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10 味方の背を見て


「う、嘘だろ…なんでこんなバケモノが…っ!?」


ダンジョンのボスモンスターを見た途端、ブライトネスのメンバーは全身の震えが止まらなくなった。


「こ、こんなの…今の人類に倒せるのか…?」


いつもは勇敢な魔法士のガランが今は初めてダンジョンに来て怯えているE級の冒険者のような風貌になっている。


そしてそのようになっている人物がもう一人。


「あり得ない…こんなところで死んでしまうの…?」


気の強い女魔法士のピリカも腰が抜けそうになりながらボスモンスターの姿を捉えている。


(ま、普通そうなるよな)


完全に怯えているパーティメンバーに対してそのような感想を抱きつつ、ノアはリーダーのゼストを見てみた。


「落ち着け!私たちならなんとかなる!!」


ゼストの目は怯えているように見えるが、彼は至って冷静にメンバーの統率を図った。


(おお、英雄に憧れているだけはあるな。でも…)


間違いなくゼストの力では敵わないだろう。


ゼストもそこまで馬鹿じゃないのでそれぐらいはわかっているだろうが、彼にとっては今がチャンスなのだろう。


S級以上のボスモンスターを討伐したパーティのリーダー。


そんな栄誉を得られれば、もしかすると英雄と呼ばれる日が来るかもしれない。


そういった事が彼の原動力となっているのだろう。


(…くだらないな)


懸命に立ち向かおうとしているゼストに対し、ノアは見損なったような目を向けた。


(自分のエゴでメンバーを殺す気か?どう考えたって俺たちじゃ勝てるはずがない)


冷静に分析すれば、勝算はゼロに等しい。


だがそれでもゼストはなんとか立ってボスモンスターに立ち向かおうとしている。


「お前たち!私について来い!必ず勝利をこの手に__」


その時だった。


ボスモンスターが大きな雄叫びを上げ、それと同時に自分の魔力を一斉に体外に放出した。


そして理不尽なほどの魔力量の差を見せつけられ、なんとか立っていたブライトネスのメンバーはその場で腰を抜かした。


「う、嘘…だろ…?こ、こんな事があっていいのか…?」

「この魔力…魔王軍の四天王に匹敵するのでは…?」


ブライトネスの魔法士二人組は完全に怯え、もう武器も握らずただボスモンスターを眺めるだけになってしまった。


「ああ…もう終わりだ…」

「神よ…どうか私に安らかな眠りを…」

「まだだ!!!!」


どうやらゼストだけはまだ諦めていないようで、彼は地面に腰をついたままノアの方を指差した。


「コイツを囮にすればいい!!そうすれば私たちは生き残れる!!」

「は????」


ゼストは全身を震えさせながら標的をノアに変えてきた。


そしてその作戦に流されるように魔法士の二人もノアを指差した。


「そうだ…そうだよ…!コイツがアレにやられている隙に俺たちが逃げれば…!」

「ええ…この役立たずを生贄に捧げれば…!」

「いやちょっと待ってください!?」


流石におかしいと感じたノアはいつもより強くメンバーに反抗した。


「流石にそれはおかしくないですか?俺は十分パーティに貢献しましたよね?ここまで来れたのだって__」

「うるせぇ!!私に指図するな!!!」


ノアはなんとか自分と功績を説明しようとするが、ゼストもガランもピリカも全く聞く耳を持たず。


「どこが貢献しただぁ?せいぜい荷物持ちぐらいだろうが!」

「全くです。死にたくないからといって嘘はよくありませんよ」


全員ノアの話を否定し、そしてゼストはある過去を掘り返してきた。


「なぁノア。貴様、先日私に相当な無礼を働いたよな…??」

「っ…!?そ、それは…!」

「いかなる罰でも受け入れる。そう言ったのは貴様だろう…?」


まさかこの男…。


「よし、あの件は貴様が囮になって死ぬ事で不問としよう」


は????????


(何言ってんだコイツ…自分が言っている言葉の意味をわかってるのか…?)


ゼストは自分の権力を最大限に活用して守るべき民であるノアを囮として差し出して自分は生き残ろうとしているのだ。


本来王は民を守るためならば自分の首を差し出すモノではないのか…?


そんな疑問が頭の中をよぎっている間にピリカに拘束魔法をかけられ、その場で動けなくなってしまった。


「じゃあなノア!あの世で楽しく生きろよ!」

「あの世ならもう死んでますよ笑」

「あ、そうだったな」


三人は笑いながら走り去って行った。


そんな腐ったメンバーに対し、地面に縛り付けられたノアは侮蔑の目を向けて小さくこう言った。


「あ〜、うっっっざ」


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