・38 (第二部 王城編 完結)
エーリヒは、あれからも冒険者として活動している。
あの港町での使命依頼で、人を助けることに目覚めたらしい。もちろんクロエも同行して、地方を見て回り、それをアリーシャとジェスタに報告している。
カサンドラがいなくなったので、アリーシャはもう大量の魔石を必要としていない。
でもなかなか地方まで視察に行けない王太子に変わって、地方の様子を見て回ってほしいと言われて、クロエは承知していた。
今はエーリヒとふたりで、国中を回って依頼を果たしながら、地方の問題的を見つけて王太子のジェスタに報告している。
そして、あの断罪パーティから一年後。
クロエはマードレット公爵家の養女のまま、婚約者だったエーリヒと結婚する。
エーリヒは貴族の養子にはならなかったが、冒険者として名を上げ、クロエと結婚するのに何の障害もない。
むしろマードレット公爵からは、クロエの婿として家を継いでほしいと言われているようだ。王太子に嫁ぐアリーシャはひとり娘で、いずれふたりの子どもがマードレット公爵を継ぐことになっていたらしい。
そんな話があるのなら、受けるわけにはいかない。
そう言ってクロエもエーリヒも辞退し続けていたが、最近はアリーシャやジェスタまで、爵位を継いでほしいと言うようになってしまった。
今はまだマードレット公爵が現役で働いているので、その話も先延ばしにしている。
でもクロエとエーリヒも、今は以前のようにこの国を出たいと思っていない。
今では国内を自由に旅することができるし、アリーシャたちと協力して、もっとこの国を良くするために働きたいと思っている。
それが、クロエの使命だ。
結婚式の当日。
クロエは、朝から支度に掛かりきりで、とても忙しかった。
来年、王太子妃となるアリーシャが、率先して色々な準備を整えてくれた。
「私も来年結婚だから、とても勉強になるわ」
そう言って、甲斐甲斐しくクロエの面倒を見てくれた。
もちろんリーノも、友人として参加してくれる。
どちらの姿で参加するか悩んでいたので、可愛い姿がいいと言ったら、喜んでドレスの用意をしていた。きっと可愛らしいだろう。
この結婚式が終わったら、新婚旅行にジーナシス王国に行くことになっている。リーノが案内してくれて、魔女たちにも紹介してくれるらしい。
今から、とても楽しみだった。
結婚式には、たくさんの人たちが参列してくれた。
クロエがマードレット公爵家の養女になってから、できた友人もいる。移民であってもクロエを差別しない、心優しい人たちだ。
エーリヒの方には、ギルドの人たちや知り合いの冒険者たちが参列してくれたようだ。
喧嘩ばかりしていたエーリヒにも、いつの間にか友人ができていた。窮屈そうなスーツに身を包んだ冒険者たちが、笑顔でエーリヒを祝福してくれている。
中には、クロエが魔石造りに励んでいたときにお世話になったギルド員、ロジェの姿もあった。
エーリヒを祝福してくれる人たちが、こんなにいる。
そう思うと嬉しくて、涙が溢れそうになる。
ベールが上げられ、顔を上げると、愛しそうにクロエを見つめるエーリヒと目が合った。
「クロエ、愛している」
「私も、愛しているわ」
目を閉じると、温もりが唇に宿る。
あの日の逃亡は、こんなに優しい未来に続いていたのだ。
友人たちの祝福の声を聞きながら、クロエはエーリヒと王城から逃げ出してからのことを、ひとつひとつ思い返していた。
思えば前世の記憶を思い出してから、ずっとその知識に助けられてきた。でも前世の自分は未婚だったから、結婚するのは、これが初めてだ。
これからは、初めてのこともたくさんあるかもしれない。
でもエーリヒと一緒なら、きっと大丈夫。
クロエは、心からそう信じていた。
※第二部完結です。
かなり時間がかかってしまい、申し訳ございませんでした。
次は最終の第三部、新婚編になります。
ゆっくり更新になってしまうかと思いますが、最後までどうぞよろしくお願いいたします。




