100 強さ
長い月日が流れたある日の朝、ノアはいつものような時間にいつものように目を覚まし、早速一階にあるリビングに向かった。
「おはよう」
そうやっていつものようにリビングに入って挨拶をすると、そこには合計七人の挨拶の声が響き渡った。
「「「「「「「おはよう(ございます)」」」」」」」
結局いつものように最後に起きたらしいノアは料理ができるまでの間ソファに座ってゆっくりしようと考え、かなりのスピードでソファに向かった。
するとそこにはフェリスとの息子であるアノスが座っていて、ノアはその隣に腰を下ろした。
「ふぅ…今日寒くないか?」
「そうかな?母さんの魔法のおかげで結構あったかいと思うんけど」
「それはそうだけど、朝起きた直後ってやっぱ寒くないか?」
「それは確かにそうだね。でもそれなら朝に運動したら結構いい感じになると思うよ?」
「運動に行く過程で凍え死ぬから無理」
「それじゃあもう何もできないよ…」
朝の寒さの解決方法についてアノスに相談するも納得のいく言葉は出されず、むしろなぜかアノスに呆れられてしまった。
だがもう呆れられるのには正直慣れてきたため特に何かを感じるわけでもなくただソファに全体重を乗せてぐったりとした。
するのアノスからはさらに呆れられたようにため息を吐かれ、こちらに向かってジト目を向けてきた。
「そんなので仕事大丈夫なの…?最近雪が降るぐらい寒くなってきてるんだしちゃんと注意してないと本当に危ないよ?」
アノスは呆れつつもこちらのことを心配してくれている様子で、それに対してノアは胸に拳を当てて自信を持って言葉を返した。
「大丈夫だって。俺を誰だと思ってるんだ?」
「寒さと母さんに弱いいつもぐーたらしてる人だと思ってるよ」
「…お前言うようになったな」
小さい頃は何もモノを言えなかったヤツがとうとうここまで言うようになるとは。
ノアはそのことに喜びつつもこれからも辛辣なことを言われるのではといった不安を抱えつつ、ある程度は威厳を保つために少し口調を強めて言葉を放った。
「確かにアノスの言ってることは正しいかもしれないけど、俺だってやる時はやるんだぞ?特に仕事の時とかは気合い入れてプロ意識持ってやってるからな。そこに関しては割と自信あるから今度見学にでも来てみな」
「そうだね。いつか行かせてもらうよ」
これで父親としての風格を守ることができ…たのかは別として、とりあえず今のところはどうにかなったのでよしとして。
次にノアは視線を前に向け、今目の前で楽しそうにお茶会を開いている二人の少女に声をかけた。
「メアリー、リーリア。何を話してるんだ?」
そこにいたのはアメリアとの娘である双子の少女であって、ノアは二人の話に混ざるつもりで話の内容について尋ねた。
すると二人は無邪気な笑みを浮かべ、こちらに話の内容についての説明を始めてくれた。
「お父さんとお母さんはどっちの方が強いのかついて話していたところだよっ」
「え、ナニソレ」
訳がわからず二人に対して訊き返すと、二人は当然の如く優しい笑みを浮かべながら説明をしてくれる。
「まず家だとお父さんよりお母さんの方が立場が上でしょ?」
「なんで?」
「だってお父さんしょっちゅうお母さんに怒られてるじゃん」
「…」
否定できない。
ノアは最近毎日のように妻たちから説教を喰らっていて、娘たちもしっかりとそのことを知っていた。
そのためノアの方が弱いということは明確なようだが、どうやらこの話題の強さはそれだけの意味でないらしく、二人はさらに言葉を加えた。
「でもそれ意外だとお父さんの方が強いでしょ?例えば力の強さとか、実際に戦った時の強さとか」
「まあそうだな」
二人の言葉を聞いて自分があまりにも戦闘に特化しすぎていることに気づき、なぜかはわからないが少し悲しい気持ちになった。
でもこればかりは割と解決方法がないため仕方なく受け入れることにして、今は二人の話に耳を傾ける。
「だからどっちの方が強いのかなって話してたんだ」
「ちなみに今のところどっちの方が強いって考えてるんだ?」
「「お母さんだよ」」
「そんな気がした」
訊くまでもないと思っていたがほんの少しの希望に賭けでみようとしたが、やはり現実はそううまくいかないようだ。
そんな風にしてとうとう娘にもそのような認識をされるようになったのかとかなりの絶望を感じたが、まだ弁明のチャンスはある。
(このままじゃこれからの俺の立場がねぇ…今のうちになんとかしておかなぇと…!)
そのうち娘よりも下の立場になるのではと危惧し、二人に対してしっかりと認識を改めさせるような言葉をかけ始める。
「二人が仮に母さんの方が強いと思っているんだとしても、俺たち家族は今までずっと支え合って生きてきたんだ。今の考えのままだと強い母さんたちが弱い父さんに支えられてるってことになるから、おかしくないか?」
「た、確かに…」
今はなんとなく思いついた言葉でなんとか二人の考えを揺らがすことに成功し、ここでさらに追い打ちをかけるべきだと言葉を紡いだ。
「お互い対等だからこそ家族っていうのは成り立つモノなんだ。俺たち家族が対等じゃないなら今頃俺たちは相当仲が悪いか、最悪離婚している可能性すらある。でも俺たちは現に仲良く暮らしているだろ?」
「う、うん…」
普段から夫婦のイチャイチャを見せつけられている二人はすぐにノアの言葉に納得し、考えを改めるために二人で見つめ合って話し合いを始めた。
「じゃあお父さんとお母さんの強さは一緒ってことだよね?」
「そういうことだと思う。まさかあのお父さんがお母さんと対等だなんて…」
なんかさっきから思ってたんだけど、子供たちから相当な物言いをされてないか!?
口を開けばお父さんはダメ人間だのお母さんに謝ってばかりのダメ人間だの言いやがって!(言ってない)
こっちは一家の大黒柱だぞ!
…まあ家ではそんな姿は全く見せていないから誤解されても仕方ないか…。
ノアは今更手遅れであることに気づき、今からでも入れる保険は無いのだろうかと思考を巡らせた。
だが勿論そんな都合のいい保険などなく、諦めて家ではいつものようにだらしなく生きることを決意した。
(まあいっか…この年頃の子供たちは普段だらしない親が外でかっこいい姿を見せた時のギャップで親に惚れるもんなんだから)
ノアはそんな事実無根なことを考えつつ、目線を双子の娘からキッチンにいるもう一人の娘に移した。
「セリアは相変わらずお母さんのお手伝いか」
セリーとの間の娘であるセリアは毎日のように母親の手伝いをしていて、今も三人と一緒に朝ごはんの支度をしていた。
そんな可愛らしい我が娘を発見したノアはすぐに立ち上がってキッチンに向かい、作業をしているセリアに声をかけた。
「セリアは毎日母さんのお手伝いをしてて偉いなぁ」「ん、ありがとう」
セリアはいわゆるダウナー系女子に育っていて、今もあまり喜びを表情に出さずに感謝を伝えてきた。
だがノアの目だけは誤魔化せず、セリアが心の中では喜んでいることを察知し、さらに甘やかしてやろうと頭を撫で始めた。
「よしよ〜し、セリアはいいお嫁さんになるぞぉ」
「そうかな?」
「ああ。まあ嫁にやるつもりなんてないけどな」
「お父さん、相変わらず独占欲が強い」
「当たり前だろ?だってセリアは世界一可愛い俺の娘なんだからな」
「か、可愛い…」
セリアは感情が表に出にくいタイプだが今回はちゃんと照れの表情を見せていて、まさしく年頃の乙女といった感じの可愛らしさを見せていた。
するとノアの心は完全にセリアに射止められてしまい、頭を撫でる手の速さが速くなっていってしまう。
「ねぇ、ノア???」
「!!??」
だがその瞬間背後にいたアメリアによって腕を掴まれてしまい、およそ女性とは思えない力で腕を握られる。
「イダイイダイ!!ごめん悪かったって!!」
「何が悪いのかわかってる?」
「そ、それは…」
その瞬間、またあり得ないほどの力で腕を握られて。
「ヂョ!?マジでイダイって…!!」
「ちゃんと何が悪かったのか言えるまでこうだからね」
この時はアメリアが鬼のように見え、ノアはもう適当に言葉を発するしかなくなった。
そんな親同士が喧嘩(?)をする姿を見ていた某双子はノアの有り様を見てボソッと本音を呟く。
「「やっぱお母さんの方が強いじゃん…」」




