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【書籍化・コミカライズ】婚約破棄されたので、好きにすることにした。  作者: 櫻井みこと
王城編

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・3

「それなら、マードレット公爵家があなたの後見人になるわ。そうすれば、王都の外の依頼も受けられるようになるでしょう」

 アリーシャが、そう提案してくれた。

(そういえば、ギルドの説明でその制度の話を聞いた気がする……)

 移民や外国人でも、貴族が後見人になれば、仮の身分証明書が発行され、王都の出入りが可能になる。

 主に貴族が、優秀な冒険者を囲い込むときに使っていたそうだ。

 だがその冒険者が問題を起こせば、後見人の貴族の責任になる。

 実際、昔はその制度を悪用して、敵対勢力を陥れるような事件が多発したらしい。

 そのため、今はほとんどの貴族が独自に騎士団を所有していた。

 そんなこともあって、今はあまり使われていない制度だと言っていたし、貴族と関わり合いになるつもりはなかったので聞き流していた。

 だからマードレット公爵家がクロエとエーリヒのために、そこまでしてくれるとは思わなかった。

 エーリヒも喜ぶどころか、疑うような目でアリーシャを見ている。それと引き換えに、何か要求があるのではと思っているのだろう。

「カサンドラ王女殿下の手から逃れて、ようやくふたりの暮らしを始めたのに、ここに呼び戻してしまったのは私よ」

 アリーシャは、そんなエーリヒの視線を正面から受け止めて、そう言った。

「私は貴方たちのこれからの人生を、変えてしまうほどの選択をさせてしまった。だから、貴方たちの安全と、行動の責任は私が……。マードレット公爵家が担うわ」

「そこまで……」

 さすがに驚いて、クロエは声を上げて立ち上がる。

 移民だから、国籍を持たない庶子だからと、ふたりを侮る者がいたとしても、マードレット公爵家が後見人になると聞けば、態度を変えるに違いない。

 立場によって関わる人たちの対応が変化することは、移民として暮らしてきたクロエが一番よく知っている。

 もちろんクロエもエーリヒも、自分から問題を起こすことはしない。

 だが、王女のお気に入りであったエーリヒを利用しようと企む者。自分たちの計画の妨げになるから、消してしまおうとしている者は存在する。

 そんな人たちに襲われたら、反撃しないわけにはいかない。

 クロエもまだ、自分の力を自在に使うことはできないが、それでもエーリヒを守るためなら、全力で戦うと決めている。

 もしそうなったとしても、マーガレット公爵家が責任を持つと言ってくれているのだ。

 しかも、相手は貴族だけではない。

 国中から恐れられているカサンドラ王女も、エーリヒに執着している。

 彼女はこの国で唯一の魔女だが、この大陸の最北端にあるジーナシス王国には、数人の魔女がいると聞いた。

 カサンドラの力は、その魔女たちに比べるとかなり弱いようだが、それでも目の前の人間を自由に操ることはできる。

 それにジーナシス王国の魔女たちは、互いに力が暴走しないように制御し合っているが、唯一の魔女であるカサンドラには、その枷がない。

 だから国王は、その力を制御するために、ジーナシス王国から特殊な材料を仕入れて、魔法が使えない部屋を作ったそうだ。

 でもカサンドラがその部屋に入れられるのは、国王がそう指示したときだけ。

 周囲の人間を虐げたり、我が儘を言うくらいなら放置してきた。

 貴族であった頃のクロエは知らなかったが、国王は正義感が強く、頻繁に国王に意見する王太子を疎ましく思い、魔女のカサンドラを王太女にするのではないかという噂もあったようだ。

 そのことに不安を抱いたアリーシャは、王太子である自分の婚約者を守るために、ジーナシス王国に留学してまで魔法を学んだ。

「私たちは、貴族だけが優遇されるこの国を変えたいと思っている。そのためには、ジェスタは王にならなければならない。敵対する相手は、あの魔女だもの。手段を選ぶつもりはなかった。だから、こちらに引き入れた」

 アリーシャはそう言って、クロエに座るように促した。そう言われ、少し冷静になって、おとなしく従う。

「でも貴方たちにも、きちんと望む形で幸せになってほしい。そのための協力は惜しまないつもりよ」

 一方的に利用するのではなく、運命をともにする覚悟がある。そう言ってくれたのだ。

 そこまでの覚悟を示してくれたのだから、疑うことはできなかった。

「じゃあ私も、王都の外に出られる?」

 アリーシャを信じると決めたクロエだったが、エーリヒはまだ、警戒を解こうとしない。

 エーリヒは貴族、さらに女性に不信感を持っている。言葉だけでは、そう簡単に信じることはできないのだろう。

 でもこればかりは、ここで問答をして解決するようなことではない。

 だからクロエは、話を逸らすようにそう言った。

「ええ、もちろん。クロエはもう私の義妹で、この国の貴族の一員だもの」

 マードレット公爵家の養女になるときに、クロエは一時的に魔法ギルドを脱退している。貴族籍を得て、身分が変わったからだ。

 もう一度登録することも可能らしいが、サージェの件で少しギルドに不信感を持ってしまったので、今は保留にしている。

(でも、エーリヒの依頼に回復員として同行するのは、アリよね。そうやって個人的に、雑用係や戦闘補助員を雇う冒険者もいるらしいし)

 ふたりで、王都の外に出かけられる。

 それが嬉しくて、ついエーリヒの腕に抱きつく。

「やっと外に出られるよ」

「そうだな。一緒に行こうか」

 優しい顔でそう言った彼の姿に、ほっとする。

 王都の外で、ふたりきりなら、エーリヒも以前のように笑ってくれるだろう。

 この国を変えようとしている王太子ジェスタと、その婚約者であるアリーシャの手助けをしたい。

 そう思って貴族社会に戻ったことを、後悔はしていない。

 それでもエーリヒの笑顔が少なくなったのは、やはり気掛かりだった。

 クロエが自分を認識できなくなる魔法を掛けたように、エーリヒにもそれをしようと思ったことはある。

 でも、最初から別人になりすましていたクロエと違って、エーリヒは元騎士であることを隠していなかった。彼の父であるアウラー公爵や、クロエの父程度なら、それでも騙せたかもしれないが、向こうにはクロエよりも力を使い慣れている、魔女のカサンドラがいる。

 しかも彼女は、エーリヒに執着していた。

 僅かな違和感でも気が付き、それが同種の力であると感づいてしまう可能性がある。

 クロエが魔導師ではなく、魔女だと認識されてしまうのが、一番怖い。

 エーリヒはそう言って、クロエの安全のために、自分はそのままでいいと言ったのだ。

(たしかに、まだ魔法を使い始めたばかりの私では、もう何年も魔女として、思いつくまま力を使っていた王女には、勝てないかもしれないけど……)

 今はとにかく経験を積んで、王女カサンドラにも勝てるように、練習するしかない。

 それには実践が一番だろう。

 エーリヒが依頼を受けて王都の外に出るようになったら、クロエも同行して、できるだけ魔法を使ってみようと決意する。

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