのはこれほどまでにイラつくモノなのか。
ダンジョンのボス部屋の中で仲間の魔法によって縛られたノアはそのように感じた。
(そもそも仲間と言えるほどの奴らじゃなかったな)
普段から奴隷のような扱いをしてくる人間など、それは味方などとは呼べないだろう。
(もうどうでもいいか。あんな奴らのことなんて考えるだけ時間の無駄だ)
ノアは先程までパーティメンバーがいた方向を見るのをやめ、今直面すべき問題と対峙した。
「さーって、どうすっかねぇ…」
ノアは先程ピリカにかけられた魔法を軽々しく破り、ボスモンスターの近くまで歩いて行った。
するとボスモンスターはもう一度大きく吠え、こちらを威嚇するように魔力を大量に放出してきた。
だがノアは足を止めず、自らの腰に剣を召喚した。
「行くぞ、カーテナ」
ただの剣ではなく、カーテナは神剣と呼ばれる世界最強の剣である。
伝承によると神剣はある日突然神から認められた人間に与えられるらしく、ノアも8歳のある日に突然神から与えられた。
その日からは神剣のある能力によって無敵となり、人類だけでなく世界でも最強となった。
そして今、ノアはその神剣を鞘から抜いて世界最強たる所以をボスモンスターに見せつけた。
◇
ボスモンスターを片付けた後、ノアはいつものように自身に身体強化をかけて走って自国まで帰った。
本来なら走って一ヶ月ぐらいかかるところをノアは5日でほどで帰ってしまった。
そしてフラクシア王国に着くとギルドには向かわず、すぐに家に帰った。
(早く風呂入りてぇ)
風呂の暖かい湯にでも浸かりながら今後について考えようと思いながら屋敷の扉を開けると、そこには思いがけない人物の姿が。
「フェリス…?」
扉を開けてすぐのところでフェリスが慌ただしくウロウロしているのを見て、ノアは頭の上に?が浮かんだ。
「どうしてここに__」
「ノアっ!!!!」
フェリスはこちらの方を見るなりすぐに抱きつき、涙を流しながらノアの胸に顔を埋めた。
そんなフェリスに対し、困惑が加速するがとりあえず彼女の頭を撫でて事情を尋ねる。
「今日はどうしたんだ?何か用事でもあったのか?」
優しくてフェリスに問いかけるが、彼女は泣いたまま何も答えてこない。
(これは…どうしたもんかね…)
いよいよどう接すればいいのかわからず目をキョロキョロさせていると、ある部屋の扉が勢いよく開けられて母が姿を現した。
「ああ母さん、どうしてフェリスが__」
「ノア…!無事だったのね…」
ノアの実母、アリアは目元に涙を流しながらこちらに近づいてきて急に頭を撫でてきた。
そんな意味不明な母の対応にさらに疑問が強くなったノアは今度はアリアに事情を窺った。
するとアリアは今朝受けた報告をそのままノアに伝えた。
その内容は全く事実からはかけ離れた内容であり、ノアは頭の中の怒りをさらに加速させた。
「ふーん…つまり俺は仲間の為に自らの命を犠牲にしたってことになってるわけね」
「そうだけど…違ったの…?」
「ああ、全く違うよ」
ノアは二人に事実を説明し、怒りが冷めやまないまま風呂に入った。
少し暑いぐらいの湯に浸かり、虚空を見上げながら今までの出来事を振り返った。
ダンジョンで毎回こき使われたり、ゼストに婚約者を襲われたり。
挙げ句の果てには死ねとまで言われて。
思い返してみると、本当に散々な人生だった。
(もし、もう一度やり直せるなら…)
ノアは出来るはずのないことを考える。
(誰にも邪魔されずに妻と田舎で暮らして、毎日ゆったりとスローライフ…)
いや待て。
「それだ!!!!」
誰にも邪魔されないところまで行けば…!
「それならスローライフを満喫できる!!!」
最初からそうすればよかったんだ。
無理にこんな苦悩を抱える必要なんてなかったんだ。
(俺は、最初から幸せになれたんだ!)
そんな衝動に駆られ、ノアは立ち上がってすぐに風呂から上がった。
そしてそのままの勢いで父のもとに向かった。




