表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【書籍化・コミカライズ】婚約破棄されたので、好きにすることにした。  作者: 櫻井みこと
王城編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

67/82

・23

「それにしても、どうして私にだけ見えたのかしら」

 考えられるのは、クロエが魔力を持っていたからだ。

「まさか、魔法を使っていたのか?」

「そうだとしたら、厄介だね」

 魔法を使う魔物など、今まで発見されたことがない。

(向こうでは、猿とか知能が高いって言われていたけれど、この世界の魔物もそうなのかな?)

 この国では、人間でも魔法を使えるのは少数である。

 それなのに魔物が魔法を使い出したら、対応できる人間は限られている。

 ギルドに戻り、それを報告すると、案の定大騒ぎになった。これからエーリヒが倒した魔物を回収し、その分析に取りかかるようだ。

 おそらくこの件で、魔法の重要性がますます高まる。

 魔石の価値も高騰するかもしれない。

 そして、魔術師ではなく魔導師を捕縛し、魔法を使う魔物を倒したエーリヒの名声も、さらに高まっただろう。

 この依頼の事後処理や手続きのために、それから二、三日ほどこの町に滞在しなくてはならない。

 その間クロエは、町を歩き回ってみたり、アイテムボックスに入れておく食材や薬を買い込んだりした。

 クロエは魔法によって病気にならないが、エーリヒのために色々と用意しておくことにしている。

 病気は、魔法では治せないからだ。

 この町には移民も多く、クロエがひとりで出歩いてもそれほど目立たない。それなのにエーリヒは、クロエがどこに行っても離れずに、ずっと傍にいてくれる。

 町を歩いていて少し気になったのは、クロエたちが魔物退治をした方の道は人で賑わっているのに、隣町に続く道には、あまり人がいないことだ。

 屋台でそれとなく理由を聞いてみると、隣町はあまり他の町とは交流しないそうだ。

 とても閉鎖的な町らしい。

 何となくそれを聞いていたクロエは、ギルドから戻ってきたエーリヒに、次の指名依頼が隣町からだと聞いて、驚いた。

「あそこの屋台で、向こうの町は閉鎖的だって聞いたけど……」

「それでも魔物が出れば、依頼せざるを得ないのだろう。歓迎はされないかもしれないから、依頼を受けるかどうかは向こうで決めたほうがいい、と言われた」

 依頼を斡旋するギルドがそんなことを言うくらい、向こうの態度は酷いものなのだろうか。

 その隣町までの移動手段について、少し迷った。

 どうやら、歩いても半日もかからない場所にあるらしい。

 貴族ならどんなに近くても馬車移動だろうが、荷物もすべてアイテムボックスに入っているので、手ぶらで歩いて行くことも可能だ。

 道もしっかりと整備されている。

 そして途中に大きな池があり、遊歩道のようになっているらしい。

「近いみたいだし、歩いていく?」

 そう提案すると、エーリヒも同意してくれた。

「そうだな。クロエとゆっくり景色を見ながら歩くのも、良いかもしれない」

 こうして、次の町まで徒歩で行くことが決まった。

 いつも宿を引き払うときは、次の宿の手配と馬車を頼んでいた。だが今回は、依頼を受けるかどうか、向こうの町に到着してから決めることになっている。

 だから何も頼まずに、宿を引き払って町を出た。

 まだ早い時間だったせいか、人も姿はなかった。

 だが反対側の道には人がたくさんいたことを考えると、本当にこの先の町との交流はあまりないのだろう。

(どんな町なのかな……)

 よそ者を嫌う町だというから、あまり歓迎されないかもしれない。

 そんなことを思いながら歩いていると、右側に大きな池が見えてきた。

「ここが遊歩道ね」

 大きな池の周りには道があり、池を一周できるようになっていた。

 その周辺には花も咲いていて、景色を眺められるようにベンチも設置してある。

「少し歩いてみるか」

「うん」

 エーリヒにそう言われて、ふたりで池の周りを歩く。

 水草の浮いた池には水鳥がいて、呑気に泳いでいる。

 天気も良く、明るい日差しが差し込んで、とても気持ちが良い。

 人がいないので、エーリヒもクロエもローブのフードを外し、ゆったりとした気分で過ごすことができた。

「お弁当を持ってくればよかったね」

「そうだな」

 そんなことを話しながら、そろそろ町に向かおうと、立ち上がる。

 歩きながら周囲の景色を眺めていたクロエは、花畑の向こう側にも道があることに気が付いた。

(きっと向こうにも集落があるのね……。ん?)

 クロエは足を止める。

 道の途中で、誰かが倒れているように見える。

「どうした?」

「あっちの道に、誰かが倒れているの!」

 そう言うと、急いで駆け寄る。

 エーリヒもすぐに、クロエに続いた。

 昨日と同じように、土を踏み固めただけの簡素な道に、ひとりの少女が倒れていた。

 色素の薄い金色の髪に、白い肌。

 見かけだけなら貴族の子どものように見えるが、こんなところにひとりでいるはずかない。それに、クロエと同じように、冒険者風の服装をしている。

 北方からの移民なのかもしれない。

 そうだとしても、子どもがひとりでいるのは不自然だ。

「とにかく、手当をしないと」

 熱が出ているのか、赤い頬をして苦しそうに息をする少女を自分のローブで包んで抱き上げた。

 案の定、とても熱い。

「俺が運ぶ」

 たとえ華奢な少女でも、クロエが運ぶには少し不安定で、それを察したエーリヒが抱き上げてくれた。

「ありがとう」

「クロエが転んで怪我でもしたら、大変だから」

 そう言いながらも、慎重に彼女を運んでくれた。

 だが目的地の町では、入り口に警備兵が立っており、病気の少女を連れたクロエたちの立ち入りを拒否した。

「周辺の移民の集落で、熱病が流行っているって話だ。この町に、そんなものを持ち込まれたら困るんだよ」

「そんなものって……」

 少女をもの扱いする警備兵の男に、クロエは絶句した。

 少女にローブを渡してしまったので、今のクロエは顔を隠していない。

 男の怒鳴り声にこちらを見た人たちも、クロエの移民風の容貌を見て、嫌な顔をする。

「また移民だわ」

「警備兵がいてくれて、本当によかったわね」

 彼女たちは、病気で苦しんでいる少女を見ても、何も思わないのだろうか。

「そうか」

 悔しくて何も言えないクロエの代わりに、エーリヒが答える。

「町に入れないのならば、仕方がない。この町から依頼された魔物退治は、引き受けられないと伝えておいてくれ」

「魔物退治?」

 警備兵は唖然としたあと、やや焦りだした。

「もしかして指名依頼の? それは困る。あの魔物の被害者が、たくさんいるんだ」

「クロエ、戻ろう」

「……うん」

 エーリヒは警備兵を無視して、クロエを促して歩き出した。

 警備兵は何か喚いていたが、さすがにクロエも擁護する気にはなれない。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ